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知取気亭主人の四方山話
 

『山登りと病』

 

2015年8月26日

季節とは正直なものだ。あれほど暑かったのに、お盆を過ぎた先週中ごろから、朝晩がグンと過ごし易くなってきた。1週間ほど前までの寝苦しかった、あの熱帯夜が嘘の様だ。日中の気温は今暫く真夏の余韻が残りそうではあるが、体を動かすのには心地良い季節がぼちぼちやってくる。その予兆なのだろう、吹く風が変わってきた。思わず顔をしかめてしまうほどだったあの熱風に比べると、随分と爽やかになってきたのだ。それに合わせるかのように、家の周りでは、虫の合唱が随分熱を帯びてきたし、栗のイガも大分大きくなり、秋の訪れを感じさせている。

こんな気候であれば、短い距離なら、日中でも歩いて行くのにそう苦痛は感じない。そう思わせる風に誘われて、つい先日、掛かりつけの医院に歩いて行ってきた。往復でも1キロあるかなしかだから自慢するほどのことはないのだが、いつもと違い、歩いても左程汗を掻かないのが良い。体を動かすにはもってこいの季節が、直ぐそこまで来ている。

我が家の主治医であるT先生に、そんな季節の話題を振ると、面白い経験談を話してくれた。これから暫く登山シーズンが続くが、登山者の中で、虫垂炎になる人、俗な言い方をすれば“盲腸”になる人が結構多いのだという。夏山のシーズン中、白山や立山などの山小屋には若手の医師が詰めているそうだが、自らの経験に照らし合わせても、体調を崩して訪れる人の中で“盲腸”の人が意外と多いという。素人考えでは、高山病や怪我がダントツに多いのかと思ったが、どうもそうではないらしい。何故、高山病や怪我ではなく“盲腸”なのだろう。

その“盲腸”だが、診断をどうするかと言えば、触診や問診などによる症状のチェックに加え、最後の決め手は“白血球が極端に多いかどうか”だ、と以前伺った事がある。ところが、山小屋には下界で備えている様な白血球の数を調べる装置がないらしく、採血した血を顕微鏡で調べ、直接数を数えるのだという。“盲腸”の患者が一番多いかどうかは別にして、顕微鏡まで用意して置くということは、それまでの経験がそうさせたのであって、かなりの確率で患者が出るということなのだろう。

しかし、手術設備の無い、救急体制も整っていない山の上で、何でまた命にかかわる様な病気を発症するのだろう。好き好んでいるのでないことだけは確かだが、山には魔物が住んでいるのだろうか。それは冗談だが、山小屋に詰めている医師の仲間内では「気圧の関係ではないか」と診たてている、と教えてくれた。

気圧が下がったために胃腸の調子を崩し、それが引き金になって“盲腸”になった、という図式らしい。気圧と健康は結構密接な関係があって、山登りの最中に持病が悪化して往生する人達が結構いるらしい。いつも診てもらう側にいると気付かないが、“盲腸”以外にも、気圧が下がると顕在化する病が意外とあるらしい。  

アレルギー疾患もそのうちの一つらしいが、虫歯も、痛み出して駆け込む人が結構いるらしい。「海外に長期の出張や旅行に出かける際には、事前に、虫歯の人は治療を、歯に違和感のない人でもチェックを受けておくのが良い」というのがトラベラーの鉄則らしいが、山登りを趣味とする人達の中には、「国内の山ぐらい」と侮っている人が多いということなのだろう。私も経験あるが、歯痛ほど神経に触るものはない。脳に近い分だけ痛みも半端でなく、余りの痛さに、大人でも涙を流す人さえいる。山小屋に駆け込んだ人は、きっと登頂の喜びや、爽快感や達成感を味わうどころではなかった筈だ。お気の毒、と言うしかない。

実はこのような「気圧と病の関係」は、医学の世界では既に知られている事らしい。それは、以前この四方山話の第608話「成る程そういうことだったんだ!」で紹介した本、「疲れない体をつくる免疫力」(安保徹著、三笠書房、知的生き方文庫)にも書かれていて、ストンと腑に落ちた記憶がある。そこで皆さんにも「成る程!」と合点して頂くために、そこの部分を紹介しておこう。

著者の安保徹氏は、気圧と自律神経の関係に注目して、「…気圧が低い状態では、酸素が少なくなり、血液中の酸素分圧が低くなって、副交感神経が優位になりがちです」と説明している。気圧が下がれば酸素濃度も低くなるのは良く知られているところだが、酸素濃度の低下に伴って副交感神経が優位になる、というのがミソである。

では「副交感神経が優位になるとどうなるのか」というと、本書によれば、神経伝達物質がより多く分泌されるため、痛みや痒み、或いは味覚や嗅覚などの知覚が過敏になり、痛みや痒みをより感じやすくなるのだという。そう説明されると、気圧が低い高山でアレルギー疾患や歯痛が悪化するのも理解できる。また、交感神経と副交感神経のバランスが崩れると腸の具合が悪くなる、とT先生に教えてもらった事があるが、気圧が低くなって胃腸の調子を崩し“盲腸”を発症した、という図式も根拠のない絵空事ではないことが分かる。

しかし、教えて頂いた「山登りと病と因果関係」を知れば知るほど、ヒトの健康にとって自律神経の微妙なバランスを保つことが如何に大切であるか、が良く分かる。そういう意味では、山登りをされる方は、登山技術ばかりでなく、是非崩れたバランスを修正する方法も身に付けて、楽しんで頂きたいものである。なお、紹介した「疲れない体をつくる免疫力」には、自律神経の調整法も含め、免疫力を高める方法が詳しく書かれているので、座右の本としていつもリュックの中に入れておくことをお勧めする。満天の星を見ながら免疫力を高める、そんな素敵な健康法が実践できるかもしれませんぞ!  


【文責:知取気亭主人】


ヒメイワダレソウ

  
 

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