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知取気亭主人の四方山話
 

『先入観』

 

2017年8月9日

岡山県玉野市にある渋川動物公園で飼育しているゾウガメが逃げ出して行方不明になっている、とのニュースを見た。家庭で飼っているカメが逃げ出して行方不明、というのは良く聞くし経験もしているが、それよりもずっと大きくてあれだけ目立つゾウガメが逃げ出すとは、どうしたことだろう。園長の話では、「カメは歩くのが遅い」という先入観が災いをした、と報じられている。そうした先入観があればこそ、放し飼いも可能だったのだろう。

確かに、人間に危害を加える恐れもなさそうだし、他の動物ほどすばしっこくはない。このゾウガメの場合は時速1キロほどで歩くというから、2歳になる我が家の孫娘と似たり寄ったりのスピードだ。でも良く考えたら、30分目を離しただけで500メートルも歩いてしまう。職員が20、30分目を離すのは考えられることで、そのすきに視界から消えてしまうのは容易な事だ。「カメはのろま」という先入観が、思考を停止させてしまったのだろう。この様に、先入観が、時として手痛い失敗をもたらす原因にもなってしまう。

先月の29日に、ヘビに咬まれた小学5年生の男の子が一時意識不明になった、とのニュースが報じられていたが、これなども、「つかまえた蛇は毒蛇ではない」という間違った先入観があったのだろう。尤も、子供の頃は野山を駆け巡り、成人してから40代までは仕事柄ヘビとの接触が多かった私でさえ、つい最近まで男の子を噛んだ「ヤマカガシ」は毒蛇ではない、と信じていた。それを考えれば、男の子が素手で捕まえていたのも、納得のいく行動だ。

1950年代から1960年代の私の子どもの頃は、遊びと言えば外、それも野山での遊びが主流だった。特に夏休みの遊びと言えば、田んぼ脇の用水や川で魚を獲ったり、堤防の雑木林や山で虫を取ったりするのが殆どだった。そんな時に出くわしてビックリするのがヘビだ。度々ご対面したのは、アオダイショウにシマヘビ、そして今回話題の主となったヤマカガシである。勿論、マムシもたまに出くわすことがあった。こうしたヘビの見分け方や、毒があるか無いかの見分け方は、年長のガキ大将が代々伝えていた。だから、子供の頃から、ヘビとの接し方については、それなりに教えられていたものである。

例えば、昔の田舎の家にはアオダイショウが良く住みついていたのだが、「家に住みついたヘビは家の守り神だ」と言って、見つけても決して捕まえたりしてはいけない、と教えられた。理由は、ネズミを捕食してくれる益蛇だったからだ。ネズミは、米やイモなどの食料を食べてしまうし、糞から病気を貰ったりする為、田舎暮らしの住民にとっては厄介な同居人だったのだ。でも、野山で出会うアオダイショウについては、そんな掟は無かった。そうした教えの中に、毒蛇はマムシだけで、アオダイショウやシマヘビ、ヤマカガシは毒蛇ではない、というのがあった。だから、我々もヤマカガシをよく素手で捕まえていた。ただ、周りの遊び仲間で咬まれたことがなかったこともあり、つい4、5年前まで毒蛇ではないと信じて疑わなかった。そして、今回の事件である。

MBS NEWSによれば、1970年代くらいまで、ヤマカガシが毒蛇であるとは広く知られていなかったという。それが、1984年の中学生の死亡例をきっかけに、血清を造り始めたのだというから、専門家の間でもそれまでは毒蛇との認識は無かったと言っていい。ただ、咬まれる事故が殆どなかったとも書かれているから、それが認識を遅らせる理由だったのかもしれない。言い換えれば、それが間違った先入観を植え付ける原因だったと言っていい。かように、先入観とは実に厄介なものである。かく言う私も、そんな間違った先入観で痛い目にあったことがある。痛い目を合わせてくれたのは、アシナガバチだ。

そのアシナガバチについても、ヘビ同様、くだんの遊び仲間からの教えがあった。どんな教えかと言えば、ハチに襲われた時に“死んだふり”をしたら刺されない、というものだ。それを信じたばかりにひどい目にあった。今では「そんな馬鹿な!」と端から相手にしないが、当時の純真無垢な私(?)は疑うことを知らないから、とんでもない先入観を素直に受け入れたのだ。

小学生の時、木の高い所に作られたアシナガバチの巣を見つけた。木に登り1メートルほどの竹で叩き落したところ、たくさんのハチが一斉に襲ってきた。集中攻撃を受けている訳で、耳に入ってくる恐ろしげな羽音が凄い。その時、“死んだふりやり過ごし法”を思い出した。咄嗟に枝の上で“死んだふり”をしたのだが…。

怒ったハチは顔を目掛けて襲ってくる。鼻の頭に一匹、唇に数匹、刺しに来ているのが分かる。そして、何カ所も激痛が走った。その後は、何をどうしたのか良く分からないが、必死で敵を振り払いながら木から飛び降り、泣きながら家に逃げ帰った。刺されたところは無性に痛いし、顔は熱を持ってパンパンに腫れてくる。すぐに医者に行ったのだが、昭和30年代の田舎の医者が処方してくれたのは、アンモニア液をペタペタと塗るだけだった。今でもそれくらいの手当しかできないかもしれないのだが…。

いずれにしても、間違った先入観で、「ハチに死んだふりは効かない」を、身を持って検証してしまったのだ。死んだふりは熊にも効かないらしい。こうした危険生物に関する先入観は、命に係わる危険性さえあるのだから、一旦綺麗に忘れてしまうべきだろう。そして、科学的根拠のある情報を知り、その情報をリセットしておく必要がある。特に夏休みの事故を防ぐ意味でも、曖昧な先入観は持つべきではない。これ、経験者の実感である。

【文責:知取気亭主人】

死んだふりは効かないよ!

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