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知取気亭主人の四方山話
 

『1984年』

 

2017年2月15日

日本時間の11日未明、安倍信三首相とトランプ大統領による初めての日米首脳会談が行われた。報道によれば、トランプ政権が発足してから大統領が主要国のリーダーと会談を行ったのは、イギリスのメイ首相に続いてに二人目だという。トランプ大統領の政権運営が選挙期間中の過激な公約通りなのか、それとも一転して現実路線を行くのか、各国の政府首脳や財界人が注目する中行われた今回の首脳会談、安倍首相は異例の厚遇を受け、日米の親密度を世界にアピールする結果となった。

やや品位に欠けるきらいがある“歯に衣着せぬ物言い”や行動に加え、選挙期間中ばかりでなく就任早々に発した日本バッシングを考えると、手ごわい交渉相手で難しい会談になるだろうと思われていた。それだけに、異例の厚遇に加え尖閣諸島が日米安保条約の適用対象となることを確認しただけでも大成功だった、とする肯定的な評価がある一方、移民問題や経済問題などは話された様子もなく、「難題の先送りだ」との厳しい批判もある。

それにしても、事の良し悪しは別にして、トランプ大統領は話題の多い人だ。オバマ前大統領の時も就任直後は似た様なものだったのかもしれないが、この四方山話でこれだけ頻繁に取り上げた記憶はない。四方山話にとっては、何とも有り難い、格好の話題提供人物となっている。やや種切れ感のあった今回も、その話題豊富な大統領に飛びつき、お世話になることにした。それも、行動派の彼とは縁のなさそうな本の話題だ。実は、彼が大統領になると決まってから、急に売り上げを伸ばした本があるというのだ。タイトルを「1984年」といい、ベストセラーの上位に浮上しているらしい。トランプ氏に決まっただけで急に売り上げが伸びるとは、一体どんな内容なのだろう。気になる。思い立ったが吉日とばかり、早速買い求め読んでみた。

「1984年」は、インド生まれのイギリス人、ジョージ・オーウェルが、1949年に発表した、近未来小説である(早川書房刊、高橋和久訳)。1949年と言えば、第二次世界大戦が終わりを告げた1945年から僅か4年しか経っていない。戦後の疲弊と混乱がまだ世界各地に残るこの時期に、先の見えない35年後の世界を描いているのは、大変興味深い。それだけでも興味をそそられるのだが、面白いのは、「訳者あとがき」に書かれている、イギリスでの「読んだふり本」第一位に選ばれているという点だ。「読んでないと恥ずかしい」と思わせる、それだけイギリスでは評価が高く絶大な人気を誇る本だ、ということなのだろう。

さて、その内容だが、大戦直後に発表されているということもあって、冷戦時代の到来を予見させる当時の世相、ソ連共産主義の台頭を色濃く意識したのだろう、思考統制が徹底された全体主義国家をテーマに描かれた筋書になっている。主人公のウィンストン・スミスは、絶対君主「ビッグ・ブラザー」が君臨する、全体主義国家「オセアニア」の住民だ。「オセアニア」では、表現が豊かだった「オールドスピーク」と呼ばれる言語から、「ニュースピーク」と呼ばれる新しい言語に移行させ、これを使い住民の思考統制を徹底している。管理・統制するなら言語から、というわけだ。「ニュースピーク」には、複雑な感情を表現できないようになっている。思考統制に便利なように…。

その徹底ぶりは、戦時中秘密警察が住民の自由意思を取り締まった、暗黒政治そのものだ。現代で言うところの監視カメラ、小説の中では「テレスクリーン」と呼ばれる監視装置″が至る所に設置されていて、四六時中監視活動を行っている。ところが、そんな厳しい監視の目をかいくぐって、危険極まりないロマンスが誕生し、筋書きの中で唯一の希望ともいえる灯をともしてくれる。ロマンスの相手はジュリア26歳。ひょっとしたらこのままロマンスは成就するのではないか、と思われたのだが…。オッと、結末は読んでのお楽しみだ。

ところで、本書には、主人公が住む「オセアニア」の他に二カ国が登場して、丁度“三すくみ”のように描かれている。「ユーラシア」と「イースタシア」だ。読書中は、「オセアニア」は欧米、「ユーラシア」はソ連、そして「イースタシア」は中国だろう、と勝手に思い込んでいた。ところが、「解説」を読むとどうも違うらしい。「ユーラシア」は合っているが、「オセアニア」は欧米ではなく英米、「イースタシア」は我が日本を表しているらしい。

この三国関係は、筋書きの中ではそんなに重要なものではないのだが、今の世界を俯瞰すると、私が当初考えた国々の力比べに相通じるのでは、と思えてしまう。特に、三極の一つをなしているのは日本ではなく、中国だと考えるのはごく自然な発想だろう。そうした考えは、トランプ大統領誕生で、より一層際立ってきたのかもしれない。何しろ、中国への対応は、これまでのところ強気一辺倒だ。「ユーラシア」の党のスローガン、「戦争は平和なり、自由は隷属なり、無知は力なり」を地で行こうとしている訳ではないだろうが、米中関係はこれまで以上に切迫した緊張状態になるのではないか、と心配している。

それにしても、トランプ大統領の登場で、アメリカは本書のような全体主義国家になってしまう、と多くの国民が危惧したのだろうか。本書の内容が余りにも自由の無い国家を扱っていただけに、「その危惧は現実離れしている」と思えてしまう。ただ、最初は気が付かなかったのに、気が付いたら取り返しのつかない状態になってしまっていた、という事例は枚挙にいとまがないのも事実ではあるのだが…。

【文責:知取気亭主人】

  

 

「一九八四年[新訳版] 」

【著者】ジョージ・オーウェル (著), 高橋 和久 (訳)
【出版社】 早川書房
【発行年月】 2009/7/18
【ISBN】 978-4151200533
【頁】 512ページ
【定価】 929 円(税込)

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