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知取気亭主人の四方山話
 

『表現力を磨く』

 

2015年6月17日

日本人の男性は、新渡戸稲造が説く「武士道」の影響を色濃く受けているのか、自らの主張をハッキリと述べる欧米人に比べ、総じて寡黙である。大正生まれは言うに及ばず、昭和生まれの世代も、その傾向が強いのではないかと思っている。私もその口で、「不器用ですから」の名言を残し昨年暮れに亡くなった、かの高倉健に、理想とする男の生き様を重ねた世代でもある。

家庭生活でもその傾向は強く、かつての笑い話ではないが、「おい、風呂、メシ」の三言で奥方との生活が成り立っている豪傑もいる、と聞いたことがある。そんな豪傑もストッキングの強度に反比例するかのように、今ではすっかり影を潜めているようだが、それでも、今もって奥方を喜ばせるような会話が出来るご亭主は、そう多くはないらしい。かくいう私も偉そうなことは言えないのだが、美容院に行って髪型を変えたとか、化粧を変えたなど、奥方の容姿の変化に疎い亭主殿も多いのではないだろうか。一言、「オッ、髪型を変えた?」とでも言えばいいのに、気恥ずかしさも手伝ってその一言がなかなか出ない。ところが、体型の変化だけはついうっかり口に出てしまう。そうすると、「不器用ですから」の言い訳も通用せず、奥方は俄然機嫌が悪くなるのである。

容姿以外で言えば、料理に関してもそうだ。「これ美味しいね」とか、「料理の腕上げたね!」とか、あるいはもう少しヨイショすれば「今日のは特別美味いね。店に出せるよ!」などと、感想を述べればいいのだが、黙々と食べるご亭主たちが意外と多いらしい。私はこれでも結構言う方だと思っているが、出されたものを黙々と食べるだけでは、何やら飼いならされたペットのように見えなくもない。せめて、「いつもより甘いよ」や「これ塩辛くない?」など味付けに関する簡単な感想や、それも言えなければ、「美味い、まずい」の一言でも良いから伝えれば意外と評価も上がるのだが、残念ながら評価を下げたままのご亭主が多い、と井戸端会議からは聞こえてくる。

では、何でも言えばいいのか、と言えば決してそんなこともなくて、その場の雰囲気に合った表現がすごく重要だ。間違っても、その場を一気に凍らせる表現は、その後も美味しい料理が並ぶ食卓を囲み、家庭生活を円満に波風立てずに過ごしたければ、厳に慎まなければならない。そのためには、その場の雰囲気を素早く察知する能力に加え、相手に喜んでもらえる豊かな表現力が求められる。

しかし、それでなくても口下手な日本人男性が、急に口が達者になり、豊かな表現を口にすることはまず有り得ない。それなりの表現力を身に付けるには、幼児が言葉を覚えていくように、他人を真似して覚えていくしかない。そのためにはお手本が必要だ。その良いお手本と考えたのが、テレビなどで見るソムリエの、普通の日本人ではとても真似できないあの豊かな表現だ。そんな、豊かな表現のほんの一端を、仲間の母上から教えてもらった。それなりのお年だと推察するが、「不器用ですから」を良しとする男子と違い、さすが女性だけあって豊かな表現力をご存じである。ただ、それを使いこなすことが出来るかが…。

教えて頂いた極上(?)の表現の一端を紹介しよう。まずは「樽香(たるこう)」だ。ワイン好きを任じているものの、ソムリエ並みの表現はからっきしの私にとって、初めて聞く表現だが、「樽香(たるこう)を感じる」という表現があるそうだ。「樽香」とは、その字の通り “樽の香り”という意味だ。ワインを熟成させる樽の材料として、日本で言うところのミズナラ、つまり楢の木が多く使われていて、その香りがワインに移るのだそうだ。香辛料の香りも添加されているものもあるそうだが、そんな微妙な香りをかぎ分け、言葉に表すわけである。今頃の食卓を私流に言えば、「糠香を“カスカ”に感じるナス」となるのだろうか。それは冗談にしても、ワインを飲んだことのある人なら分かると思うが、諸々の匂いの中から樽の香りをかぎ分けるとは、凄い嗅覚を持っているものである。

次に教えてもらったのは、「ストラクチャーのある」とか、「ストラクチャーがしっかりしている」とかで使われるという「ストラクチャー」である。英語の単語の意味としては「構造」ということだが、それが飲み物の味を表現するのに使われるのだからビックリだ。渋みの元のタンニンと酸味が強くて、やや飲みにくいワインに使われる表現らしいのだが、この味がそうだと教えてもらわないとマネしようにもマネできない表現だ。

真似できないと言えば、「スティールのような」もそうだ。日本語で言えば「鋼のような」ということになるのだが、酸味が強くシャープなエッジ(何のこっちゃ?)のワインの表現らしい。一体、どんな味のワインなのだろう。まさかとは思うが、刃物を舐めた時に感じる、あの一種独特な舌触りと匂いに似ているのだろうか。もしそうだとすると、あまり飲みたい気にはならないのだが…。

この「スティール…」に比べれば、何となく分かった様な気になるのが、「タイトな…」という表現だ。非常にタンニンが強く、どのフルーツの個性(樽香?)を持っているかも半別できないほどで、若い、非常に飲みにくいワインの表現だという。渋みであるタンニンとタイトは、何となくではあるが相通じる気がして、飲みにくさは伝わってくる。きっと、喉にタンニンが引っ掛かって、喉が狭くなり飲みにくくなる、そんな感じなのだろう。

しかし、こうしてみるとソムリエの表現を学んだとしても、言っている方も聞いている方も理解するにはそれなりの経験と理解が必要で、家庭生活での実践に今すぐ使うには難し過ぎる。唯一「洗練された」とか「エレガント」などの表現が使えそうな気もしないではないが、言われた奥方の歯が浮きそうな気もしないではないし、勘違いしてもらっても困るし…。  


【文責:知取気亭主人】


桑の実
(桑の実酒は旨いと聞いたが、どんな味だろう?)

  
 

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