対策工設計業務では、対策工を記載した設計図面(平面図・縦横断面図・構造図等)が作成されます。
当たり前のことですが、施工業者さんにとっては発注者が求める成果品を作り上げるための大切な設計図となりますが、「自分自身に馴染みのある工種であればイメージはわきやすいけど、専門外もしくはあまり馴染みのない工法に対しては正直???」と感じる方もおられるのではないでしょうか。
例えば、斜面関係で育ってきた技術員が橋梁や道路事業に携わることになった場合、設計図の意図を把握するのは容易ではありません。
逆のパターンも同じです。
新たな専門用語を覚える作業は当然ですが、おそらくそれ以上に「どのような順序で施工していくのか分からない。」と不安になると思われます。
施工業者さんにとって、下請け業者や資材の工程を調整することは工事を円滑に進めるための重要な要素です。
また、施工順序を間違えることは単純な手戻りが生じるだけでなく、場合によっては作業員の安全にも影響がおよぶことが考えられます。
このようなことを少しでも低減できるように、「設計図もしくは施工図に施工順序を明記する」よう心がけることも設計サイドの気配り(工夫)の一つだと思われます。
例として豪雨時にちょっとずつ動くような地すべり現場を挙げてみます。
その設計図面には「頭部排土工」、「グラウンドアンカー工」が記載されています。
正しい施工順は、
手順(1)「頭部排土工」で地すべり力を低減する。
→地すべり土塊の安定性をある程度上昇させる。
手順(2)「受圧板工+グラウンドアンカー工」で地すべり滑動を押さえ込む(目標安全率達成)。
となりますが、
地すべりに慣れていない業者さんが担当する場合、どの工種からまず施工すれば良いのか?と疑問が生じるかもしれません。
発注者を通じて設計会社に確認する方法もありますが、時間のロスが生じます。
もしくは、手順(2)から取りかかったために、施工中に地すべりが動き、その影響で受圧板+アンカーが被災する、作業員を巻き込んだ災害に至る最悪の状態を引き起こす可能性がないとは言い切れません。
このような状況に陥ると、発注者や施工サイドから「施工順序をなぜ明記していなかったのか」、「設計の意図が施工業者に確実に伝わるようにすべきではなかったのか、一種の設計ミスだ」と言われかねません。
怖いですね。
これは地すべりだけに限ったことではなく、多種多様にわたる全ての工事に当てはまります。
設計サイドからすれば、“書かなくてもわかってくれるだろう”と言う考えがあると思いますが、必ずしもその分野に馴染みにある人が現場を担当する訳ではないことを常に頭に入れておくことが重要です。
以下に対策工計画縦断面図に対策工フローを記載したイメージ図(図中□)を示します。
対策工計画縦断面図のイメージ
地すべり対策事業には安全率と言う概念が存在しますので、作業フローと安全率の推移を並記しました。
また、施工項目についても設計サイドとしてはこういったところに注意して欲しいと追記するだけでも、現場の特性が表現された図面になると思われます。
これが正しい形というつもりはもちろんありませんが、設計図面にちょっと補足するだけでも設計サイドの意図を少しでも多く汲み取ってもらえるようになるのではないでしょうか。
ただ、あまり図面内にいろいろ記載すると見にくくなるので、ちょっとした美的センスは必要ですが・・・。
最後になりますが、みなさんが学校で経験した理科の実験では、実験方法が記載された教科書があったと思います。
文部科学省科学書ホームページ「学習指導要領「生きる力」小学校理科の観察、実験の手引き詳細 小学校理科の観察、実験の手引き 第3学年A(5)電気の通り道」一部抜粋
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/12/1304649_6_1.pdf
実験の手順(フロー)が分かりやすく記載され、間違いが極力生じないように工夫されています、しかも参考図付きで。
こう考えると作業フローの明記は重要だなと思っていただけると思います。
さらにもう一歩踏み込みたいと言う方は、作業フローを3次元で表現するのはどうでしょうか。
図面上(2次元)の盛土や切土等を立体的に表現すれば発注サイド、施工サイドともにイメージがつかみやすくなります(創意工夫等のポイントアップにも繋がる?)。
3次元を発注図面上に表現するのは難しいですが、施工計画書や地元説明会の資料の一つとしてご検討いただければと思います。