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知取気亭主人の四方山話
 

『ふるえてみませんか?』

 

2016年6月8日

北海道七飯(ななえ)町の山中で行方不明となり、安否が心配されていた北斗市の小学2年生の男児(7)が、3日の朝、6日ぶりに無事保護された。警察や消防、そして自衛隊まで出動する大騒動となった今回の行方不明事件は、何の手がかりも無いまま時が過ぎ、大規模な捜索活動が縮小され「可哀想だけど、もうダメではないか?」と諦めかけようとしていた矢先、鹿部町の陸上自衛隊演習場の宿営施設で、準備などのため立ち寄った訓練中の陸上自衛隊員によって、偶然発見された。日本中が彼の無事を願っていただけに、他人事ながら、皆ホッと安堵しているに違いない。

男児は5月28日、人や車に石を投げつけたため、両親から「躾のため」として七飯町の山中で置き去りにされ行方不明となったものだが、このニュースは海外でも大きく取り上げられていたらしく、「躾としては行き過ぎだ」との批判的な報道が多かったと聞く。日本国内でも、批判的な意見が多い。私も行き過ぎだと思う。人気の全くない森の中に加え、夜には気温が下がりヒグマも生息している土地柄を考えると、命の危険さえあった。置き去りにした時間が例え5分間だけだったとしても、年端もいかない7歳にとっては、極めて過酷な状況だった筈だ。どんなに心細かったことだろう。車から降ろされたとき泣きじゃくっていた、というからいたたまれない。

今回は幾つもの幸運に恵まれて助かったが、精神的苦痛を与えて躾を身に付けさせるやり方は、如何なものかと思う。前時代的だ、と思うのは私だけではないだろう。しかも相手は7歳の子供だ。発見されるまでの6日間に男児が経験した不安と恐怖は、いかばかりだっただろうか。心中察するに余りある。例え子供であっても、躾を身に付けさせるには、言い聞かせることが基本中の基本だろう。新聞によれば、心理的虐待の疑いがあるとして、警察は児童相談所に書面で通告しているというが、致し方ないことだと思う。

ところで、丁度今回の騒動が解決された3日の前後にかけて、この騒動は全く意図していなかったのだが、偶然、素敵な家族と友人たちを扱った本を読んだ。家族とはどうあるべきか、友人とはどうあるべきか、つくづく考えさせられる本だった。今回の男児行方不明騒動とは何ら関係ないが、久しぶりに感動し、年甲斐もなく枕を濡らしてしまった。今回の騒動が改めて「家族とは」を考える切っ掛けとなった方には、もってこいの本だと思う。大人ばかりでなく、小学生の中学年から中学生の年ごろの子供たちにもお勧めだ。イやむしろ、子供たちにこそ読んでもらいたい本である。

この本を知ったのは、先月“めまい病”で入院していたときだ。たまたまスイッチを入れたテレビで、絵本から英語の辞書まで幅広いジャンルの本を紹介する番組をやっていたのだが、その中で“お勧めの児童書”として紹介されていたものだ。

テレビでは「この本は“いじめ”を扱っている」との説明があり、いつもの癖で気になる情報として書き留めて置いた。それを出張中に思い出し、本屋で買い求めたというわけだ。本のタイトルを「ワンダー」(R・Jパラシオ著、中井はるの訳、ほるぷ出版)という。粗筋を知っていて買ったわけではなく、本屋で立ち読みをして、5、6ページ読んだだけで直ぐ気に入って買い求めた、という次第である。店員にメモを見せると、「在庫があるはずです」と言いながらすぐに案内してくれたから、かなりの人気なのだろう。帯には「きっと、ふるえる」と書かれているのだが、確かに震えた。出張帰りの読み残し(300ページ余)を、4日の夜、眠れないことを良いことに読書に耽り、読み易かったこともあって一気に読んでしまった。そして、歳のせいで涙もろくなったのか、久し振りに枕を濡らしてしまった。心地良い涙だった。

舞台はアメリカ、主人公は、オーガストという名前の10歳の男の子(愛称はオギー)だ。帯の副タイトルに「オーガストはふつうの男の子。ただし、顔以外は。」と書かれているように、オーガストは、初めて彼を見た人がギョッと驚いてしまうような顔をしている。生まれつきの口蓋裂で、生まれてから27回も手術を繰り返していて、両目の位置は極端に下がっているし、しかも耳にも障害があって補聴器を使わなければよく聞こえない。

そんな彼がビーチャー学園という学校に通うのだが、両親が彼に学校のことを話し、通う決心をするシーンから物語は始まる。自分の顔がふつうではないことを知っている彼は、当然入学を渋るのだが、それを納得させる両親の話し方が愛情とユーモアが溢れていて素晴らしい。こんな両親に育てられたら良い子に育つだろうな、と感心してしまう。

学校に通い始めた彼は、校長であるトゥシュマン先生の計らいで、同級生から校内を案内してもらう。この同級生の中に、やがて親友になるジャック・ウィルや意地悪なジュリアンがいるのだが、オーガストは、顔の醜さから、「彼に触れるとペスト菌がうつる」などという陰湿ないじめを受けることになる。しかし、オーガストの醜さなどまったく気にしない友達もいる。また、彼の両親や姉、姉の友人、校長先生など、彼をこよなく愛する人たちもいる。

そんな彼を取り巻く人たちの心情が、彼に対する微妙に揺れる心が、見事に描かれていて、心打たれる。特に、彼が参加した野外学習での出来事や、終了式で校長先生がオーガストを表彰するときのスピーチは、涙なしでは読めなかった。現実の世界では、いじめをなかなか認めようとしない学校が多い中、「こんな校長先生がいたら違うだろうな」と、思わず無い物ねだりをしてしまった。ともかく、素晴らしい本だ。是非、子供と一緒に読んでもらいたい本である。


【文責:知取気亭主人】
 


 

「ワンダー Wonder」

【著者】R・J・パラシオ
【翻訳】中井はるの
【出版社】 ほるぷ出版
【発行年月】 2015/7/18
【ISBN】 978-4593534951(459353495X)
【頁】 文庫: 421ページ
【税込価格】 1,620円

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