いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『いつの世も弱者は泣きを見る?』

 

2018年3月14日

3月6日(火)に放映された、NHK総合テレビ「クローズアップ現代+」の「原発事故 “英雄たち”はいま 被ばく調査拒否の実態」(以下、クローズアップ現代)を観た。5日後の11日(日)で東日本大震災の発災から丁度7年が経つのに合わせた番組だ。内容は、国際原子力事象評価尺度(INES)で「レベル7」の最悪事故を起こした福島第一原発に、決死の覚悟で緊急作業に取り組んだ作業員約2万人の、放射能被ばくによる健康被害調査の実態を調査・報道したものである。目に見えない放射能汚染が広がる中、周辺住民への避難指示が出る一方で、こうした作業員は、汚染源に向かうという過酷な作業に従事しなければならなかった人たちだ。死の恐怖に立ち向かった、“英雄たち”と呼ぶに相応しい人たちである。

ただ、英雄と呼ぶに相応しい働きであったのは間違いないのだが、報道も含めたその扱いは、そんな賛辞とは程遠いように思われる。事故を起こした原発のその後の経過や周辺地域の避難に関する情報は、事あるごとに報道されていて、大震災の被害を受けなかった我々もその度に記憶がよみがえる。ところが、くだんの“英雄たち”については、これまでに焦点を当てられて報道された記憶がほとんどない。“当時は英雄”だった筈なのに、である。かく言う私も、今回のこの番組を観なければ、そうした“英雄たち”がいたことを思い出すことは無かったかもしれない。そういう意味では、大変意義深い番組であった。

国は発災3年後の2014年から長期の追跡調査を始めたが、これまでに受診したのは僅か約4200人と、作業に従事した人の2割強にしか達していないという。既に4年が経とうとしているのに、受診率はあまりに低い。この受診率の低さに愕然としたのか、それとも調査して分かった作業員の立場の弱さに義憤を感じたのか、クローズアップ現代と同じ内容の記事が、10日(土)の北陸中日新聞朝刊(以下、新聞)にも掲載されていた。新聞記事に書かれている「フクシマの英雄 使い捨て?」との大きな見出しが、異様に目を引く。

どんなに大きな事件・事故でも、時が経てば人々の記憶は薄れていく。特に自分に関わりがない事であれば尚更で、例え一時は“英雄”と賛辞を贈ってでも、である。しかも、事故を起こした原発の廃炉作業がまだ道筋さえ見えないのに、3.11大震災後に設置された復興庁は、2021年3月31日までに10年間(発災の2011年に設置された)の期限が切れ、廃止されることになる。後3年しかない。復興そのものも“廃止後のその後”が不安だが、果敢にも原発事故に立ち向かった英雄たちがいた事は、廃止と共にすっかり忘れられそうだ。だからこそ、こうした報道姿勢が意味のあることだと思っている。

クローズアップ現代からの情報は少々記憶があやふやなので、これから先は新聞を頼りに進めることにする。それによれば、国は福島の原発事故を収束させるために、特例措置として、緊急作業に携わる作業員の被ばく線量上限を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げた。この特例措置は事故終息宣言が出された2011年12月16日まで続いた、とある。凡そ9ヶ月間である。この間に従事したのが、約2万人の作業員なのだ。その中で、被ばく線量が上限の250ミリシーベルトを超えたのが6人、特例措置前の上限100ミリシーベルトを超えたのは168人に上ったという。当然、健康被害が危惧された訳である。

こうした状況を受け国は、作業員の生涯にわたる健康管理と被ばくとがん発症などの関係を調べる疫学調査を計画して、2014年から調査を開始した。何故作業開始と同時ではなかったのかの疑問も残るが、当然の措置である。広島、長崎の悲しい経験やチェルノブイリ原発事故の知見と照らし合わせても、被ばく者へは、長い時間を掛けた地道な追跡調査が欠かせない。ところが、である。作業員自らが積極的に受診して良い筈なのに、僅か2割強にとどまっているというから驚きだ。

クローズアップ現代も新聞も、「なぜ2割強しか受診していないのか」その理由を報じているが、その多くは対象となっている人達に申し訳なくなる様な理由だ。新聞には、調査の状況を示す円グラフが記載されているが、衝撃的な内容だ。以下述べる人数はあくまで概数だが、20,000人の内検査に同意している人は、たったの35%、7,000人しかいないという。残りの65%は未同意で、その内検査を拒否しているのが3,000人、住所不明が1,700人、返信のないのが7,000人もいるという(公益財団法人・放射線影響研究所調べ)。何故、自らの健康にかかわることなのに、こんなにも多くの人が同意しないのだろう。そこには、作業員たちの弱者としての姿が浮かび上がってくる。

日給制で働く下請け、孫請け企業の従業員が少なくなく、検診のために休みにくいということがあるらしい。また、元請けから、暗に「必要ないものは受けなくても良い」と言われるケースもあるという。そのほか、この疫学調査以外にも、作業員には法律で定められた半年に一度の健康診断など、複数の健康調査があって煩雑なことも未同意に拍車をかけているのではないかという。さらに、病気が見つかっても治療費も生活への保証も何も出ない、と話す作業員もいる。被ばく線量が上限に達し解雇された作業員の声も記事になっているが、もし解雇理由がそれだけだとしたら、明らかな使い捨てだ。もっときつい言い方をすれば、まるで捨て駒だ。

日本の原発は世界一安全だ、と豪語していた人たちは、こうした作業員の声をどのように聞くのだろう。少しは胸に響いているのだろうか。いつの世も弱者が泣きをみる、そんな世の中であってはいけない筈だ!そうでしょう、為政者の皆さん!

【文責:知取気亭主人】

福寿草
福寿草

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.