地震応答解析ではよく地震波形を引き戻すという操作をします。
引き戻す操作とは何でしょうか?
地震波形は気象庁の震度観測点などで観測されています。気象庁の観測点は全国にあります
。その数は実に1000箇所(平成27年1月21日現在)を超えます。
その他、海洋研究開発機構、防災科学技術研究所、港湾空港技術研究所、東京大学、東京ガスなど様々な場所で地震は観測されており
、緊急地震速報などにも利用されています。
これらの観測点は地上にあるものと地下にあるものがあります。
一方、地震応答解析はこれらの観測所の位置とは必ずしも関係のない場所で行われます。位置もそうであれば
、深さ(モデルの大きさ)も異なります。
解析領域の底面以深から地震が伝達し、底面から地震波が入射されたと考えるのが一般的な地震応答解析です。
さて、ここで問題となるのが観測点と解析対象の位置の違い。そして観測された地震波形の深さと解析領域の底面の深さの違いです。
位置の違いに関しては、今回は取り扱いません。
今回は観測波形と解析対象の深さの関係に着目していきます。
さて、観測点で得られた波形には地表面で得られた波形と地下で得られるものがあるといいました。
この二つの何が違うかといいますと、前者は進行波(E波)のみが含まれており
、後者は進行波(E波)と後退波(F波)の成分が含まれているということです。
それは一体、何のことでしょうか?
端的に言いますと、地表面で反射された成分が含まれているかいないかの違いです。
地震波が一度地表面に達した後に反射して、地中に戻っていく波形、これを後退波(F波)といいます。
地震波は通過した地盤の影響を受けます。
下図に示すような基盤から入射された波形(E波)が地中内を伝達していき、地表面に達した後、逆方向に進行していく場合(E+F波)を考えます
。この時、基盤のE波と呼ばれる入射波はそれ以深の地盤の影響はあるものの
、それ以上の領域の影響を受けていません(反射波が基盤面に到達すればその限りではありません)。
地盤内で観測されたE+F波と呼ばれる波形は、観測位置より上の地盤の影響を受けた波形となります。
したがって、解析対象位置の地盤が、観測位置の地盤と異なる場合は当然異なる地盤を通過したという情報を含んだE+F波を使うのは難しいです。
もちろん地表面観測波形も同じくそれまで伝ってきた地盤の影響を受けています。
では、他の地盤を通過した場合の地表面波形は?
と考えると同じく使うのが難しくなります。
一般的には、地表面観測波形に対して距離減衰式などを用いて解析対象となる現場の位置を考慮して
、その点である波形が観測されましたと考えます。
そして、地表面でその波形となるような、解析領域底面に入射される波形は何か?
という逆問題を解く事で解析領域に用いる波形(2E波)が決定します。
これを波形の引き戻しといいます。
概念としては以下図のようになっています.
上図(左)は基盤までのすべての地層を考えたものです。
上図(右)は2次元の解析モデルと同じく解析底面に粘性境界を入れたものです。粘性境界を導入する事で
、底面以深が粘性境界のパラメータに準じた線形等方弾性体(あるいは粘弾性体)になる事が保証されます(以下の計算では右側を用いています)。
さて、試しに波形の引き戻しを行ってみました。
地震応答解析手法として、今回は等価線形化解析を用いました。
解析モデルは以下の通りです。
この時、解析モデルの右側自由地盤(解析モデル側面の水平成層地盤:基盤1
、基盤2の材料)を用いて波形の引き戻しを行いました。
地盤のモデルはHardin-Drnevichモデルを用いています。今回は等価線形化解析を用いていますので、ひずみレベルによってせん断剛性G・減衰定数hが変化しています。
地表面で観測された波形は以下のように設定しています。
この時、以下の引き戻し波形(2E波)が得られます。
この引き戻し波形を解析領域底面から入力すると地表面で観測波形に一致します。
さて、引き戻し波形をみますと、引き戻し波形は観測波形に比べて加速度が大きくなっているのが分かります。
上図の波形を解析底面に入力した場合に地盤内で減衰・反射・散乱して加速度が小さくなることを意味しています。