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知取気亭主人の四方山話
 

『人間のおごり』

 

2015年11月18日

13日の夜、パリ市とその郊外で、凄惨な同時多発テロが発生した。ドイツとのサッカー親善試合が行われていた国立競技場や、ロックコンサートが開かれていたコンサートホール、更にはカンボジア料理や日本食のレストランなど、6カ所でほぼ同時に銃撃や自爆テロが惹き起こされ、多数の死傷者が出た。今、世界は怒りと悲しみに包まれている。

報道によると、日本時間の16日現在、死者は129人にも上り、負傷者も多数出ていて、この内100人近くは重体だという。まだ亡くなる人が増えるのではないか、また同じようなテロが世界各地に広がるのではないか、本当に心配だ。しかし、何の罪もない一般市民を殺戮するとは、断じて許せない。イスラム過激派のISが犯行声明を出しているが、世界中から非難の声が上がっている。当たり前だ。どんな政治思想があるにせよ、暴力で打開を図ろうとするのは時代錯誤も甚だしい。

もっとも、世界を見渡すと、暴力に頼ろうとするのは今回のテロばかりではない。力で権益を拡大しようとする国さえもある。過去の歴史を振り返れば、そういった考え方の行く末は惨めなものなのに、一向に歴史に学ぼうとしない。地球の歴史が46億年、それに比べれば、文明を持った人間の歴史など高々5千年ほどしかないのに、「地球の支配者は俺たちだ!」ぐらいに思っているのだろう。愚かな人間の「おごり」の何物でもない。高等生物だと言われている我々人間の命が、実は下等と思われがちな細菌にさえ支えられているのに、である。人間は、どんなにおごり高ぶっていても、細菌がいてくれなければ排便さえままならないのだから。

最近、「腸内フローラ」という言葉をよく聞くようになった。人間の腸内には、ビフィズス菌や乳酸菌などの“善玉菌”やブドウ球菌などの“悪玉菌”、そして時によって善玉にも悪玉にもなる大腸菌などの“日和見菌”に大別される、100種類以上とも言われる多種多様な細菌(腸内菌)が生息している。この腸内菌が種類ごとにまとまって生息している様子を、お花畑にたとえて「腸内フローラ」(腸内細菌叢)と呼んでいるのだが、このフローラのバランスが崩れると下痢になったり便秘になったりする、と言われている。

この腸内フローラの善玉菌を増やすことによって健康な便通を保とうと、多くの人はヨーグルトを食べたり、ビフィズス菌の錠剤を飲んだりして、涙ぐましい努力をしている。私も10年ぐらい前から便秘気味になり、ヨーグルトを毎朝食べているのだが、快便というにはほど遠い日々が続いていた。ところが、知り合いに教えてもらった玄米で作った甘酒を飲むようになって、あら不思議、これまでが嘘のように快便が続いている。甘酒を作るのに使用した麹菌が、腸内フローラのバランスを整えてくれたに違いない。この様に、人間の体は細菌のお蔭で健康を保つことが出来ている。そんな細菌に光を当てた記事が、日本経済新聞(以降、日経と記す)に載っていた(7月19日)。嫌われ者のイメージが強い細菌だが、驚くべき能力を持っていた。

人間の体には約37兆個の細胞があるが、人体に住みついている細菌(腸内菌も含め、総称して常在菌という)は、それを遥かに超え、種類にして約1,000種類、数にして約1,000兆個にも上るという。凄まじい数だが、体のどんなところに住みついているのだろうか。主だったところでは、もっとも多いのが先程の大腸で約1,000兆個、次に多く約1兆個住みついているのが3か所あって小腸と泌尿生殖器と皮膚、また唾液によって清潔に保たれていると思っていた口腔にも約100億個いて、さらにはピロリ菌に代表されるのだろうか強酸の胃の中にも約1万個もの細菌がいるのだという。自覚は全くないが、ほぼ全身に住みついている事が分かる。これらの細菌たちが、排便の例に示したように病気になるのを防いだり、消化できない食物を分解して栄養素を供給したり、時には精神状態まで左右していたりする事が解明され始めているらしい。常在菌あっての我々人間の健康、という訳だ。

また、長男の嫁も同じことを言っていたが、この常在菌、赤ちゃんの成長にとっても大変重要らしい。子宮の中では無菌状態なのだが、産道を通ることによって母親の常在菌が赤ちゃんにくっ付き、出生後は人との接触や食事で取り込み、成長していくのだという。こうして、親など大人の愛情と庇護に加え常在菌の助けも借り、体力のない幼児には厳しい環境の中でも生きていけるようになるのだ。

このように自然状態の中でも人間にとって非常に重要な役割をしてくれている常在菌だが、最近の研究結果をもとに、積極的に治療にも使われ始めているらしい。腸内細菌が作る脂肪酸が腸管の炎症を防ぐ働きがあることが分かり、この効能を利用した治療が登場しているというのだが、その治療は何とも驚きの方法だ。何と、健康な人の“ふん便”を患者の腸に入れるのだという。名付けて、「ふん便微生物移植」。オランダでは、下痢を繰り返し発症した患者にこの治療を施して、顕著な効果があったらしい。日本国内でも、潰瘍性大腸炎などの患者を対象に、臨床研究を始めたらしい。私の知り合いにもこの難病で苦しむ人がいる。そういった患者を救うためにも、細菌の底知れぬ能力を大いに期待したい。

しかし、日経の記事を読めば読むほど、人間の体は常在菌に頼っている事が分かる。記事のタイトルには「体内菌、ミクロの『医師団』」と書かれているが、本当にその通りだと思う。生物の頂点に立つと思い込んでいる37兆個の細胞も、実は1,000兆個の常在菌の中で生かされているのだなぁ、とつくづく思う。そう考えると、“人間のおごり”なんて、本当に浅はかなものである。  


【文責:知取気亭主人】


平和の象徴にも影が差す?

  
 

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