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知取気亭主人の四方山話
 

『ゾロ目誕生日に国際協力を考える』

 

2015年4月22日

つい先日、6度目のゾロ目となる誕生日を迎えた。気が付けば、若い頃には思いも及ばなかった年齢まで長生きしてしまった。その上、生死の境をさまよう様な大病も患わないままこの歳まで来られたというのだから、有難い話である。ただ、ゾロ目の誕生日は、人生の中でそんなに回数迎えられるものではなくて、私も後わずかしか経験できない。

どんなに長生きしても、ギネスブックに最高齢として登録される人でさえ、ゾロ目誕生日は10回が今のところ限度だ(100歳を超えたらトリプルと言うのかも知れない)。日本の様な世界有数の長寿国でも、多くの人は8回も迎えられれば立派なものである。日本人男性に限れば、80歳ほどが平均寿命であるから、7回祝うのが平均的な回数だろう。だとすると、私も何とか後1回ぐらいは迎えられそうだ。しかしどうせ迎えるなら、長野県で推奨している標語「ピンピンコロリ」ではないが、健康寿命を維持したまま迎えたいものである。

話は変わるが、私の父が亡くなった時の年齢は36歳である。したがって、私は既に父より30年も長生きしたことになる。当時の平均寿命がどれ程だったか、太平洋戦争の影響もあって正確なところは恐らく分かっていないのだろうと思うが、そんな時代であっても、父の36歳はいささか早すぎる。ところが、世界の貧しい国の中には、つい最近までそんな父の年齢よりもまだ短い平均寿命の国があった、というから驚いてしまう。西アフリカに位置する シエラレオネである。

シエラレオネは、第580話「アウトブレイク」で取り上げた、ギニア、リビアと共にエボラ出血熱の感染拡大地域として、一時大々的に報じられた3カ国のひとつである。その シエラレオネの平均寿命は、今から10年余り前の2002年の国連児童基金(ユニセフ)の統計では、わずか34歳だったという。父が逝った年齢よりもまだ2歳も短い。それから9年後の2011年に国連が発表した「人間開発報告書」に依れば、47.8歳にまで延びたらしいが、それでも、国連に加盟している193カ国中最悪の年齢だという。いわゆる最貧国のひとつである。

6度目のゾロ目誕生日を迎え、父より丁度30年長生きさせてもらった年の記念にと、そんな衝撃的な国、シエラレオネを取り上げた本を読んでみた。山本敏晴著「世界で一番いのちの短い国  −シエラレオネの国境なき医師団」(小学館文庫)である。なお、前述のシエラレオネに関するデータは、全て本書に依っている。

著者の山本敏晴氏は、医師である。本の副題にも書かれている様に、シエラレオネには「国境なき医師団」の一員として参加していて、本書はその時の体験記である。ただ、珍しい体験や見聞を面白おかしく紹介している一般的な体験記とは、一線を画す本である。著者の目線は、常に「本当に意味のある国際協力とは何か?」に置かれていて、本書の中に登場する諸々の体験談は、 シエラレオネを含めた途上国に興味を、そして国際協力に興味を持ってもらうための材料に過ぎない。

赴任地にトイレも公共水道も無いという環境は、私が30年ほど前に4ヶ月暮らしたネパールの田舎とよく似ているが、国際協力のスタッフも同じような環境で生活しなければならないというのは私の体験よりずっと苛酷だ。そんな過酷な状況の中で、限られたスタッフと限られた資材、そして限られた交通手段を駆使して働くさまは、本当に頭が下がる。その一方で、そういった過酷な状況の中でしばしば起こるスタッフにまつわる騒動は、美談として捉えがちな国際協力の裏側を見事に表現していて、人間臭くて面白い。迷惑を被った著者にしたら憤慨ものだったに違いないが、そういったものも含めて、それが途上国における国際協力の現実なのだろう。

国際協力の現実と言えば、私などは聖人君子の集まりと思っていたが、「国境なき医師団」に参加している人達の実に多様な参加理由には、正直驚かされる。本書にはその理由が17個挙げられているが、実に人間臭くて、ある意味ホッとしている。全ては紹介できないが、思わず頬が緩んだ理由を幾つか転載しよう。

@旅行するのが好き。世界を飛びまわるのが好き。旅費は組織に出してもらえる。

A祖国の社会で適応性がなく、普通の会社員などができない。

B会社での失敗、家族や恋愛の問題など、過去のしがらみを断ち切りたくて参加。

Cなんとなく、良いことをちょっとしてみたい(深い考えはない)。

などである。これを読むと、結構国際協力が身近なものに思えて来る。しかし、実際はそんなに生易しいものではないのだが…。

ところで、本書を読むと、帰国するまで下痢が続いていた自身の健康も含め、環境衛生の考え方そのものが未発達の国の不衛生さがありありと伝わってくる内容で、教育の大切さを改めて教えてくれる。それもあって、現地のスタッフに医療教育を施すのだが、そこには著者の「本当に意味のある国際協力とは何か?」の思いが込められている。

著者は医師の他に写真家でもあって、文中に挿入されている写真の何枚かは、過酷な状況をさりげなく写している。しかし、写真の多くはそういった過酷さを訴えるものではなく、あどけない子供の写真であったり、親子の写真であったり、スタッフの写真であったりと、人間を被写体としているものが多い。そして、そこに映っている人々の澄んだ瞳と、まっすぐにレンズを見る眼差しには悲壮感が感じられないから不思議だ。むしろ、人としての尊厳さえ感じてしまう。多分、写真家山本敏晴の愛情がそこにあるからなのだろう。

【文責:知取気亭主人】

  

 
「世界で一番いのちの短い国 
 −シエラレオネの国境なき医師団」


【著者】山本 敏晴
【出版社】 小学館
【発行年月】 2012/7/6
【ISBN】 978-4094087406 (4094087400)
【頁】 文庫: 317ページ
【価格】 669円(税込)
 

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