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知取気亭主人の四方山話
 

『節』

 

2017年3月29日

通勤で毎朝横を通る兼六園の桜の木が、うっすらとピンクがかってきた。今月の中頃から届きだした卒業式の便りと共に、ここ金沢でも、気温も空の色もめっきり春めいて、桜の開花を後押ししている。このまま順調に気温が上がってくれれば、後10日も経たないうちに開花宣言が出されるに違いない。いよいよ待ち遠しかった春である。

春と言えば、門出のシーズンでもある。不安と期待を胸に、新たな集団に踏み出す若人も多い。私も、40年以上前に大学を何とか卒業し、晴れて社会人になった訳だが、その卒業記念にと恩師に朱竹の色紙を頂いた。その時は、「そうか、竹の様にしなやかに、そして真っ直ぐに成長しなさい」とのメッセージが込められているのか、としか思わなかったのだが、この歳になって孫ほどの仲間を迎える立場になると、竹の絵に込められたもう少し深い意味に気付くようになってきた。そこで今回は、新たな集団に飛び込んでいく若人へ、竹の節をテーマに応援メッセージを書いてみた。

新たな集団に入って行く若人は、その集団が学校であれ社会であれ、これまで自分が生きてきた時間の何倍も、これから生きていかなければならない。これからのその長い人生の間には、私が大学を卒業した頃には全くなかったのにここ数年で爆発的に普及した携帯電話のように、目覚ましいIT技術の発達により、生活環境は劇的に変化していくことになる。そうした環境変化が激しい社会の中でも、人生を有意義に、そして心身ともに健やかに過ごすためには、竹の様な“しなやかさ”が必要である。

知っての通り竹は、強い風や重い雪などに対して強く、大きく曲りはするが、なかなか折れない。湿気が多く重い北陸の雪が枝に積もり、大きくたわんでいる竹を時々見かけるが、完全に折れ曲がっているのは殆どない。どうしてあれだけ“しなやか”でいられるのだろう。筑波大学木質材料工学研究室によれば、しなやかさは強靭な繊維とその構造に由来するようだが(http://www.u.tsukuba.ac.jp/~obataya.eiichi.fu/research/07_bamboo.html)、秘密は“節”にもあるらしい。

竹の幹は、同程度の高さの樹木に比べるとかなり細い。細い幹で支えられるのだから、必然的に機械的な強度はかなり強い(「竹の力学特性」についての大手前大学論集より)。この強さに加え、どこにでも生えていて容易に手に入った事と、加工のし易さがあったからなのか、鉄が不足した時代には、“竹筋”と呼ばれ、鉄筋の代替品としてコンクリートにも使われていたことがあったという。土壁にも使われていたのだから、道理と言えば道理である。

また、竹の幹はパイプのような空洞になっている。これは、材料を最小限にして、周りの木々よりも早く成長できるように進化した結果だ。普通、空洞だと横からの力に弱いものだが、竹は成長過程である工夫を凝らし、横からの力に負けない素晴らしい仕組みを手に入れた。それが強靭な繊維とその構造であり、節である。しかも、節の間隔が短いほど強度は強くなることが、実験で確かめられているという。そうなると、力が一番掛かる根元ほど間隔が短いのも納得だ。自然とはいえ、よく出来ているものである。

竹がしなやかさを保つために身に付けた、節の役目は分かって貰えたと思うが、では竹ではなく我々人間が“しなやか”であるためには、何が必要なのだろう。私は、人間も竹と同じように節″が絶対に必要だ、と思っている。それは、心身の一方である身のしなやかさを維持するために、 “関節”という節があることからも分かるだろう。では、心身のもう一方である心″の節に当たるのは、一体何だろう。

松下幸之助も言っているが、私は「失敗し、立ち止まって悩むことだ」と考えている。「苦労」と置き換えても良いかもしれない。失敗し、悩み、立ち止まれば、成長は止まる。しかし、一旦成長は止まるが、“苦労”した分だけ経験という節となって自身を強くし、その後の成長を促進させてくれる筈だ。“苦労”しなければ、節を形成することは出来ない。ストレスに強いしなやかな心″を作り上げるためには、“苦労”することがとても重要なのである。

さらに言えば、「節が多ければ多いほど強い」の理屈と同じように、“苦労”した数が多い人ほど、強く、そして優しくなれる。また、「根元に行くほど節間隔が短い」と同じように、若い時に苦労するほど、強く、大きく成長できる筈である。諺に「若い時の苦労は買ってでもしろ」というのがあるが、まさにこのことだ。

失敗し悩むことは、誰にでもある。友達も周りの仲間も、教える立場の学校の先生でも、またノーベル賞を受賞するような著名な科学者でさえも、間違いなく多くの失敗や悩みを経験している。経験しない人など絶対にいない。「失敗や悩みは、心のしなやかさを手に入れるための試練」とも言える。だから、失敗を恐れてはダメだ。悩むことを避けてはいけない。そうした苦労が、“人間味溢れる”、そして“しなやかな人間”に成長させてくれるのだから。

ただ、苦労が節になるためには、節になるための栄養や支えが必要である。苦労経験の豊富な親や先輩、そして仲間からの適切なアドバイスがそれに当たる。こうした栄養が無ければ、節を形成する前に強風で折れてしまうかもしれない。苦労を数多く経験している人生の先輩たちは、節になるために必要な、適切なアドバイスをしてくれる筈だ。だから、失敗したり悩んだりした時は、一人で悩まないでぜひ相談することだ。しなやかな心を手に入れるには、そのことも絶対に必要だという事を忘れないでほしい。

【文責:知取気亭主人】

  

 

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