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知取気亭主人の四方山話
 

『理不尽の是正』

 

2016年3月16日

2日の日本経済新聞朝刊に、思わず苦笑いしたくなるコラムがあった。「アジア便り」という見過ごしそうな小さな囲み記事で、「『世界最薄』争い、ため息の結末」と、何やら意味深なタイトルが付けられている。「世界最薄」とあるから、スマートフォンかノートパソコンあたりかと思いきや、最薄を争ったのは何とコンドームだという。

中国国内でもほとんど知られていないコンドームメーカー(仮にC社とする)が、「日本のオカモトが使っている『世界最薄』という表現は虚偽宣伝に当たり、その宣伝で蒙った経済的損失を補償せよ」と訴え、その判決が出たというものだ。どうせ莫大な賠償金を要求したのだろうと思ったのだが、これがたったの1元だというから驚いてしまう。数年前にC社が最薄でギネス記録を更新した、というのが判決の決め手になったらしい。オカモトは控訴せず支払ったというが、「相手にしない」というのが正直なところなのだろう。

「どうやら、賠償金目当てというよりは、世界的に名の知れた企業を相手に裁判で勝った、という事実で名を売るのが目的ではなかったか」と、コラムは結んでいる。請求した賠償金1元を考えれば、それは多分当たっている。名を売るためには裁判まで利用するとは“恐れ入り屋の鬼子母神”、である。それにしても、こんなものに利用されるとは、三権の一つである司法も地に落ちたものである。

そんなお遊びのような裁判は放っておくとして、日本では、破格の和解金額で結審した裁判もたくさんある。鮮明に記憶しているのは、ノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏が、青色LED発明当時在籍していた企業に対して起こした訴訟だ。和解が成立した発明の対価は、8億4,391万円だった。多くの国民は、「世界的な発明は凄い金額になるものだ」と思ったに違いない。そんな庶民の羨望はともかくとして、この訴訟によって、人によっては理不尽と感じていた職務発明の代価が、大きくクローズアップされた。

この青色LED訴訟を持ち出すまでもなく、本来、裁判とは、原告にとっての“理不尽”を是正、あるいは解消する手段である。原告にとっての“理不尽”とは、原告が蒙った金銭的な損害であったり、精神的な苦痛であったり、あるいは健康被害であったりする。裁判では、この“理不尽”を是正・解消するために、先に紹介した青色LEDの裁判のように金銭的な保証をすることが多い。また、同じような“理不尽”を発生させないために、法整備や対策事業が行われたりすることもある。水俣病や四日市ぜんそく、イタイイタイ病などの公害訴訟がそうだった。2001年(平成13年)に原告全面勝訴の判決が下された、「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」もそうだ。

これら公害訴訟などのように、“理不尽”を蒙った人たちがたくさんいると、集団訴訟となって原告団を結成することになる。今、その集団訴訟で、日本の裁判史上最大規模となるであろう訴訟が起こされている。そう、福島原発事故に係わる損害賠償訴訟である。

12日の北陸中日新聞朝刊(以後、新聞)によれば、国や東京電力を相手にした福島原発事故に係わる損害賠償訴訟は、全国各地で起こされていて、少なくとも28件の集団訴訟があり、訴訟中の被害者数は約1万2千人に上るという。これほどの被害者数になれば、賠償金額も相当な額に上るだろう。国はともかくとして、民間企業である東京電力にとっては、頭の痛い問題である。しかし、避けて通ることは許されない。

新聞には、もともと原発事故被害者への賠償は原発ADR(裁判外紛争解決手続き)の和解仲介案を尊重して進める約束だった、と書かれている。ところが東京電力の“仲介案拒否”が続き、機能不全に陥っているのが、賠償が進まない原因の一つだという。賠償が進まないから訴訟が増える、という図式だ。しかし、何故ADRの仲介案を拒否するのだろうか。落としどころが見つからなかったのだろうか。

東京電力としては、「被告席には国という頼もしい仲間がいる」と感じ、強気に出ているのかもしれない。しかし、この期に及んで明らかにされるのは、東京電力にとってマイナスの情報ばかりで、国も呆れ返っているのではなかろうか。次の二件など、まさに企業体質そのものが問われる、深刻な情報だ。恐らく、孤立無援の被告席に座ることになるだろう。

先月公表された「メルトダウン(炉心溶融)の判断基準が、事故当時からあった」には、唖然とさせられた。「事故当時、その判断基準があったにもかかわらず“誰も気づかなかった”」と、信じがたいお粗末さを明らかにしたのだ。その判断基準に従えば、地震発生3日後の早朝には、「炉心溶融が起きた」との判断ができたという。しかし、東京電力がメルトダウンを公式に認めたのは、事故から約2カ月も後だった。その上、事故の検証をしていれば気が付きそうなものだが、この5年誰も気づかなかったというから耳を疑ってしまう。事故直後に分かっていれば、その後の対応も随分と違っただろうに…。

更に、「高さ15.5メートルの津波が原発を襲うとは想定外だった」との、これまでの釈明が、実は責任追及をかわすための言い逃れだった事も判明して、またかと世間を呆れさせている。事故の3年前、政府の地震調査研究推進本部がまとめた地震の長期評価をもとに、東京電力社内で福島原発を襲う津波の高さを試算したところ、15.7メートルの津波が襲う可能性があるとの結果が導き出され、経営陣にも報告されていた、というのだ。何をかいわんや、である。

今被災者が蒙っている幾多の理不尽、この原因の一端が自社にあることを東京電力は素直に認め、真摯に被災者と向き合ってほしいものである。  


【文責:知取気亭主人】


春は必ずやってくる! (福寿草)

  
 

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