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知取気亭主人の四方山話
 

『人喰い熊現る?』

 

2016年6月22日

最近、物騒なニュースがメディアを賑わしている。クマに関するものだ。5月21日から6月10日にかけて、秋田鹿角市で、ツキノワグマに襲われたと見られる4人の遺体が相次いで見つかった。僅か1ヶ月にも満たない期間にこれだけの人達が襲われ亡くなり、しかも同じ県内の狭い範囲で発生したというのは、これまで聞いたことがない。しかも、ショッキングなことに、今月の10日に射殺された1頭の胃から人体の一部が見つかった、というから恐ろしい。人体の一部は、クマの好物であるタケノコと共に見つかったというが、想像しただけで身の毛がよだつ。私も5月の連休頃になると、今回胃の中で見つかったと言われるネガマガリダケを採りに行くのだが、このままだと足が遠のきそうだ。恐ろしい。

クマの生態に詳しい専門家の話だと、ツキノワグマが人を襲って食べるのは珍しいことだという。確かに、ツキノワグマに関しては、襲われ怪我をしたり死亡したりといった話はよく聞くが、人が食べられたという話は覚えがない。報道によれば今回人を食べたクマは既に射殺されてしまったものと思われるが、他にも食べたクマはいなかったのか、人を餌にするという凄惨な行為が他のクマに広がらなければよいのだが。

広がるという意味では、ツキノワグマの生息域が広がっている可能性があり、そのことによる人的被害の可能性も広がっている。それを裏付ける事態が、私が住む石川県で観測された。石川県にある能登半島は、シカやクマが姿を消してから随分と経つ。ところが、19日の日曜日、和倉温泉で知られた、能登半島の七尾市にある石油ガス備蓄基地の監視カメラにクマが映っていた、とテレビニュースで報じられたのだ。生息数が増えたためか、それとも人を怖がらなくなったためか、北陸でも急激に勢力を拡大しているイノシシなど他の野生生物との生存競争が激しくなったためなのか、それともほかに理由があるのか定かでないが、いずれにしても生息地が拡大しているのは間違いないところだろう。

能登半島の山はそんなに深くなく、山菜採りなどで山に入る人たちが多い。それだけに、人と出会う可能性が高く、秋田のような事故につながらないか心配だ。しかも、クマも人と同様、一旦手に入りやすい餌だと学習すると、それを常に捕食するようになるらしい。人間を餌だと思ってしまえば、これまで以上に人が襲われる危険性が高まるのは必定だ。

というのも、今回の秋田の事件に関して、最初はたまたま鉢合わせをした人を襲っていたのが、やがて襲うことを学習していったのではないか、とみる専門家もいるからだ。さらに、クマよけの鈴も餌の位置を知らせる便利なものとクマが捉えてしまう恐れを指摘しているサイトもあって、もしそうだとすれば、山菜採りに山に行くことの多い私も、他人事では済まされない。

しかし、なぜクマは人を襲うようになるのだろうか。これまで、クマは臆病な性格だから音などで人がいることを知らせば逃げていく、と教わって来た。でも、それは本当のことなのだろうか。「人間を天敵だ」と思ってくれていれば、きっとそうなのだろう。マタギと呼ばれる猟師が職業として成り立っていて、クマやシカを生活の糧として獲っていた時代は、確かにそうだったのかもしれない。しかし、マタギが激減した現代においては、もうすでに天敵ではなくなってきているのではないだろうか。その証拠に、暫く前から、人間と出会う危険性が高くなる人里に良く出没するようになってきた。その背景には、餌不足が大いに関係してはいるのだろうが、「一人でいる人間はさほど怖くない」という事を学習してしまった可能性も否定できないのではないか、と思っている。

もうひとつ、もともとクマは、人間を襲い食べることをやっていたのではないだろうか。思い起こせば、今から20年前、動物写真家星野道夫氏(当時43歳)がヒグマに襲われた事件は、そんな恐ろしいことを窺わせる。その衝撃的な事件の概要は、かすかにではあるが今でも脳裏に残っている。

1996年8月8日、TBSの人気動物番組「どうぶつ奇想天外」の撮影のため、TBSの番組クルーたちとロシア・カムチャッカ半島を訪れていた星野氏が、ヒグマに襲われ亡くなった。同行していたガイドが悲鳴に気づきライトで照らすと、星野氏をくわえて森へ引きずっていくヒグマの姿が見えた、とのニュースは日本国民を震撼させた。星野氏は動物写真家として名を知られていただけに、この事件が大々的に報じられたからだ。

当時のニュースがそこまで詳しく報じていたか記憶は定かでないが、ネットで調べたところによれば、星野氏の遺体は、森の中で食い荒らされた姿で発見されたという。この事件のヒグマは、明らかに人間を餌として認識していたものと思われる。恐らく、人間とクマが地球上で生息するようになった時代から、人間がクマを食料としていたのと同じように、クマも人間を襲い餌にしていたのではないだろうか。そう考えると、「“出合い頭”を除けば、ツキノワグマが人間を襲うなどという事はあまりない」というのも、クマや人間の歴史から言えば、銃が一般化した近代のほんの一瞬のことなのかもしれない。

何しろ、日本には、「三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)」と呼ばれる、クマによるものとしては記録的な被害を出した事件があるからだ。1915年(大正4年)12月9日 - 12月14日にかけて発生したこの事件では、開拓民7名が死亡、3名が重傷を負った。吉村昭の「羆嵐」は、この事件を扱った小説だ。絵本では優しいクマさんの本来の姿が、この本を読むとそうではないことが良く分かる。ツキノワグマとて同じだ。やはり、クマには畏怖の念を以って接する必要がある。


【文責:知取気亭主人】
 


 

「羆嵐」

【著者】吉村 昭
【出版社】 新潮社
【発行年月】 1982/11/29
【ISBN】 978-4-10-111713-3(4101117136)
【頁】 文庫: 226ページ
【税込価格】 562円

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