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知取気亭主人の四方山話
 

『比較してみると…』

 

2015年11月25日

MRJが遂に飛んだ。11月11日、日本初の国産ジェット旅客機MRJが、試験飛行ながら初飛行を成功させた。国産としては、YS-11以来、約半世紀ぶりとなる旅客機だ。夜のニュースでその雄姿を何度も見たが、理系男子としては、ノーベル賞の日本人受賞とまた一味違う、心躍る嬉しいニュースであった。私でさえそうだったのだから、日本の航空機産業界にとっては、歓喜の初フライトだったに違いない。これを足掛かりに、是非、本当の意味での国産旅客機に育っていってほしいものである。

というのも、ジェットエンジンを筆頭に、まだ部品の約7割を外国に頼っているからだ。100パーセントとは言わないまでも、せめて今とは逆の7割を超える部品の国産化を、一日も早く成し遂げてほしいものである。そのためには、部品供給がビジネスとして成り立たなければ、参入してついてゆく企業も出てこない。そういった意味でも、MRJにはビジネスとしても是非成功させてほしい。そう願っている。

ところで、MRJは度重なる工程の延期によって、一時は「飛ばない紙飛行機」と揶揄されていた時期もあったという。確かに、紙飛行機では人を乗せて飛ばすことは不可能だ。しかし、MRJのように最大の旅客数が90人と言われる小型機であっても、いきなり実物を造って試験飛行をする、という暴挙はできない。紙飛行機とは言わないまでも、実物の何分の一かの模型を造り、風洞実験などを繰り返し行い、安全性を確かめることになる。

しかし、模型実験をやったからと言って、果たして実物に適用できるデータが得られるものなのだろうか。実は、レイノルズ数と呼ばれる慣性力と粘性力の比があって、この比を等しくすると、サイズが変わっても物体の様々な部分に作用する力の相対的な大きさは同じになる、という性質が知られていて、模型実験の有効性の根拠となっている。今回のMRJもこの性質を利用して成功にこぎ着けられた、と言っても過言ではない。

このレイノルズ数、昔習った記憶はあったのだが、すっかり忘れていた。ところが、ある本の中で見つけ、何となく記憶がよみがえってきた。記憶をよみがえらせてくれたのが、難しい理論が並べられた工学系の専門書ではなく、タイトルに引かれて買った、どちらかと言えば生物学の本である、というのが面白い。その本の名を、「ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学」(中公新書、本川達雄著)という。

本のタイトルからして面白いのだが、内容もこれまた面白い。目から鱗の話ばかりだ。タイトルに出てくるゾウは大きなサイズの代表として、一方ネズミは小さいサイズの動物の代表選手として名を連ねているのがお分かりかと思うが、この本は、この二匹だけを比較している訳ではない。生物と呼ばれる数多くの種類を比較している。では、生物の何を比較しているかというと、動物にとっての時間であったり、古生物学に関する島におけるサイズと進化についてであったり、現代人も気になるサイズとエネルギー消費量であったり、更には「走る・飛ぶ・泳ぐ」の比較など、思わず「へぇー」と声を上げたくなるようなものばかりだ。

例えば、時間に関して言えば、いろいろな哺乳類で比較してみたところ、「時間は体重の1/4乗に比例する」のが分かったらしい。具体的には、体重が16倍になると同じ事をするのに要する時間は2倍掛かる、という計算だ。もっと具体的な現象に当てはめると、寿命に始まって、大人のサイズに成長するまでの時間、赤ん坊が体内に留まっている時間などもこの法則に従っているらしい。更には、呼吸の間隔、心臓が鼓動する間隔、血が体内を一巡する間隔など、日常活動の時間もこの法則に従っているというから面白い。大きなサイズほど動きがゆったりとしているのも頷ける。

そして、この法則から導き出された興味深い数値がある。どんな哺乳類でも、サイズに関係なく、心臓は一生の間に約20億回鼓動を打ち、呼吸は約5億回して止まる、というものだ。言い換えると、心臓の鼓動を時計だとみなせば、ネズミより遥かに長生きするゾウも、ゾウよりも遥かに小さなネズミも、同じ20億回分だけ生きることになる。このように、1時間、60分、60秒といった我々が使う“物理的時間”の他に、ゾウにはゾウの、ネズミにはネズミの、またネコにはネコの時間というものがあって、それぞれのサイズに応じて違う時間単位を持っていることが分かる。これを“生理的時間”と呼ぶのだそうだ。まさに本のタイトルとなった「ゾウの時間 ネズミの時間」である。

この他、興味深い比較が盛りだくさんだ。レイノルズ数が出てくる「小さな泳ぎ手」の章では、冒頭にも出てきたYS-11が(グラフにはYS-11Aと記載されている)、魚や鳥などと比較表示されているのも何かの縁かもしれない。また、動物の細胞の大きさはどのサイズでも一定なのに、植物の細胞は動物よりもはるかに大きく一定でないのだが、その理由はかくかくしかじかだなど、興味が尽きない話題ばかりだ。今まで考えたことも無い視点で生物を分析しているのが、とにかく面白い。

秋の夜長を読書で楽しむには打ってつけの一冊である。

 


【文責:知取気亭主人】

 


 
『ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学』
 (中公新書)


【著者】本川 達雄
【出版社】 中央公論社
【発行年月】 1992/08
【ISBN】 978-4121010872(4121010876)
【頁】 新書: 230ページ
【価格】 734円(税込)
  
 

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