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知取気亭主人の四方山話
 

『鑑定眼』

 

2017年3月1日

物事の真贋を見極めるには、豊富な経験や知識に裏付けられた、確かな鑑定眼が必要だ。有名画家の絵画や書などの芸術作品、あるいは文化的に価値の高い焼き物などの伝統工芸作品は特にそうだ。その道で秀でた人の、そして人気のある作品には、古くから贋作が出回ることが多く、むしろ贋作が出回ると“一流の証”とさえ見られている。科学技術の発達で科学的根拠を基に真贋を見極める手法が一部で用いられるようになった現代でも、そうした風潮は一向に変わらない。

「偽物で一獲千金を」と考える輩は、何時の時代もいるものである。バッグなどの一流ブランド商品にみられるように、芸術作品でない身近な物でさえ、儲かると分かれば偽物が引きも切らない。そうしたことからも、偽物で一獲千金を狙う詐欺行為の根の深さがうかがえる。だからこそ、見極める確かな鑑定眼が必要なのだ。また、そうした鑑定人たちがいるからこそ、貴重な文化財の新たな発見にも繋がり、その後の保全・保護も可能になっている。昨年我が家で見つかった刀剣も、そんな伝統文化の一つだったら良いのだが…。

昨年1月に母が亡くなり遺品を整理していたところ、衣装ケースから、見覚えのある刀が出てきた。手作りの袋に入れられた、刃渡り23pほどの短刀だ。小さいなりに鍔(つば)もついていて、柄(つか)に取り付けられている金具も含め、形だけは揃っている。また、塗りは所々剥げてはいるものの、黒塗りの鞘(さや)もそれなりに原型をとどめている。

したがって、外見上は短刀だとすぐ分かるのだが、抜いてみると刀身は錆びだらけで、光っていたであろう、刀として現役だった頃の面影は全くない。ただ、武器としての役目は殆ど果たしそうもないが、刀は刀であるから、銃刀法違反にならないようにしなければいけない。そこで、知り合いに教えてもらい、警察に届けることにした。教えられるままに警察に行き、短刀に関する記憶と発見時の仔細を説明して、「発見届出済証」を貰って来た。

 
(刀身は紙やすりで錆を落とした後)
(刀身は紙やすりで錆を落とした後)

この短刀は、私が子供の頃から我が家にあったことは知っていて、その当時から今と同じように錆びていた。始めて見た小学生の頃の記憶によれば、「母の先祖は愛知県三河地方にあった小藩のお抱え医師をしていた」と母から聞いていて、嫁入りの時に守り刀としてもらったものらしい。それが母にとって大事なものだったのか聴くこともしないまま、母親の目が届かないのを良いことに、竹を切ったり、ナイフの代わりに木を削ったり、チャンバラごっこ宜しく振り回したりして遊んでいた。

今にして思えばバカなことをしたものだが、あまりに切れ味が悪いので、時には砥石で研いだことさえあった。当時は時代劇真っ盛りの頃だったから、刀の手入れシーンを真似て、見よう見まねで柄の部分を分解して銘が刻まれているか調べたこともあった。ただ、そんな息子の遊びをどこかで見ていたのか、短刀は、ある日突然目の前から消えた。このままにしておいたら人を傷つけるかもしれない、とでも思ったのだろうか。どこかに隠されてしまったのだ。確か小学校高学年の頃だったと記憶していて、手に取るのはそれ以来だ。

警察でそんな“いきさつ”を説明して、「発見届出済証」を貰って来たのだが、処分しないで手元に置くにはそれだけではダメだという。石川県の場合、2カ月に1度の割合で「銃砲刀剣類登録審査会」が開かれていて、そこで鑑定をしてもらい、「銃砲刀剣類登録証」を貰わなければならないらしい。厄介な話だが、法律で定められている以上そのまま放置するわけにもいかず、先日、日程の合った今年度最終の審査会に行ってきた。

会場には、一見して刀が入っていると分かる、綺麗な袋を抱えた人が結構来ている。すでに始まっていた鑑定の様子を見ていると、「銃砲刀剣類登録審査会」と謳いながら、参加者が持って来たのは刀ばかりだ。しかも、見るからに立派な大刀が多い。中には、3振り、5振りと複数の刀を持参している人も結構いて、鑑定する刀の総数はかなりに上る。それを、事務方と思しき3人と5人の専門家がそれぞれ作業分担して鑑定、並びに「登録証」の発行作業を行っている。ただ、実際に鑑定して必要事項を紙に書き入れているのは、一人の男性だ。恐らく刀に関して確かな鑑定眼を持った専門家なのだろう。他の人たちは、銃砲や槍、あるいは日本刀以外の専門家なのかもしれない。

中には既に石川県の文化財として登録されている刀もあるらしく、“登録証綴り”と思しき分厚い資料と首っ引きで照らし合わせている。刻まれている銘に相違ないか、刀身の長さや反りの具合、刃紋などを確認しているらしい。丁寧に鑑定するものである。これだけやれば、今巷で話題になっている、テレビ番組「なんでも鑑定団」で国宝級の大発見と報じられた茶碗「曜変天目」に関する偽物騒動も起らなかっただろうに、と思えてしまう。それ程丁寧なのだ。そうなると、当然時間が掛かる。待つこと2時間。やっと私の番がやって来た。

私の番と言っても、「発見届出済証」と現物の短刀を渡し、鑑定が終わるのを待つだけである。まず、刀身を抜いて出た言葉が、「錆がひどいな」だった。次に「銘を確認するために紙やすりで錆を落としても良いですか?」と問われ、了解をした。私も子供の頃に銘が無いのを確認しているのだが、最後に受け取った「銃砲刀剣類登録証」にも「銘なし」と書かれている。どうやら、“世紀のお宝発見”という訳にはいかなかったようだ。確かな鑑定眼も私の時だけ曇ってくれないかな、と密かに願っていたのだが…。

【文責:知取気亭主人】

   

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