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知取気亭主人の四方山話
 

『良い忖度?』

 

2017年4月12日

「忖度(そんたく)」、若い人にはあまり馴染みのなかったこの言葉が、今年になって俄然メディアを賑わしている。恐らく「忖」は、年末に毎年話題になる“今年一年を象徴する漢字”の、ナンバーワン候補に躍り出たに違いない。さてこの「忖度」、おおよその意味は理解しているつもりだが、正確な意味はどうなのだろう。

三省堂漢和辞典によれば、「忖」の意味として「おしはかる。他人の心をおしはかる」と説明されていて、またもう一方の「度」の漢字では、意味のひとつとして「推量する、おしはかる」が説明されている。つまり、“推し量る”という意味の漢字を重ねている熟語なのだ。したがって、当然ながら「忖度」も「他人の心中を推し量る」という意味になる。私が理解していた意味に間違いはなかった。ということは、これまでの私の使用には誤用がなかった、と思っても良さそうである。

ところが、森友学園問題で俄かに脚光を浴びたこの熟語、松井大阪府知事によると、「良い忖度と悪い忖度がある」というからややこしい。初めて聞く解釈だ。もし忖度に良し悪しがあるとすると、私は誤用していた可能性も出てくる。でも、何が良くて何が悪いのだろう。良く分からない。忖度される側の思いや希望が叶えられるよう手助けしてやるのが良い忖度で、邪魔をするのが悪い忖度になるのだろうか。それとも、公益に資するような思いや希望だと分かっていて手助けするのが良い忖度で、公序良俗に反すると分かっていても相手の心を推し量って手助けするのが悪い忖度なのだろうか。そんなものではないと思うが、では最近気になっている次の事例はどうなのだろう。

新年度から小学生が学ぶ道徳の教科書検定問題だ。我が家の孫娘もこの4月からピカピカの1年生になったこともあり、今どきの小学生はどんな教科書を使っているのか興味があった。また、「聖徳太子の名前が教科書から消える」などの話題もあって、今年の教科書検定にも関心を持っていた。そんなところにニュースになったのが、パン屋さん騒動だ。パン屋さんが登場する文章が、「伝統と文化を尊重、国や郷土を愛する態度」にそぐわない、との文部科学省(以下、文科省)の検定意見が付いたのだ。しかも、それが孫娘の学ぶ小学校一年生の教科書だというから、心穏やかでない。

孫娘がその出版社のものを使うのかどうか、まだ確認はしていないのだが、なぜパン屋さんではいけないのだろう。どう考えても、子供たちが納得する説明は浮かんでこない。国会でも取り上げられたこの問題、政府は、検定意見は文章全体に付けたものでパン屋さんに付けたものではなくどう変えるかは教科書会社の自由だ、と答弁している。しかし、「パン屋」を「和菓子を扱う“お菓子屋”」に変えたら通ったということは、もともとそういう思いがあった、と捉えられても仕方がないのではないだろうか。

いずれにしても、なぜパン屋さんは「伝統と文化を尊重、国や郷土を愛する態度」にそぐわなくて、和菓子を扱うお菓子屋さんだったら“そぐう”のだろうか。どちらも、日本の食文化にしっかりと根を張っているのに、私の凡庸な頭では理解できない。理解できないのがもうひとつ、教科書会社は文科省の思いを思い切り “忖度”した訳だが、果たして、これは良し悪しどちらの忖度になるのだろう?

折しも4月6日の日経新聞朝刊に、ランドセルメーカーのクラレが今年入学の新一年生に就きたい職業を尋ねた、アンケート結果が掲載されていた。それによれば、男女2千人ずつ、計4千人からの回答を集計した結果、女の子の一番人気は、皮肉にも「そぐわない」と指摘された「ケーキ屋・パン屋」だったというのだ。しかも、1999年の調査開始以来19年連続で首位を維持しているというのだから、人気の高さがうかがえる。今回のパン屋さん騒動は、こうした子供たちの夢を、明らかに“ないがしろ”にしていることになる。

子供たちのなりたい職業に貴賤はない筈だし、ましてや大人の古びた固定観念で職業に上下を付けるのはもってのほかだ。親の職業の誇りをも傷つけかねない。仮にパン屋さんが「伝統と文化を尊重、国や郷土を愛する態度」にそぐわないというのであれば、レストランは×で割烹は〇、カレー屋は×で蕎麦屋は〇、洋服屋は×で和服屋は〇、靴屋は×で下駄・草履屋は〇、などとでも言うのだろうか。パン屋さんは勿論そうだが、×ではないかと挙げた店全てが、今の日本の社会の中で必要不可欠な職業ばかりだ。どれがなくても不自由だ。それなのに、である。

この問題について毎日新聞によれば、今回指摘された、パン屋さんが登場する「にちようびの さんぽみち」という文章は、2000年から「道徳の時間」の副読本に載せられてきたものだという(http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=4511989&media_id=2)。15年以上も学校では使われていたことになる。ただ、今回初めて検定を受けたらしい。しかし、こうした検定が度を超すとこの四方山話で紹介した小説「1984年」(第709話)の様になってしまう、と思うのは考え過ぎなのだろうか。

【文責:知取気亭主人】

  

子供たちの夢は、大人の希望でもある

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