前回、「詳細ニューマーク法で計算してみました」において詳細ニューマーク法で計算してみました。詳細ニューマーク法は地震応答解析の結果をニューマーク法に用いる手法です。
地震応答解析を行った後にニューマーク法の計算を行うということは,FEM解析と安定計算の2つの解析手法を使う必要があります。
そうなるとどうなるでしょう?
FEM解析は変形する材料を使った解析です。
地盤が変形すると仮定して地震波を入力して解析を行います。その結果,応答加速度が得られます
。その応答加速度を用いてその後に,変形しないと仮定した剛体の計算を行います。
違和感はありませんでしょうか?
折角FEMで土の変形挙動を考慮できるのですから,変形したまますべりが考慮できるとより現実に近い形で計算が可能だといえます
。他にも,どの位置の応答加速度を用いるのが良いか?という議論も出てきます。
平均値で良いのでしょうか?あるいは特定の点で良いのでしょうか?
それに滑っている場合と滑っていない場合で応答加速度は本当に同じなのでしょうか?
疑問は尽きません。
そこで,それが可能なものを作ってみました。
細かい理論や作り方に関しては割愛します1)〜5)。
X-FEMというFEMで亀裂を扱う手法を応用して作成しました。
今回はその手法を用いて,試しに下図のような道路盛土を考えて計算してみます。
各層での物性値は以下の表に表される通りです。まず手始めと考えて硬い材料の場合にはニューマーク法と似たような結果がでるか?という事を考えて与えた物性値です
。かなり弾性係数の大きい材料になっていますが変形する物体であることに違いはありません。
さて,ここで重要なのは摩擦係数と粘着力を考慮していることです。
(* 内部摩擦角は見掛けの摩擦角ですので,本来はすべり面表面の摩擦係数とは違います
。)
また,材料は線形等方弾性体としています。
(*弾性体ですと,力を抜くと変形が元に戻りますのですべり土塊自体の変形をより良くあらわすためには弾塑性材料の適用が大事だと思います6)。)
さて,地震波に関しては,3つ用意いたしました。3つの波形をモデル底面から入力しています
。波形引き戻しに関してはまた後日と言いましたが,さらにまた後日とさせて頂きたいと思います。
@ 1995 兵庫県南部沖地震
A 2003 十勝沖地震
B 2011 東北地方太平洋沖地震
以上の3つの波形を用いています。
今回の手法では複数のすべり面を同時に考慮可能ですが,まずは1つのすべり面だけを対象に計算しています。以下がその結果です。
変形図だけでは分かり辛いですので時刻歴での天端沈下量(斜距離としています)を表示したものが以下となります。
下図の左側がR1というすべり面です。右側がR2というすべり面での結果です。
ニューマーク法との比較を行っています。
概ね似た傾向にあります。特に,すべり始めの位置に関しては全くと言ってよい程同じになっています
。これはすべり条件(すべり面の摩擦則)がニューマーク法と同じになっているからです。
御覧の通り,変形する材料で,かつ応答加速度をあるがままに考慮して計算ができています。(ニューマーク法の計算には入力波そのままを利用しています
。堤体内の平均などですともう少し地震波が大きくなりさらに近い結果になると思われます)
さて,本手法の特徴として,複数のすべり面を同時に考慮できると先程書きました。試しに行ってみた物が以下の結果です。
二つのすべり面があるのが見えるかと思います
。1つのすべり面と2つのすべり面を考慮した場合での残留沈下量は以下のようになっています。
特筆すべきこととして,両方を考慮した場合の方が小さく出る事があるようです
。これはモデル内に入ってくる地震によるエネルギがそれぞれの円弧を滑らせるために消費したからだといえます。
結論。
FEMを使ってあるがままの応答加速度を使ってすべりの変形量を計算することはできる!
参考文献:
1 新保泰輝,川瀬貴史,矢富盟祥,動的拡張有限要素法を用いた圧縮荷重下にあるすべり面の解析,第46回地盤工学研究発表会,2011.
2 新保泰輝,矢富盟祥,動的拡張有限要素法を用いた複数すべり面を有する斜面の残留変形解析,第47回地盤工学研究発表会,2012.
3 川瀬貴文,新保泰輝,鈴木達也,矢富盟祥:動的X-FEMを用いた引張亀裂を有する盛土の地震時破壊形態に関する基礎的研究,第48回地盤工学研究発表会,2013
4 新保泰輝,矢富盟祥,亀裂進展解析による地震時の河川堤防分離破壊の解明,地盤工学会特別シンポジウム-東日本大震災を乗り越えて-,2014/5/14.
5 新保泰輝, 鱸洋一, 高森秀次, 動的X-FEMを用いた地震時残留変形解析手法の開発とその応用,建設コンサルタンツ協会北陸支部 業務・研究発表会,2013.(採択論文21編中8編),http://www.hr-jcca.jp/pdf/H25ronbun/sect1.pdf
6 新保泰輝,蔵岡恵里,川瀬貴文,矢富盟祥,土水連成動的X-FEMを用いた地震応答解析手法の開発,第48回地盤工学研究発表会,2013.