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 日本のスーパーコンピュータは世界で何番目なのか?
 〜「TOP500」の最新情報とグラフィックボードの進出〜
 

 前回の話題はグラフィックボードの特徴についてでした。その中でグラフィックボードはグラフィック処理以外の目的で使用されているとお伝えしました。

 そこで、今回はびっくりするような事例を2つほど紹介させていただきます。また、後半では、今月23日にスーパーコンピュータのランキングTOP500が発表されたこともあり、スーパーコンピュータについても触れさせて頂きます。


 さて、一つ目の事例は【金融】です。

 金融というと銀行を思い浮かべる方もおられるのではないでしょうか?銀行でグラフィックボードと言われても無縁に思われる方もいるかと思います。

 ですが、金融の世界ではグラフィックボードが大注目されているのです。

 実際に世界中の金融機関がグラフィックボードを搭載したシステムを導入して、グラフィックボードによる高速化の恩恵を受けています。

 何のためにグラフィックボードを導入しているのでしょう?

 金融機関にとって、日々変化する『市場』でのリスク管理や金融商品の価格設定はとても重要な項目です。そのため、金融機関は『市場』の変化をシミュレーションしてリスクの最小化や価格設定を行います。

 競争相手より優位に立つためには、できるだけ多くのシミュレーションを行って、より良い結果(ローリスクハイリターン)を求めることが必須です。

 「シミュレーションを行うコンピュータの性能が金融機関の力」と言っても過言ではありません。

 数年前の金融機関では、シミュレーションのために下図のようなCPUのみを搭載するマシンを通信ケーブルで接続したシステムが用いられていました。複数のマシンを接続させてコア数を増やすことでシミュレーションの高速化を実現してきました。

 しかし、時の経過と共に『市場』が大規模化し、このシステムではリスク管理や価格設定が困難になってきました。

 そこで、金融機関は数百〜3000近いコアを持つグラフィックボードを導入しようと考え始めました。

 例えば、下図のように、1000コアのグラフィックボードを搭載したマシンを4台接続すれば、4000コアのシステムが簡単にでき、大幅な高速化が期待できます。

 投資銀行のJPモルガンは、グラフィックボードを搭載したシステムでリスク管理の計算を40倍も高速化したと報告しています[1]。
なんと、1日掛かる処理が約30分で終わるのです。

 このようなシステムは世界の金融機関で採用されています。もはや、グラフィックボードなしでは現代の金融を語ることができなくなっています。

 さて、土木分野ではどうでしょうか?
 それが2つ目の例です。

 川や貯水池などの【水の挙動のシミュレーション】をグラフィックボードで高速化した研究結果です。

 このシミュレーションは、例えば川の流れやその川が氾濫してしまった時の氾濫解析に用いられています。


(Wikipedia, ”Shallow Water Equations”, http://en.wikipedia.org/wiki/Shallow_water_equations

 まだ研究の段階ですので、今すぐではないかもしれませんが、将来的に土木関連のシミュレーションを当たり前のようにグラフィックボードで高速化する日が来るかもしれません。

 この水の挙動は2次元浅水方程式というものを解くことで求める事ができます。この計算を実大スケールでシミュレーションした場合、CPUでは非常に時間がかかります。

 ザイツら[2]は、この2次元浅水方程式を用いたシミュレーションをグラフィックボードで高速化した研究結果を発表しています.

 彼らの論文では,Intel Core-i7と比較して、処理時間をグラフィックボード(1536コア、2GBメモリ)で最大122倍高速化したと報告しています。

 これは、24時間かかっていた処理が約12分で終わってしまうということです。

 しかも、数百万の高性能なシステムを購入するわけではなく、家電量販店やパソコンショップで販売されている数万円のグラフィックボードただ1つでこれだけの高速化ができたのです。

 非常に魅力的な研究成果だと思いませんか?


 さて,これまでにグラフィックボードを利用した事例を2つ紹介させて頂きました。

 ここで、「じゃあ、あれにも搭載されているの?」という疑問は出てきませんでしょうか?

 「あれ」とは?

 一時、日本のメディアでも毎日のように取り沙汰された「あれ」です。

 一般の人にも幅広く認知され、2011年6月に世界1位になった「あれ」です。

 そうです!

 (独)理化学研究所と富士通(株)が共同開発した日本のスーパーコンピュータの「京」です。

 結論から言いますと、「京」にはグラフィックボードは搭載されていません。

 富士通(株)が開発したCPUだけで構成されています。独自に開発したCPUやTofu*と呼ばれる最先端の通信方法を用いて世界1位を達成しました。
*語源は豆腐です。

 じゃあ、スーパーコンピュータにはグラフィックボードが搭載されていないの?

 と思われるかもしれませんが、グラフィックボードを搭載したスーパーコンピュータは存在します。

 世界中のスーパーコンピュータのランキング決めるプロジェクト「TOP500」というものがあります。ちなみに、「京」はこのTOP500での世界1位の獲得を1つの目標として掲げていました。

 2014年6月23日に発表されたTOP500に名を連ねる500台のスーパーコンピュータの中で、46台がグラフィックボードを搭載しています。

 また、日本のスーパーコンピュータは30台ランクインされています。

 下表は,TOP500の上位5位と13位を示したものです。

順位 名前 グラフィックボード
1位 天河2号 × 中国
2位 タイタン アメリカ
3位 セコイア × アメリカ
4位 × 日本
5位 Mira × アメリカ


13位 TSUBAME2.5 日本

 残念ながら、京は第4位でした。

 1位の「天河2号」、3位の「セコイア」、4位の「京」と5位の「Mira」にはグラフィックボードは搭載されていません。

 2位のスーパーコンピュータ「タイタン」(アメリカ)にはグラフィックボードが搭載されており、18,688個も搭載されています。

 グラフィックボードのコア数は全体で50,233,344となります。

 
(スーパーコンピュータ「タイタン」: https://www.olcf.ornl.gov/titan/

 13位のTSUBAME2.5(ツバメ2.5)は東京工業大学のスーパーコンピュータで、4000個以上のグラフィックボードが搭載されています。

 さすが、スーパーコンピュータと言われるだけあり、とても多くのグラフィックボードが搭載されています。

 (スーパーコンピュータに関しては番外編として記事にする予定です。)

 今回は記事や論文からグラフィックボードの高速化を紹介しましたが、次回は実際にいくつかのアプリケーションをグラフィックボードで実行させて、どれくらいの高速化ができるのかを見ていきたいと思います。

 <参考文献>
[1]. NVIDIA, “INTRODUCING NVIDIA TESLA GPUs FOR COMPUTATIONAL FINAMCE”.
[2]. K.A. Seitz, A. Kennedy, O. Ransom, B.A. Yunis, and J.D. Owens, “A GPU Implementation for Two-Dimensional Shallow Water Modeling”, arXiv:1309.1230v1 [cs.DC], Sep. 2013.

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