汎用される地震応答解析手法として等価線形化解析と時刻歴応答解析があります。
前者は運動方程式を周波数領域(端的にいいますと、変位を振動数ωs毎のSinωstとCosωstの和であると仮定した方法、フーリエ変換がキーワードです)で解く手法です。
後者は運動方程式(力の釣り合い式)を時々刻々積分していく方法です。
等価線形化解析と時刻歴応答解析の特徴を以下図に示します。
等価線形化解析と非線形時刻歴応答解析の特徴
理論的には時刻歴応答解析の方が荷重を負荷する
、取り除く(除荷)事による影響を考慮できるため、より現実的な挙動を扱う事ができます(経時的な地盤物性の変化を表現可能)。
一方、等価線形化解析は経時的な地盤物性の変化を表現できません。
しかし、ひずみレベルによってせん断剛性と減衰定数を変化させることで簡易的に上図右側のような応力−ひずみ関係を考慮する事ができます(せん断剛性と減衰定数を変化させないものを複素応答解析といいます)。
さらに加えて計算が早いという特徴があります。
良く等価線形化解析は計算が早いと言われています。
なぜ早いのか?
それは解くべき連立方程式の数が時刻歴応答解析に比べて少ないからです。
下図に地震間隔(0.01secごとにデータがある)を一定とした場合に、横軸に地震継続時間をとった場合の計算数(求解数)を示しています。
時刻歴応答解析と複素応答解析の求解数の関係
解析ステップ数(Step)が時刻歴応答解析で行う連立方程式を解く数です。
例えば、地震継続時間100秒に対して、地震間隔0.01秒とすると、10000ステップになります。
なお、上記はあくまで地層が全て弾性体の場合の解くべき数であり、目安です。
非線形材料を用いた場合にはもっと計算を行う必要があります。
一方、赤色、緑色が複素応答解析での計算回数です。
等価線形化解析はこの計算回数×繰り返し回数になります。
地震継続時間100秒で地震間隔0.01秒の地震データに対して、0〜18Hzまで計算を行った場合には『1800回×繰り返し回数』が必要となります。
経験的なものですが等価線形化解析は3、4回で収束しますので約6000回の計算で済みます。
一方、非線形の時刻歴応答解析では1ステップごとに3回、4回あるいは10回近い繰り返し計算がありますので同じ地震時間と地震間隔でも3、4万回近い連立方程式の求解が必要になります。それに比べると等価線形化解析は、計算数が少ないため、非常に早く計算が終わります。
時刻歴応答解析で2、3時間かかるものが等価線形化解析では5分で終わる事もあります。
勿論、計算時間が早いからと言って必ず良い方法なのか?
というとこれはまた違う話です。
あくまで現象を表現する事を目的として解析していますので、早くても結果に問題があるのでしたら用いる事が出来ません。
実際、等価線形化解析はひずみが0.1〜1%までが適用範囲とされています。 一方、非線形時刻歴応答解析はそれ以上のひずみでも適用可能です。
実際、両者の計算結果はどれぐらい違うものなのでしょうか?
実際に試してみました。
異なる計算方法ですので、全ての条件を同じにすることはできませんが、極力同じになるような条件を用いました。
解析モデルは以下図のような非常に簡単なモデルです。モデルサイズ、メッシュ等に関しては共通としました。
解析モデル
境界条件に関しては以下の通り設定しています。
静的自重解析の時には全く同じ境界条件としています。
地震応答解析時には、底面水平粘性境界・鉛直固定は同じにして、側方向の境界条件はそれぞれ以下図に示す通りに設定しました。
(なお、非線形材料を扱う時刻歴応答解析ではエネルギ伝達境界が定義できません。粘性境界は適用可能ですが、今回は鉛直固定・水平スライドとしました)
静的自重解析時(初期応力算定時)
@ 時刻歴応答解析
A 等価線形化解析
材料物性は共通となるように設定しました。
@ 時刻歴応答解析
レイリー減衰については簡易に全各振動数に対して、h=5%の減衰が作用するように以下のように設定しました。
レイリー減衰の設定

A 等価線形化解析
HDモデルの最大減衰定数に関しては、時刻歴応答解析に用いるMasing則によるhの最大値が約60%ですので、これに合わせるようにhmax=60(%)としました。
地震波形に関しては、等価線形化解析では加振開始前と加振終了後後に0Galを多くとらないと厳密な計算はできないため、以下のように設定しました。時刻歴応答解析の場合は前方に0Galがあっても結果はかわりません。そこで、解析時間を考えて波形前・後の0Galは省略しています。
解析結果を以下に示します。以下図は最大加速度分布になります。
最大値のみで見るその最大値などは変わっているように見えます。そこで、時刻歴の波形を取り出してみました。
時刻歴応答解析 最大加速度分布
等価線形化解析 最大加速度分布
解析モデル底面(図中A)の応答加速度波形を比較したものがこちらです。
青線が等価線形化解析、赤点が時刻歴応答解析の結果です。最大Galを示す辺りでは異なっていますが、それ以外の所は概ね一致しています。
解析モデル上面(図中@)の応答加速度を比較したものがこちらです。
定性的には両者は一致しており、加速度が比較的大きい場合を除いて殆ど一致しているように見えますが、かなりのずれがあるように思えます。
そこで、更に時刻歴応答解析でΔt=0.001secとした解析結果との比較を行いました。
モデル底面(A)の加速度比較、モデル上面(@)の加速度比較は以下図のようになりました。
モデル底面Aの応答加速度比較
モデル上面@の応答加速度比較
上図、点線で囲った部分も時刻歴応答解析と等価線形化解析で良い一致を示しています。
今回の簡易な解析モデルにおいては、となりますが、
応答加速度が大きい部分ではひずみも大きくなる傾向にありますので、この付近では異なっておりますが、小さな応答加速度、すなわち小さな慣性力が作用している場合にはあまり差は見られませんでした。
ちなみに、時刻歴応答解析ではΔt=0.01secでは1時間ほど、Δt=0.001secでは6時間強かかりました。等価線形化解析では、ひずみの計算を合わせても15分少々でした。
再三となりますが、等価線形化解析の適用範囲は0.1〜1%程度といわれています。
発生しているひずみレベルを確認しながら、『今対象としている問題を考える上でどちらの手法を用いると良いか?』を判断されるのが良いと思います。