これまでは、グラフィックボードによる様々な処理の高速化を中心にお伝えしてきました。このグラフィックボードによる高速化というのは、最初から早かったのでしょうか?そうではありません。そこで、今回はグラフィックボードの成長についてお伝えさせて頂きます。
グラフィックボードは2000年以降に急激に性能向上しました。下の2つの3D 画像は、その性能がどれくらい向上したのかを示しています。グラフィックボードですので、数値のグラフより分かりやすい3D画像で比較させていただきます。

(出典:NVIDIA, http://www.nvidia.co.jp/coolstuff/demos )
左の3D画像は1999年に発表されたNVIDIA Geforce 256でのデモ画像です。一方、右は2012年に発表された同社のGeforce GTX 690のデモ画像です。
右の画像の方がリアルな感じがしませんでしょうか?
左の画像は3Dっぽいですが、草などをよく見てみると現実のものとはかけ離れています。しかし、右の画像の顔や羽は非常にリアルになっています。また、羽のグラデーションはとても綺麗です。
1999年のGeforce 256ではリアルタイム処理するには左の画像程度が性能的に限界でした。それから2012年までの13年間でグラフィックボードの性能は飛躍的に向上し、右の画像でもリアルタイム処理することができるようになりました。
さて、2000年代に入ってからグラフィックボードは急激な成長を遂げたわけですが、いつ頃からグラフィックボードは動画像処理以外で使われるようになったのでしょうか?
Google トレンドという過去の検索ワードの動向を探るサービスで、それを確認してみました。
コンピュータ業界では、動画像処理以外にグラフィックボードを用いることを「GPGPU*」と呼んでいます。
下のグラフは、「GPGPU」という言葉の検索動向の結果を示しています。
*General-purpose computing on graphics processing units(グラフィック処理ユニットによる汎目的計算)の略名です。
横軸は年月を示し、縦軸は「GPGPU」が最も検索された週を100%として、それに対する検索の割合を示しています。
「GPGPU」は、2005年以前ではほとんど検索されていないことが分かります。
実は、「GPGPU」という言葉は2002年には存在していました[1]。
そして、前年の2001年、研究機関では既に動画像処理以外でグラフィックボードを利用する試みが行われていました[2]。
しかし、当時のグラフィックボードには色々な制限がありました。
また、動画像処理以外に利用するには高度な知識が必要だったので限られた人達しかできなかったのです。
そのため、2005年以前は動画像処理以外でグラフィックボードを利用することが普及しておらず、「GPGPU」という言葉の検索動向はほぼ0%となったのです。
「GPGPU」は2005年から突然検索され始めました。
なぜでしょうか?
実はこの時期から、動画像処理以外でグラフィックボードがCPUより高速に処理した論文が発表され始めました[3]。
これらの研究結果を知った研究者や専門家がグラフィックボードに注目し始め、「GPGPU」という言葉が検索されたのだと考えられます。
さらに、2006年には動画像処理以外でも容易に利用するための開発環境が提供されました。
しかも、それは無料で提供されたので動画像処理以外での利用に拍車をかけたのです。
以降、グラフィックボードのコア数とメモリ容量は増加していき、様々な処理が劇的に高速化されました。
そして、さらなる高速化のために、複数のグラフィックボードを1台のPCに搭載するようになりました。下の図は、その一例です。

(出典:ASUS, http://www.asus.com/jp/Motherboards/Z97PRO/ )
2010年には、インターネット通販サイトのAmazon.comが、下の図のようにインターネット越しにグラフィックボードを利用して高速化できるクラウドサービスの提供を開始しました[3]。
(クラウドに関しては「土木へのクラウド、iPadの普及」を参照)このようなクラウドサービスを利用することで、高価なグラフィックボードを利用できるようになりました。
グラフィックボードは現在も成長し続け、皆様がお使いのPCだけでなく、現在ではスーパーコンピュータでも利用されています。
今後、グラフィックボードが土木分野でどのように活躍するのかが楽しみです。
<参考文献>
[1] GPGPU.org, http://gpgpu.org
[2] N. Galoppo, N. K. Govindaraju, M. Henson, and D. Manocha, “LU-GPU: Efficient Algorithms for Solving Dense Linear Systems on Graphics Hardware”, Proc. of the 2005 ACM/IEEE Conference on Supercomputing, Page 3, 2005
[3] Amazon EC2, http://aws.amazon.com/jp/ec2/