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知取気亭主人の四方山話
 

『救急搬送顛末記(2/2)』

 

2016年5月4日

今回は、前話の続きである。前話は、会社で急に気分が悪くなって救急車で搬送され、病室に入るまでのドタバタ騒動を書いた。そして、CTとMRIの緊急画像診断を受け、脳卒中の可能性はないとの嬉しい診察結果も頂いた。今回は、病棟に入室して退院するまでの、比較的穏やかな話である。

病室に運ばれた。もう20時を過ぎているらしい。病室に入ると、直ぐに点滴だ。この頃になって、やっと目を開けられるようになってきた。具合が悪くなって目をつぶって以来、凡そ2時間半ぶりで目を開けると、駆け付けてくれた家族の顔も、付き添ってくれた仲間の顔も、そこにある。心配そうに見ている、顔、顔。その顔を見て安堵したのか、それとも点滴のお陰か、気持ちの悪さはまだ残っているものの、目を開けても嘔吐をしなくなった。加えて、しばらく皆と話をしていると、気持ちの悪さも少しずつ治まってきたように感じる。

脳卒中が原因ではないだろうとの診断を受けたこともあって、気持ちの悪さが少しずつでも治まってくると、気弱な自分の影はどんどん薄くなっていく。そして、みんなの顔も励みになって、「もう何ともない!」と一気に気が強くなる。現金なものである。

付き添ってくれた仲間が帰り、21時過ぎになって家族が帰ったあと、夜間の担当看護師がやって来た。その彼女が、「トイレは大丈夫ですか?」と聞く。「倒れたりすると危ないからトイレの時は呼んでください」と、理由を添えてくれる。それを聞いて、「トイレぐらい大丈夫だ!」と粋がってみたのだが、悔しいことに体を少し動かすだけでまだフラフラしている。べッドから僅か2mほどの歩行に自信が持てない。

何とかならないかと考えている内に、尿意を催してきた。点滴が効いてきたらしい。自信のなさが情けなさを追いやり、助言通りナースコールのボタンを押すことにした。ベッドから起き上がる時にも、立ち上がる際にも看護師に支えてもらい、何とか用を足すことができたのだが、思った以上に足元がおぼつかない。看護師の見立ては正しかったのだ。初めての体験だったが、“めまい”というのは何とも厄介な病である。

ただ、動かなければ、もう気持ちも悪くない。入室前は眠れるか心配していたのだが、これなら、どうやら杞憂に終わりそうだ。案の定、トイレから帰るとすぐに眠りに落ちた。

夜が明けた。21日だ。気持ちの悪さは大分なくなってきている。点滴が効いたのだろう。看護師がやって来て、今日の予定を説明してくれた。昨晩言われていた耳鼻科の受診が、10時以降の午前中か、外来患者が多くて延びるようだと午後になるという。「多分お昼近くだろう」と勝手に決め込んでいると、意外と早くお呼びが掛かる。

車椅子に乗せられ、耳鼻科の診察室に入った。耳の中を診察し、防音室での聴力検査(ヘッドフォンを用いる一般的な検査と、耳の後ろの骨に骨導受話器を装着する検査の2種類)を受けたのだが、難聴もメニエールの気もないという。それでは、と今度はゴーグル様な目隠しを充てられた。何をするのだろうと訝っていると、「目は開けたままいてください」と言う。そして、右に頭を傾けたまま“背もたれ”にもたれ掛かっているように言われ、その状態でじっとしていると、“背もたれ”が倒れていく。すると、医師が「アッ、出ているね」と看護師に声を掛けた。何の事だか分からないまま、“背もたれ”が元に戻されると、次は左に傾けての検査となった。左右の検査が終わり、愈々診断だ。

医師は確信したように、今の検査で「眼振」が見つかり、搬送された時の症状から判断して、「前庭神経炎」だと言う。「眼振て、何ですか?」と聴くと、黒目の震えだと言う。「前庭神経炎」の特徴として、「眼振」があるらしい。もともと、“めまい”は様々な原因が考えられるため、消去法で原因を特定していく病だという。私の場合、CTとMRIで重い内臓疾患と心臓障害、更には脳障害が除外され、耳の検査でメニエール病が除外され、残った原因に「眼振」と症状を加味して、「前庭神経炎」と結論付けたと言うわけだ。

後日、ネットで調べたところによれば、「前庭神経炎」は片側内耳の前庭器官にある前庭神経が急激に炎症を起こし、突発的に激しい回転性の“めまい”が起こる病気で、それが数日〜1週間程度続き、吐き気や嘔吐、冷や汗を伴うらしい。ただ、耳鳴りや難聴はないのだという。全く私の症状だ。原因は不明だが、風邪ひき後に起こることが多く、各種のウィルス感染症の感染によると考えられているらしい。診察をしてくれた医師によれば、免疫力が低下したり、体が疲れていたり、或いは強いストレスを受けていたりすると罹りやすいという。俗に言う「体が弱っている時」で、風邪もひきやすい時だ。思い返すと、そのどれもが当てはまっている。ひどい風邪ではないが、風邪気でもあったのだ。体は正直だ。

その体の正直さは、罹る時も治る時も同じらしい。耳鼻科の診察を受けている間に、大分体調が良くなってきた。免疫力が回復したのか、気持ちの悪さは殆どないし、診察用の椅子から防音室まで自分の足で移動できるようになっている。「もう大丈夫だ!」と内心OK宣言を出そうとしていると、耳鼻科の医師が嫌なことを言う。この病気は、直ぐに完治するという事はなく、人によっては数ヶ月掛かる人もいると言うのだ。それもあってのことだろう、結局私も3週間後にまた受診することになってしまった。それまでは、経過観察ということらしい。ただ、気分的にはもう完治だ、と思い込んでいる。病室に戻る時には、車椅子に乗ってはいるものの、頭では既に退院のことを考えていた。人は病むところが無くなると、一気に気が強くなるものらしい。

予想通り、退院は翌22日となった。担当医の説明では、MRIの画像に少しだけ気になるところがあるので、最後(22日)にMRI画像の診断を脳外の医師に仰ぎ、気になるところを確認した後に退院、という事らしい。耳鼻科と同じように、診察時間は10時過ぎから夕方までの間、とかなり幅がある。結局夕方になったのだが、その診断でも格別問題となるところはなく、22日の17時半過ぎ、無事退院となった。たったの2日、正味48時間の騒動ではあったが、家族にも会社の仲間にも随分と心配を掛けた。この紙面を借りてお礼を申し上げたい。ありがとう皆さん。

ただ、この騒動をプラス思考で捉えると、心配してくれた皆さんには誠に申し訳ないが、私にとって怪我の功名ではなかったか、と思っている。全身のCTとMRI検査で嫌なものが見つからなかった事もそうだし、ネタ不足に悩んでいたこの四方山話に2話分も話題提供してくれたからだ。折角の貴重な体験、これを生かさない手はない、という訳である。転んでもタダでは起きないこの根性、「お前の歳なら、もう棺桶から首しか出ていない」と言われるゆえんかも知れない。

さて、これでひとまず緊急搬送の顛末は区切りを迎えた。区切りを終えるに当たり、お世話をしてくれた病院のスタッフにも少し触れておきたい。私が入院した病棟は、とにかく朗らかなスタッフが多くて心地が良かった。担当してくれた医師も、元気で声がでかい。その元気な声を聞いていたら、少々の病など吹っ飛んでしまいそうだ。

また、22日の担当看護師にこの四方山話のことを話すと、「若くて美人の看護師が多い…」と書いてほしい、との冗談が返ってきた。それではとナースステーションを見渡したところ、どうやらスタッフ全員が私より若いのは間違いなさそうだ。ということで、「若くて…」は、嘘偽りなくその通りである。もう一つの難題、「美人の…」も多分間違いないだろう…。恐らく…? と冗談めかしに書いたが、皆さん確かに若くて美人揃いでしたよ!

そんなスタッフのお陰もあって、私の入院が短期間で済んだのかもしれない。皆さん、お世話になりました。ありがとう。



フジ

【文責:知取気亭主人】

  
 

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