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知取気亭主人の四方山話
 

『誰?』

 

2017年5月31日

暫く前になるが、百人ほどが集ったとあるセミナーの会場で、見知らぬ人から声をかけられた。「久しぶり!」の声と共に、にこやかな顔で近づいてきた。向こうは親しげなのだが、私の方は一向に見覚えがない。瞬時に思い出せる限りの顔見知りを思い浮かべても、その中に似た顔はない。我がスーパーコンピュータをフル回転させ、記憶の引き出しを頑張って探してみても、会った記憶が出てこないのだ。それを悟られないように、「やあ、どうも!」と笑顔で会釈してみたものの、喉に小骨が刺さったままの様な状態だ。

席に着き、「ハテ、誰だったっけ?」といくら首をひねっても、刺さった小骨は一向にとれない。気になるばかりだ。歳のせいか記憶力のせいか、いずれにせよ、名前は勿論、似た顔すら浮かんでこないのだ。失礼な話だが、ひょっとしたら誰かと勘違いしているのではないか、と見覚えがないのは私のせいではなく相手の記憶のせいだ、とも疑ってもみた。しかし、白髪頭のこんなに特徴のある顔を見間違えるのはあり得ないか、と結局は自分の名前と顔を覚える能力の低さに行き着くのだが…。

そんな時にふと思い出したのは、よく似た体験をした同僚の話だ。初めて聞いたのは確か10年ほども前のことなのだが、彼と私の間では“記憶が衰えた話”になるとチョクチョク登壇する話題のため、事の仔細は大体覚えてしまっている。それによれば、突然見覚えのない人から挨拶されたのだが、いまだに誰だか分からないというのだ。その点では私と一緒だ。しかし、私の体験と明らかに異なる点が他にある。それは、相手が自分を誰かと勘違いしている可能性は絶対にない、ということである。

彼の話によると、あるゴルフコンペで、見覚えのない人から「○○さん、お久しぶり」と声を掛けられたという。名前を呼ばれたのだ。こうなると、相手は完全に顔と名前を記憶していることになる。このときの同僚は、さも知っているかのように笑顔で会釈はしたものの、私と同様「ハテ、誰だったっけ?」と首をひねったのは言うまでもない。しかし、「相手は覚えているのに自分は覚えていない」という現実に、少なからずショックを受けたという。

ところが、ショックはそれだけで終わらない。コンペが終わった後の宴会の会場で、「○○さん、よく会いますね」と再び声を掛けられ、忘れかけていた嫌な記憶がよみがえってきたというのだ。その時も曖昧な挨拶で何とか切り抜けたのだが、今でも誰だったか一向に思い出せずにいて、凄く気になっているという。その落ち込む気持ち、良く分かる。相手は覚えていてくれているのに自分は覚えていない、そんな「社会人としてどうかな?」と思える失敗、私も冒頭の件にだけに留まらずちょくちょくあるからだ。

昨年の夏、久しぶりに中学校の同窓会に参加した。凡そ10年ぶりだっただろうか。参加者は、確か40人弱。6クラスで1学年270人ほどだったから、7分の1ほどの出席率になる。以前参加した時にはもう少し参加者が多かったと記憶しているが、卒業して50年余りも立つとこんなものなのかもしれない。卒業して半世紀も過ぎ、その上久しぶりに参加した同窓会ならではの、なんとも言えない、懐かしくも歯がゆい体験をすることになる。10年単位ぐらいでしか参加していない私だけのことだったのかもしれないのだが、「ハテ、誰だったっけ?」と首をひねりっぱなしだったのだ。皆と別れた後、記憶力の衰えにため息ばかりの帰途となった。

と言っても、勿論、見覚えのある顔ですぐに名前も思い出せた友達も数人はいた。また、見覚えはあるのだが名前がどうしても出てこない者もいて、これが一番多かったかもしれない。ただ、そうした仲間は、挨拶の時お互いが名乗ると、「そうだ!○○だ!」と、忽ち中学時代に戻ることができたから、覚えていた部類に入るだろう。ところが、小・中で一度も同じクラスになったことがないと、何となく懐かしい雰囲気は伝わってくるのだが、「ハテ、誰だったっけ?」となってしまう。そんな仲間が結構いた。しかも、懐かしい雰囲気が伝わるには、顔と体形と頭髪の三大要素が記憶の範疇に入っている必要があって、そうでないと、「あの人誰?」となってしまう。友達から見たら、かく言う私もその一人だったかもしれない。何しろ、体形はもっとほっそりとしていたし、髪はまだ黒々としていたのだから…。

髪が黒々と言えば、3、4年前、大笑いした事件があった。家の近くの、防犯カメラ付きの地下歩道での出来事だ。掛かりつけの病院に行った帰り、地下道の階段を5、6段ほど下ったところで、モニターに映る“私の後を付けてくる不審な人物”に気が付いた。つむじの辺りがドーナツ状に薄くなった男の頭が大きく映し出されている。白髪頭だ。「誰だ?」とよくよく見ると、私が一段下がると同じ様に一段下がる。まるで刑事ドラマの尾行そのものだ。しかし、尾行される覚えはない。それともこんな爺ちゃんにストーカーか?そんなことは天地がひっくり返ってもないだろう。それにしても怪しい奴だ!ちょっと脅かしてやろうか?そこで、わざと手を挙げてみた。なんだ、私ではないか!

そう、私の後を付けてくる“つむじの辺りがドーナツ状に薄くなった白髪頭”は、私自身だったのだ。己の頭があんなことになっているとは……。人の顔は正面から見ても覚えるのは苦手なのに、また「ハテ、誰だったっけ?」をチョクチョク繰り返しているのに、あの時の己の後ろ姿は、なぜだか記憶から消し去ることができないでいる。だってねぇ〜!

【文責:知取気亭主人】

  

ネギ坊主。そう言えば、中学の頃は殆ど坊主だった。

ネギ坊主。そう言えば、中学の頃は殆ど坊主だった。 

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