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知取気亭主人の四方山話
 

『愛着ホルモン』

 

2016年8月17日

今月の始め、微笑ましい写真と共に、興味深い記事が新聞とネットニュースに載った。「ニホンザルの赤ちゃんも、人間の赤ちゃんと同様に、睡眠中に微笑むことが分かった」というものだ。京都大学霊長類研究所の研究グループの成果だ。赤ちゃんたちが眠っている間に垣間見せる微笑を、刺激を受けて見せる笑いと区別して、「自発的微笑」というらしいのだが、この微笑をニホンザルの赤ちゃんも見せることが分かったというのだ。「自発的微笑」は、生まれた直後から見られる笑顔で、「睡眠中に、外部からの刺激とは関係なく口角が上がる動き」と定義されていて、人間以外では既にチンパンジーで報告されていたらしい。

確かに、人間の赤ちゃんの寝顔を見ていると、眠っている筈なのに、唇の端を上げて可愛らしい笑顔を見せることがよくある。我が家の子供たちが乳児の時にも体験していて、その時は、「きっと楽しい夢を見ているのだな」とか、「楽しかったことを思い出して笑っているのさ」とか、都合のよい勝手な解釈をしていたのだが、どうもそうではないらしい。そのころから随分と時間が経ち、その子供たちが結婚し始めて孫に恵まれた最近になると、「愛情深く育ててくれる親への感謝の気持ちの表れだ」とも、「子育てに対する神様のご褒美だ」とも、まことしやかな解釈をラジオの番組で聞いたことがあるのだが、どうやらそれとも違うらしい。また、「親の関心を引くための表情だ」とも言われていたらしいが、そんな単純なことでもないらしい。

では、どうしてあんなに愛らしい微笑を見せるのだろうか。実は、これまでの研究によって、 “笑顔を作るのに必要な筋肉を発達させる”のが主な目的だ、と理解されているという。「怒りの表情を作るのに必要な筋肉を鍛えている」よりはましだが、筋肉を発達させるための無意識の訓練とは何とも味気ない話だ。「子育てに対する神様のご褒美だ」を信じていれば、子育ての苦労も報われるというものだが、“筋トレだ”と言われると、何やら複雑な気持ちがしてしまう。人によっては、我が子への愛情が薄れてしまうかも知れない。だとすると、研究者ではない庶民としては、知らない方が良かったと思うのだが…。

ただ、「人間であれ、サルであれ、必要な能力を身に着けなければ生き残っていけない」のは道理だから、霊長類にとって微笑みを返すことは必要不可欠な能力だ、という事なのだろう。きっと、「そうしなければ生き残っていけないよ」との情報が、DNAに刷り込まれているのに違いない。恐らく、“育児放棄”を防ぐための“防衛本能”だ。ごく普通の親であれば、あの微笑んでいる寝顔を見れば、「絶対にこの子を守っていこう」という気になるからだ。そんな魔力が、あの微笑みにはある。ひょっとしたら、どこやらで聞いた事がある、妊娠と共に母親に大量に分泌されるという“愛情ホルモン”を、より多く分泌させる力があの「自発的微笑」にはあるのかもしれない。

母親や愛情などのキーワードで、その“愛情ホルモン”を調べてみると、「オキシトニン」という名のホルモンに行きついた。「オキシトニン」は、“愛着ホルモン”とも“絆ホルモン”とも呼ばれ、目から鱗だが、女性ばかりでなく男性にも分泌されるものらしい。特に、女性の出産や授乳の時に大量に分泌されることで母親に深い愛情が生まれ、加えて、生まれてくる子供にも分泌され、母子の絆がより一層深まるのだという。男性にも分泌されるものの、どう抗っても父親が入り込めない母子の絆の強さの秘密を、垣間見た気がする。

「オキシトニン」分泌の鍵は、スキンシップにもあるらしい。ラットの実験から、優しく一定のリズムで触れ合う、例えば、寝かしつけるときに背中などをトントンと軽くたたくことによって、分泌が促されるらしい。確かに、一定のリズムで背中をトントンすると、子供の寝つきはすこぶるいい。安心しきっているのだろう。こうしたスキンシップ以外にも、ハグして相手の背中を軽くたたくことや、子供をぺろぺろ舐める動物の母親のしぐさなどにも、同じ効果があるらしい。

こうした事は、本来、人間は本能的に知っていて、母親ばかりでなく、家族や地域社会でも「オキシトニン」の分泌を促すような行動をしてきた筈である。ところが、そうした“愛着ホルモン”が分泌されないのか、分泌されてもその量が極めて少ないのか知る由もないが、人間の社会では、育児放棄をしたり乳幼児虐待をしたりして、悲惨な事件を引き起こす親が後を絶たない。物が溢れる現代社会の中で受けるストレスが、“愛着ホルモン”分泌の妨げになっているのではないかと思う。

そんな中、昨年11月10日の日本経済新聞に、「障害のある子 家族みんなでケア」というタイトルの、小さな囲み記事が載った。記事には、京都大学の研究チームが、「重度の先天的障害のある野生チンパンジーの赤ちゃんを、母親や姉が家族ぐるみで育てていた様子を観察した」と発表したとある。野生のサルの家族にも、“愛着ホルモン”がしっかり分泌されているのが分かる。また、この四方山話の第19話「心の奇形有りませんか」でも、奇形の子ザルとそれを懸命に育てる母ザルを被写体にした写真集、「奇形猿は訴える――人類への警告――大谷英之写真記録集」(よつ葉連絡会出版局)を取り上げたが、我々の祖先であるサルの方が、余程“愛着ホルモン”の分泌が活発なのではないだろうか。

それは冗談としても、母親からの愛情が少ないと、子供の“愛着ホルモン”分泌が抑えられて、しいては分泌機能そのものが阻害されてしまうのではないのだろうか。ただ、阻害さるからと言って、機能が衰え最終的には分泌できなくなってしまう、という悲惨な事にはならない筈だ。例え衰えたとしても、愛情を一杯受ければ分泌機能は回復していくに違いない。そう信じたい!


【文責:知取気亭主人】
 

奇形猿は訴える―人類への警告
 

「奇形猿は訴える :人類への警告・大谷英之写真記録集」
【著者】大谷英之
【出版社】 よつ葉連絡会出版会
【発行年月】 1977/11
【頁】 93ページ(26cm)
【税込価格】 1200円

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