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知取気亭主人の四方山話
 

『柱』

 

2018年4月4日

4月に入って最初の月曜日となった4月2日、多くの企業や省庁で入社式や入庁式が執り行われ、いよいよ新年度がスタートした。初めて社会に巣立つ若者にとっては、希望と不安が入り混じった中での門出だと思う。いつの時代も同じである。例え“売り手市場”と言われている今どきの若者でも、社会人一年生にとってはこれまでと全く違う環境に飛び出していくことになる訳で、慣れるまでの数か月間は恐らく緊張の連続だ。不安を感じ戸惑うことも数限りなくあるに違いない。

こうした緊張や不安が高じると、「折角夢を抱いて会社に入った筈なのに…」ということになりかねない。そうならないようにしなければいけないのだが、今の若者はコミュニケーションをとるのが苦手な人が多いと言われている。そうした人達は、人に相談することもままならず、どうしても一人悶々としてストレスと戦うことになりがちである。そうなると、悪循環に陥りそこから抜け出せなくてしまう恐れさえある。

何とか抜け出す必要があるのだが、悪循環を断ち切るためのひとつとして、先人の経験に学ぶという方法がある。先人の“戒めの言葉”や“教訓”などに学ぶのだ。いわゆる「箴言(しんげん)」である。人に悩み事などを相談した時に受けるアドバイスの代わりを箴言に求めるのだ。私も、こうした箴言を参考に、悩みを解決し前進した経験が度々ある。自分で悩み、納得し、解決していくには、大変参考になる。そこで、今回は新年度最初の四方山話ということで、新たな出発へのエールも込めて、そんな箴言をまとめた本を紹介しよう。城山三郎の「静かに 健やかに 遠くまで」(新潮文庫)である。若者ばかりでなく、働き盛りの人にも、また私のように黄昏始めた人にも大いに参考になる本である。

城山三郎は私の好きな作家の一人である。彼の作品はそれなりに読んでいたつもりであったが、今回紹介する本は、これまで読んだことがなかったものだ。箴言というと名を成した先人たちの言葉を集めたものが一般的だが、この本は少し違う。城山自身の作品に出てくる言葉ばかりを集めたものなのだ。勿論、作品の登場人物が語った言葉もあるのだろうが、城山自身が登場人物に語らせた言葉もあるのに違いない。

私は本を読む場合、気になる表現などがあると付箋を付ける癖がある。後で読み返した時に、「アーそうだった!」という思いにいち早く辿り着きたいからだ。付箋が多いほど、面白い内容だったということなのだが、果たしてこの本も、薄い文庫本なのに付箋の数は10枚を超えた。そんな付箋が付けられた気になる箴言の中から、新たな門出に相応しい二つを紹介する。どちらも柱になぞらえた、社会人としての心構えの話である。

まず一つ目は、「“スタッフとなる”ということはどういう意味があるのか」を説いている箴言である。城山は、この本の中で、「…スタッフという言葉は、ストックつまり杖という語源から来たものだ。ということは、会社にとって、君たちスタッフは今後、杖とも柱ともたのむ存在だということだ。それなりに、スペア的な消耗品とは別扱いにしなくてはならぬ」と書いている。

調べてみると、城山が言う通りで、 元々は偉い人が棒を杖にしたり武器にしたりしていて、文字通りその人を支えていた物を表していたのが、偉い人の支えになる「参謀」をstaffと言う様になり、やがて「職員」を表す様になったという。言い換えれば、「スタッフになるということは、取りも直さず会社の柱となる存在である」ということなのである。例え新人であっても、「将来は会社にとってなくてはならない柱になるんだ」との気概を持って、社会人としてのスタートを切ってほしいものである。

二つ目は、漕ぎ出した社会の中で、押し寄せる荒波を乗り越え、充実した生活を送るために身に付けておきたい術についてである。ニューヨーク在住の精神科医の意見を紹介しているのだが、精神的破滅に至らぬためには、「三つの柱を太くしておく必要がある」という。

1本目の柱は、家族とか友人とか、親しい人との付き合いである。私なりに解釈すると、喜びや苦しみ・悲しみを分かち合える、本音が言える仲間を持つ、ということになる。

2本目は、自分自身だけの世界を持つこと。「信仰とか読書とか思索とか、あるいは一人だけで出来る趣味の世界」と城山は書いているが、言い換えれば、「仕事以外で没頭できる趣味を持ちましょう」ということになるのだろう。

3本目の柱は、仕事とか、はっきりした目標や段階のある趣味の世界だと言っている。私なりに、「目標を持ちこれを達成することによって自信が生まれ、それが積極性に繋がる」ということではないかと理解している。

城山は、「こうした3本の柱がバランスよく太くなって、その上にのって居れば、一本の柱に何が起ころうと、後の2本が支えてくれる。打たれ強さもそういうことから出て来るのではないか」と述べている。確かにその通りだと思う。最近よく耳にする過重労働による精神的破綻に陥らないためにも、3本の柱は太く立派にしたいものである。

紹介したもの以外にも、心に響く箴言が数多くある。所詮、悩みが尽きないのが人生である。自らの人生を悔いの無い充実したものにするためには、何らかの手引きが必要だ。その手引きのひとつとして、本書を手元に置くことをお勧めする。悩みが生じたその時々に紐解けば、光明が見えてくるのではないかと思う。騙されたつもりで、まずどうぞ!

【文責:知取気亭主人】

こんな本を読んだこともあるのだが… 「静かに健やかに遠くまで」

【著者】城山三郎
【出版社】 新潮社
【発行年月】 2004/07/28
【ISBN】 978-4101133294
【頁】 236ページ
【定価】 529円(税込)

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