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知取気亭主人の四方山話
 

『金子直吉も泣いている』

 

2017年11月1日

日本のものづくりの現場が、どうもおかしい。一部製品のJIS認定取り消しまで発展した神戸製鋼所による強度データ改ざん問題や、自動車関連会社の人たちばかりでなく車を保有している多くの人たちが固唾をのんで見守っていた、日産自動車やSUBARUの無資格者による完成検査問題など、消費者の信頼を根底から揺るがしかねないニュースが、連日メディアを賑わしている。出来れば目や耳を押さえたい気分だが、いつまで続くのか、ニュースにならない日はない。

日曜日のテレビ報道番組によれば、こうした日本のモノ作り現場の問題は、海外のメディアでも取り上げられているらしい。海外の人たちは日本製品に対しそれなりの信頼を持っていてくれたであろうに、それを根底から覆してしまう恥ずべき行為だ。日本のどの新聞も、開けば、「メイドインジャパンの信頼が揺らいでいる」とか、「ものづくり大国・日本の信頼が損なわれている」とか、更には「Japan as NO.1と称された日本はどこへ行ってしまったのか」など、センセーショナルな文字が躍っている。本当、“日本のものづくり”は一体どうしてしまったのだろう。

実は、こうした日本製品の信頼を揺るがす不正問題は今に始まったことではない、と思っている。こと車に関した不正問題に限っても、ちょっと思い起こすだけで、次々と指が折れてくる。昨年だったと記憶しているが、独フォルクスワーゲンの排ガス不正問題に呼応するかのように明らかになった、三菱自動車の排気ガスデータ改ざん問題もそうだったし、同じころ発覚したスズキ自動車の燃費改ざんもそうだ。データ改ざんではないが、世界の自動車業界に激震が走ったタカタのエアバッグ問題などは、日本製品の信頼を揺るがしたという点ではそれ以上に深刻だ。

もっと言えば、そうした車に関する不祥事ではないが、建物の安全・安心に関わる深刻な事件も起こしている。記憶に新しいところでは、2年前の2015年には、東洋ゴムが製造・出荷した免震ゴムのデータ改ざん問題によって、これを使用していた公共施設などの建物の免震性能が問題となる事件があった。明るみに出た当時頻繁に報道されていたから、覚えている方も多いだろう。

また、同じ年だったが、横浜市のマンションで杭打ち工事のデータが偽装・改ざんされていた問題も表面化し、マンションには不同沈下による被害も既に出ていて、連日メディアを賑わす大騒動となった。これも、広義の意味では、ものづくり現場の信頼失墜と言って良いだろう。もっと広げれば、食品の偽装問題や賞味期限改ざん問題なども入れなければならない。このように、よくよく考えてみると、こうした偽装や改ざんといった事件は頻繁に起こっていて、実は、表に出てくるのは氷山の一角なのかもしれないのだ。

それを裏付けるかのように、10月28日の日経新聞朝刊によると、SUBARUの無資格者による完成車検査は30年以上やってきたというし、日産自動車に至っては40年前からこの不正を繰り返してきた、という驚きの事実も明らかになった。これまではたまたま“ばれなかった”だけだ。こうした事実を知ってしまうと、日本の企業風土の中には、いまだに「臭いモノには蓋をしろ」の悪しき慣習が生き続けているのだ、と思わざるを得ない。

15年前にそれを地で行く事件があって、その事件をモデルにしたドラマが放映されたことがある。池井戸潤の同名小説をテレビドラマ化した、「空飛ぶタイヤ」である。このドラマが三菱自動車のリコール隠し事件をモデルにしていたことは、ご存知の方も多いだろう。2002年横浜で発生した、走行中の三菱製トレーラーのタイヤが外れて歩行者の母子3人を直撃し、母親が死亡した事件だ。三菱側は一貫して運送会社側の整備不良を訴えたが、その後製造責任を認めて大量のリコールをすることになる。まさに、「臭いモノには蓋をしてしまえ」を地で行った事件であった。

どうしてこのような不祥事が頻発するようになったのだろうか。効率や生産性など数字ばかりが追及されて現場が疲弊しているからだ、という意見がある。それもあるだろう。しかし、私にはそうならざるを得ない本質的な原因が他にあるような気がしてならないのだ。私は、現場と経営の距離が離れ過ぎた、もっと有体に言えば、数値管理はできるが現場を知らない経営陣が増えたからではないか、と思っている。ソニーやホンダ、或いはパナソニックなどに代表されるように、日本のものづくりの会社の原点は、経営陣が現場を知り尽くしていたことだったのではないだろうか。ところが、会社の規模が大きくなるにつれ現場と経営の距離が離れ、ついには現場の声が経営陣に届きにくい組織になってしまっているのだと思う。こうした今の惨状を、昔の事業家たちはどのように見ているのだろう。そう思った時、真っ先に脳裏に浮かんだのは、今は亡き鈴木商店の大番頭、金子直吉の名前である。

金子直吉の名前は、城山三郎のノンフィクション小説「鼠 −鈴木商店焼打ち事件−」に登場する。鈴木商店とは、昭和2年に潰れるまで、三井・三菱と肩を並べていた大正時代の大商社で、冒頭に社名が出た神戸製鋼所の出身母体である。帝人・日商(現、双日)・石川島播磨造船(現、IHI)など今の名だたる企業も輩出していて、その実質的な経営者、大番頭が金子直吉である。城山の小説によれば、金子は多くの社員に慕われていたらしい。現場と経営陣が近かったのだろう。「現場を理解する、その視点がなければ不祥事は無くならない」、金子だったらそう言ったに違いない。

【文責:知取気亭主人】

 

金子直吉も泣いている  

鼠 鈴木商店焼打ち事件

【著者】 城山三郎
【出版社】 文藝春秋
【発行年月】 2011年12月6日
【ISBN】  978-4-16-713932-2
【頁】 400ページ
【定価】 本体750円+税

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