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 スーパーコンピュータの進化、そして、まさかの進化事例
 

 1年前のスーパーコンピュータのランキングを以前にこちらで紹介しました。それから1年経ち、この1年間でスーパーコンピュータはどれくらい進化したのでしょうか?2倍?10倍?あるいはもっと?

 2015年7月12日から16日にドイツで開かれるInternational Supercomputing Conference 2015で今年上半期のスーパーコンピュータのランキングTop500が発表されます。

 前回の1位(2014年11月)天河2号が1位をキープするのか?それとも新しいスーパーコンピュータが首位を獲得するのか?私は、世界のスーパーコンピュータの現状を考えると、今回も天河2号が1位になるのではないかと予想しています。しかし、この半年でランキング自体がどのように変化するのか私も楽しみにしています。

 また、Top500と同時に発表されるGreen500も気になるところです。Green500は電力対性能のランキングで、前回のGreen500では日本のベンチャー企業PEZY Computingとその関連会社ExaScalerのシステムSuiren(睡蓮)がいきなり世界2位になりました。大学などの支援を受けていたそうですが、両社合わせてわずか20名でそんなとんでもないことを成し遂げました。現在も改良を続けているみたいなので、今回のGreen500では1位になるかもしれません。期待が高まります。

 今年上半期のランキング発表のためにおさらいを兼ねて、今回はこれまでのスーパーコンピュータがどれぐらいの性能だったのかを紹介したいと思います。さらに、物珍しい進化事例も紹介させていただきます。

 1946年、世界初のコンピュータと言われるENIACがペンシルバニア大学で開発されました。それから18年後の1964年、世界初のスーパーコンピュータと言われているCDC 6600が登場しました。CDC 6600の最大性能は3メガフロップス※1だったそうです[1]。

 3メガフロップスとは「1秒間に実行できる浮動小数点演算の回数は3,000,000回」という意味になります。とても多くの計算ができると思いますが、例えば、2000万画素のデジタルカメラで撮影したカラー画像をモノクロに変換するには1分以上度掛かります。今の御時世、3メガフロップスでは誰にも相手されない性能であることが分かります。ちなみに、今時のスマートフォンでは100ギガフロップスを超えるものも珍しくはありません。

 話は戻りますが、現在1位の天河2号の最大性能は約54.90ペタフロップス[2]ですので、スーパーコンピュータが誕生してから約50年間で

も最大性能が向上したことになります。

CDC 6600
CDC 6600
(https://ja.wikipedia.org/wiki/CDC_6600)
 
天河2号
天河2号
(http://www.nudt.edu.cn/Articleshow_eng.asp?id=6279)

 これほどの性能向上の背景には、様々な技術の進歩があります。

 まず、第一に挙げられるのは、半導体の微細化技術です。端的に言えば、半導体で作られている機器をより小型化する技術です。微細化技術が発展したことで、物理的に同じ面積のチップ上に非常に多くのトランジスタを載せることができるようになりました。

 その結果、メモリの容量は増加し、CPU設計の幅も拡がりました。また、CPUの動作周波数の向上にも貢献しました。

 2000年代に入ると半導体の微細化が進み、CPUの消費電力や発熱が無視できなくなると、CPUはインテルのIntel Coreシリーズの様にマルチコア化へと方向転換して性能向上を図ってきました。この流れは、皆様がお使いになっているパソコンのCPUでも同じことが言えます。

 一方、スーパーコンピュータではCPUの性能向上だけでなく、通信性能も重要な要素となります。

 スーパーコンピュータは、上図の写真のように大量のCPUやサーバーをつなげています。具体的には下図のように、複数のCPUを搭載したサーバーを連結して構成されています。なので、CPUだけが高速になっても、このサーバー間の通信が遅ければ、スーパーコンピュータ全体の性能は向上しましせん。

サーバー間の通信図

 そのため、高速な通信方法と通信効率のよい接続方法がスーパーコンピュータで採用されています。昔の通信方法は単純に電線を撚り合わせたツイストペアケーブルでしたが、現在では高速な光ファイバが利用されています。

 何百何千もあるサーバー間の接続方法は、通信効率を向上させるために、様々な方法が研究され、実用化されています。

 スーパーコンピュータ内はCPU間またはサーバー間で頻繁にデータの送受信が行われています。さらに、そのデータ送受信は何千以上も同時に行われます。となると、どの経路が最短なのか?どの経路は今使われているのか?が問題となります。また、転送中のデータが行方不明にならないように信頼性も保証しなければなりません。

 京ではTofu(豆腐)インターコネクトとよばれる方法でサーバー間を接続しています。アメリカのスーパーコンピュータ専門のクレイから発売されているXC30ではドラゴンフライトポロジーと呼ばれる接続方法が採用されています。

Tofuインターコネクション
Tofuインターコネクション
(http://www.fujitsu.com/global/about/businesspolicy/tech/k/whatis/network/)

 さて、突然ですが、2006年にソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されたPlayStation®3はご存知でしょうか?

PlayStation3
PlayStation®3

 上の写真は弊社ゲーム好きに撮ってきてもらったPlayStation®3の写真です。最近は昔に比べて小型化していますが……ともあれ、PlayStation®3にはCell Broadband Engine(以下、CBEと呼称)と呼ばれるパソコンのCPUに相当するプロセッサが搭載されています。

 このCBEはPlayStation®3に搭載することを大きな目標としてソニー・コンピュータエンタテイメント、ソニー、東芝、IBMの4社によって開発されました。そして、ハイビジョンテレビや医療機器などの組込みシステムでも採用されていました。

 CBEは下図のように9コアで構成されています。その中の1コア(図中のPPE)はCell Broadband Engineを制御するために利用されます。残りの8コア(図中のSPE)が演算専用です。同時期の2006年に発表されたインテルのIntel Core2シリーズは最大で4コアでした。CBEはCPUよりコア数が多く、演算専用コアの実効効率が高かったので、当時最新のCPUより10倍も高速でした[3]。

CBEの全体像
CBEの全体像
(IBM, “Cell Broadband Engine CMOS SOI 65 nm Hardware Initialization Guide”)

 高性能なCBEはIBMのスーパーコンピュータRoadrunnerに導入され、2008年6月にRoadrunnerは世界最速のスーパーコンピュータになりました。Roadrunnerの最大性能は、その半年前(2007年11月)時点で1位だったBlueGene/Lの約2.3倍にもなったのです。

Roadrunner
Roadrunner
(http://www.lanl.gov/discover/news-release-archive/2008/June/06.12-roadrunner-supercomputer.php)

 CBEはゲーム機や組込みシステムをターゲットとしていましたが、以前にお話したグラフィックボードと同じように、性能が非常に高いため、スーパーコンピュータに搭載され、その性能向上に一役買ったのです。

 この高性能なCBEを搭載したPlayStation ®3はおもちゃ屋や家電量販店で売られていましたので、手に入れること簡単です。また、価格も当時のパソコンより安価でした。となると、PlayStation ®3をたくさん購入して、それらをLANケーブルで繋げて科学技術計算に利用することは、研究者達にとって自然な考えでした※2

 実際に、世界中の研究機関でPlayStation ®3を複数台繋げて様々な科学技術計算を高速化していました。また、国内ではCell Broadband Engineのスピードコンテストも開かれていました[4]。

 これだけの勢いがあったCBEですが、現在はGPU(Graphics Processing Unit)による高速化が世界中で行われています。GPUを搭載しているスーパーコンピュータも少なくはありません。CBEからGPUへの変化は、GPUの安さと数百数千コア数の搭載が要因だと思います。さらに、充実した開発環境と簡単なプログラミング形態も後押したとも考えられます。

 最近では、天河2号でも搭載されているインテル社のXeon Phiも注目されています。天河2号で利用されているXeon Phiは57コアと数千コアをもつGPUより断然少ないのですが、Xeon Phiを2,736,000個も搭載しており、物量作戦でコア数を増やして性能向上を図っています。(ただし、電力は17,808kWととんでもないレベルです。Top500で現在2位のスーパーコンピュータTitanの約2倍の電力です。)

 CPUではなく、GPUやXeon Phiなどの他のデバイス(アクセラレータ)で計算することが最近のスーパーコンピュータの流行りであり、現状においては性能を向上させる大きな手段となっています。

 これは絶対性能ランキングTop500だけでなく電力対性能ライキングGreen500でも同様のことがいえます。さて、7月のランキングではどうなるでしょうか!

 そこで、次回はInternational Supercomputing Conference 2015で発表されるスーパーコンピュータランキングと次世代スーパーコンピュータの動向について紹介します。

※1 フロップス:1秒間に浮動小数点演算できる回数。浮動小数点演算とは小数に対する演算処理のこと。
※2 PlayStation®3を科学技術計算に使うためにはLinuxというOSをインストールする必要があるのですが、そのインストール機能は2010年にセキュリティの問題から無効化されました。そのため、現在はPlayStation®3で科学技術計算はできません。

<参考文献>
[1] EXTREMETECH, http://www.extremetech.com/extreme/125271-the-history-of-supercomputers
[2] Top500, http://www.top500.org/lists/2014/11/
[3] IBM, https://www-01.ibm.com/chips/techlib/techlib.nsf/products/Cell_Broadband_Engine
[4] Cellスピードチャレンジ, http://sacsis.hpcc.jp/2008/cell/

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