予防保全型の維持管理。最近のキーワードですが、土木ではアセットマネジメント、構造物の延命化などともほぼ同じ意味で使われています。損傷が発生してから対応する対症療法型管理ではなく、損傷の推移を適切に予測し事故の発生を未然に防ぐ、予防保全型管理に転換すれば軽微な対処ですみ、結果的にトータルコストが縮減できるという考え方です。アセットマネジメントの言葉自体は、もともと資産を効率よく管理・運用することで、証券や不動産の業界でよく使われていました。それを土木の分野にも適用したわけです。もともと公共の構造物は我々の税金を投資した資産ですので、その資産をより効率的に管理し、その受益を納税者に効果的に配分(公共サービス)することができるわけです。 |
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この分野では「東京都」が先進的な役割を果たしており、当初は道路施設である道路(舗装)、橋、トンネル等を対象に検討されてきましたが、最近は河川や下水道にも具体的な動きが出てきています。もはや新規の建設構造物は極端に減り、これまでに作った構造物を如何に管理するかが社会の命題となっています。そして我々技術者に求められる技術も建設の技術から維持管理の技術に変わってきているのです。
今回、それぞれのテーマ別に動きをまとめてみました。
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国土交通省全般の動き |
2009年6月25日刊工業新聞に国土交通省が河川管理、道路、下水道、港湾の各施設を中心とした社会資本の維持管理・保全技術について実態調査を実施し、適切な維持管理により高度経済成長期に集中的に整備された社会資本の寿命を伸ばし、公共事業費の膨張を抑えていくという記事が掲載されています。
これまでの事後的管理を改め、早期に損傷を見つけ事故や大規模な修繕に至る前に対策を講じる予防保全的管理への転換が狙い。維持管理にかかわる技術の実態・動向を把握して「戦略的な維持管理を実現する技術基準類を体系化し、技術者の育成・資格制度なども視野に必要な体制を検討する」(技術調査課)方針のようです。
1つの大きな市場となる分野でもあり、資格制度も検討されています。「コンクリート診断士」は学会・協会レベルで先を見て設定された資格ですが、他の分野でも同様の維持管理の資格が登場しそうです。
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東京都の動き |
東京都は、管理道路橋の効率的かつ効果的な維持管理のあり方を検討する目的で2009年1月に「東京都橋梁長寿命化検討委員会」を設置しています。そして4月23日、「橋梁の戦略的予防保全型管理に向けて」とする答申をまとめています。この中では、対症療法的管理から予防保全型管理への転換の必要性と方策を示し、長寿命化対象橋梁212橋に対して今後100〜200年の延命が図られ、30年間で1兆円のコスト削減が可能としています。今年度は東雲橋(橋長104b)で長寿命化工事を実施予定で、架け替えた場合は約120億円かかるとされるが、支承取り替えや下部の補強などの長寿命化工事は28億円ですみ、寿命は今後100年延びる、としています。また答申には予防保全の考え方、流れ、ポイントなどが具体的に示されており、都は今後、他の道路管理者も今回の成果を有効活用できるように検討したい考えのようです。技術者としては是非目を通しておきたい資料です。
○「橋梁の戦略的予防保全型管理に向けて」とする答申(東京都ページに直リンク)
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道路分野の動き |
国土交通省では、2001年1月6日に、「社会資本整備審議会道路分科会」を立ち上げています。これまでに11回の会合が実施されその詳細は公開されています。立ち上げこそ早かったものの、具体的な動きという点では、東京都などに比べあまり見えてきていません。
○社会資本整備審議会道路分科会
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河川分野の動き |
2009年06月12日日刊建設工業新聞に国土交通省の進める河川関係の予防保全型の維持管理に関するニュースが載っていました。
国土交通省は、直轄管理する1級河川に、「予防保全型」の維持管理手法を導入する。定期的に行っている各河川の現況把握調査などを利用して防災上の問題点を事前に把握。河川管理施設の改修や更新を、災害が起きてからではなく、予防保全として計画的に実施する。予防保全を充実させることで、対症療法的な改修・更新よりも少ないコストで災害に強い川づくりを進めるのが狙い。同省はこのための専門組織として「河川基本技術会議」を設置。9月からまず11河川を対象に現状の分析・評価に入る予定だ。河川基本技術会議は、本省の河川整備と管理の担当者と、国土技術政策総合研究所と土木研究所の河川、環境の専門研究員で構成する。
同省は、直轄管理する1級河川109水系について、縦横断測量や河床材料調査などを定期的に行っている。毎年度20〜30水系が対象となり、5年で全水系の調査がほぼ一巡する。河川基本技術会議では、この定期点検結果を基に、専門職員が河川の現況を把握し、将来の河川の変化を予測。防災上の問題点などを洗い出し、改修方針などを協議する。会議の結果を踏まえ、各水系を管理する地方整備局は、必要に応じて河川整備計画の変更を行い、問題のある個所を予防的に改修・更新する。
予防保全型管理の導入対象は109水系のすべて。同会議は9月から12月にかけて月に1回程度のペースで開催し、改修方針などの協議を進める。9月は多摩川と大和川、10月は鵡川、小矢部川、菊池川、11月は名取川、佐波川、那賀川、12月は富士川、天竜川、加古川が対象になる予定だ。
国交省はこれまで、洪水や地震などの発生によって堤防や河床に変化が生じた場合、必要に応じて、各河川の整備計画や維持管理計画を変更して改修や更新を行ってきた。ただ、最近は地球温暖化などを背景に各地で想定を上回る集中豪雨が頻発。大地震による河川施設の被災も増加するなど自然災害リスクは高まっている。同省はこうした現状を踏まえ、災害が起きてから対処する従来の対症療法的な管理よりも、定期点検結果を有効活用し、問題点をあらかじめ把握して計画的に対策を取る予防保全型の管理を充実させた方が、より少ないコストで災害を防止できると判断した。 |
河川となると、橋梁のような1つの構造物ではなく、道路1路線のように様々な管理構造物が存在し、またその割に道路台帳ほどきちんと管理できていないところが多く、国土交通省の1級河川の管理形態が中小河川に適用はされにくいのが現実でしょう。
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下水道分野の動き |
国土交通省は、日本下水道協会に「管路施設維持管理業務委託等調査検討会」を設置しています。ここでは、下水道管路の維持管理分野における包括委託の可能性等の検討内容について「下水道管路施設の包括的民間委託に関する報告書」をまとめ2009年3月27日、国交省に成果を報告しています。
この報告書では、管路施設の維持管理に関する全国の事業体へのアンケート調査をもとに、業務の基本的特徴と業務委託の現状を整理したうえで、検討すべき留意点をまとめています。このなかでは、計画的な予防保全型維持管理が行われることの重要性と、それに伴う包括的民間委託の有効性が示されています。
これまで全国には膨大な延長の下水道が建設されてきました。そしてその一部はすでに老朽化しています。下水道の維持管理・・・この分野は巨大なマーケットが潜在しており注目です。
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