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知取気亭主人の四方山話
 

『昆虫が救世主?』

 

2015年12月9日

今月1日のYOMIURI ONLINEで、悲惨なニュースを読んだ。北朝鮮からアメリカに亡命した女性が、自伝の日本語版出版のために来日し、北朝鮮での生活の様子を読売新聞との会見で語ったものだ(http://www.yomiuri.co.jp/world/20151201-OYT1T50020.html)。現在22歳のこの女性は、13歳の時(今から凡そ9年前、2006年ごろか)母親と共に北朝鮮から亡命したというのだが、北朝鮮では、飢えに苦しみ「セミやトンボを捕まえては食べていた」というのだ。「多くの国民が飢えに苦しんでいる」と報じられているのは知っているが、昆虫まで食べていたとは思わなかった。しかし、最近日本海で見つかっている、北朝鮮籍と見られる木造船の、ホラー映画を思わせるようなむごたらしい遭難状況をみると、「さもありなん」と納得してしまう。それほど、かの国の窮状は悲惨なのだろう。

翻って、我が国ではどうだろう。飽食ともいえる今の日本では、「飢餓など、どこか遠いよその国の出来事」と思いがちだが、決してそんなことはない。「戦中戦後の食糧難の時代は食べられるものは何でも食べた」と母が話していたし、映画や記録フィルムで見る敗戦直後の様子は、当時の日本でも飢えに苦しむ市民が沢山いたことを窺わせ、胸が痛む。たかだか70年ほど前の出来事だ。最近でこそ、天気予報の精度向上や農作物の品種改良、或いは生産技術の発達によって、“飢餓”などというおぞましい言葉は聞かれなくなったが、それまでの日本では、数多くの市民が筆舌に尽くせぬ“飢え”を経験して来ている。

そんな先人の経験もあってのことだろう、我々日本人は、太平洋戦時下の捕虜から“木の根”と勘違いされたというゴボウに代表されるように、欧米人から見たら野山に生えている雑草にしか思えないようなものでも、例えば山菜やキノコなど、食べられるものは何でも食べてきた。そうしないと、飢饉の時など生き残ってこられなかったのだ。そんな不安定な時代が長く続いたのだろう、飽食の今のこの時代になっても、田舎に行くと、その名残を留める食材がある。それは、山菜ばかりでなく、海の生物にも言えるし、口に入れるには少々勇気のいる昆虫にも言える。例えば、一昔前までコメ作りには厳しい自然環境だった信州などには、食材となった昆虫がたくさんあって、今では珍味となっているハチの子然り、イナゴ然り、ザザムシ然り、カイコ然りである。

ただ、昆虫を食べてきたのは日本ばかりではない。熱帯地方の途上国にはカブトムシの幼虫をおやつ代わりに食べる子供たちもいるし、私が学生の頃に観た映画、「世界残酷物語」では、昆虫ではないが、生まれたばかりのネズミの赤ちゃんを食べる衝撃的なシーンもあった。あまりに衝撃的で今でも鮮明に覚えているが、北朝鮮や日本ばかりでなく、どこの国でも飢えをしのぐためには、「そんなものまで!」と思わず叫びたくなるような物まで口にするものなのだ。昆虫とてその対象になる、ということである。ところがこの昆虫、最近になり、食糧難の救世主として光が当たり始めたらしい。しかも、我々日本人にとって極めて身近な虫に光が当たっている、というから驚いている。

12月2日の日本経済新聞朝刊(以下、新聞という)によれば、秋の虫の代表選手の一つであるコオロギを、何と食用として飼育している企業が現れたというのだ。しかも、飼育どころか、既にコオロギの姿上げをホットドックのトッピングとして提供するレストランもある、というから驚きだ。飼育している企業は、フィンランドのヘルシンキと米オハイオ州のヤングスタウンにあり、「途上国とコオロギ」ではなく、「先進国とコオロギ」という組み合わせが、なんとも不思議な気がする。しかし、食糧難の救世主がなぜコオロギなのか、その理由を知ると、「さすが先進国、目の付け所が違う」と称賛せざるを得ない。

まず目を引くのは、その豊富な栄養価だ。コオロギ100グラム当たりに含まれるタンパク質の量は、何と21グラムにもなり、牛肉や粉ミルクとほぼ同じだというから驚きだ。その上、飼育コストは牛に比べ桁違いに安いという。新聞によれば、牛を100グラム太らせるには1キログラムの餌と1543リットルの水が必要なのに比べ、コオロギはたった餌100グラムと水1リットルさえあれば良いらしい。餌で1/10、水に至っては1/1500以下で済んでしまう。これだけ低コストで、しかも栄養価も高いとなれば、確かに食糧難の救世主だと言える。しかも、飼育に要する水の量が圧倒的に少ないのが、水不足に悩む途上国にとっては福音だ。

実は、農産物・畜産物の生産に関して、これらの生産に要した水の量を、農産物・畜産物の売買に伴って一緒に売買されていると捉えた、「仮想水(virtual water)」という考え方があるのだが、世界的に水不足が深刻な問題となる中で、この仮想水の移動の不均衡が指摘されるようになってきている。例えば、代表的な先程の牛で言えば、牛肉1キログラム生産・消費するのに、生産地では約15トンもの水を必要とするのに、消費地では精々精肉して調理する時に僅かに使うだけである。何という不均衡だろう。

ところが、コオロギだと、必要とする水の量が極端に少なくて済む。という事は、水不足に悩む乾燥地帯でも飼育が可能になる、という事である。しかも、畜産で使われる広い土地も必要ないし、餌代も格安だ。地産地消が出来れば輸送コストもかからない。良い事づくめである。ただ一つ、食べ慣れないことを除けば…。

新聞の冒頭に書かれているのだが、2050年に100億人に迫る地球の人口を維持するための食料は、今よりも6割の増産が必要だという。その切り札として、コオロギが注目されているという訳だ。新聞記事を読んで「まさかコオロギが救世主?」とビックリしたのだが、義弟の家で飼っているネコは、コオロギが殊の外お気に入りで、良く捕まえてはムシャムシャ食べているという。ひょっとしたら、牛肉よりも美味いのかもしれない!  


【文責:知取気亭主人】


どんな味がしたのだろう?

  
 

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