講習会の内容と講師は以下の通りです。
内 容 |
講 師 |
@ 落石対策の現状と課題 |
松尾修 講師 【財団法人先端建設技術センター】 |
A 落石調査と危険度判定 |
浅井健一 講師 【独立行政法人土木研究所】 |
B 落石の速度と運動エネルギー |
右城猛 講師 【株式会社第一コンサルタンツ】 |
C 落石防護ネットの設計と施工 |
加賀山肇 講師 【日本プロテクト株式会社】 |
D 落石防護柵工の設計と施工 |
吉田博 講師 【金沢大学名誉教授】 |
E 落石防護擁壁の設計と施工 |
今野久志 講師 【独立行政法人土木研究所 寒地土木研究所】 |
先ずは先端建設技術センターの松尾講師が「落石対策の現状と課題」について講習されました。
「私の話は前段ですから・・・」と前置きしながら、現在の落石の考え方の課題点を提示され、合わせて改善の方向性を示されました。
次は土木研究所の浅井講師が「落石調査と危険度判定」について講習されました。
過去の災害と防災点検などの結果との関係を説明されたのち、調査精度を上げる手段として、LPデータ(レーザプロファイラデータ)を有効利用した災害履歴の管理が極めて重要だとのお話でした。
昼休憩を挟み、午後からは第一コンサルタンツの右城講師が「落石の速度と運動エネルギー」についての講習をされました。
実際に発生した落石事故などの現場検証結果や現場実験結果から、実際の落石現象は、現状の落石対策便覧内で全て規定されているとは言えない、というお話は衝撃的でした。それを解決するためにはシミュレーションをうまく使えばよい。その際、これまで課題であったシミュレーションの諸定数は現地にある既存の落石(転石)を逆シミュレートし、現場に最も合った解析をするというお話は、まさに合理的であり、これからの方向性であると受講者は皆確信したと思います。
次は日本プロテクトの加賀山講師が、「落石防護ネットの設計と施工」について講義されました。
特にポケット式防護ネットの可能吸収エネルギーでは、EL値を過大評価している可能性があり、現場実験での検証を含め、落石エネルギーを含めた上で再評価した方がよいのでは、というお話は印象的でした。
加賀山講師の講習の後、「落石対策便覧」と「土工指針」が特にEL値の取り扱いが整合していないという話題で質問が多く出ました。
次は金沢大学名誉教授の吉田講師が「落石防護柵工の設計と施工」について講習されました。
落石対策便覧の中で防護柵に関する記述は昭和58年の発刊以来改訂されていないことから、特に高エネルギー吸収柵については、多様な製品がばらばらの設計思想で導入されているというお話でした。
また便覧の防護柵の設計法を当てはめた場合に、多くの問題点があることをお話しされました。落石の衝突位置によって支柱、ロープなどの変形がそれぞれ違うことや網の設計と柵の設計でロープ張力の安全率などの考え方がばらばらであるお話もされました。
最後は、土木研究所の今野講師が、「落石防護擁壁の設計と施工」について講習されました。落石防護柵工の基礎工の倒壊事例がないことや、実験でもほとんど押し抜きせん断破壊されること、また新工法である杭付落石防護擁壁の紹介もありました。
また落石覆工についてもお話がありました。実際の被災時の落石エネルギーは設計時の25倍以上あったというお話は衝撃的なお話でした。
今回本講習会を受講した技術者の多くは、「落石対策便覧」と「土工指針」が特にEL値の取り扱いが整合していないということに対する答えを得ようとしていたように見えます。その答えとしては、講師の方々は明言こそ避けたものの、今回の講習を聞く限り、以下の答えがあると感じました。
落石対策便覧の改訂はまだ時間がかかるようです。したがって「落石対策便覧」と「土工指針」の不整合はすぐには改善されません。そのような中で発注者や会計監査などに合理的な説明をするには、単にこの2つの基準の不整合というよりも、より大きな視点での解析や説明が必要です。それはこうです。
落石対策便覧が改訂されて以来、多くの研究や実験が行われ、その成果を生かせるようになってきた。
網の落石吸収エネルギーは、基本的に実験で可能吸収エネルギーを確認することが望ましい。多くの研究や実験結果から、現便覧式であるEL値は根拠に乏しく、見込まないほうが安全であり、結果として可能吸収エネルギーが低下することも考えられる。その場合、落石エネルギーが便覧式そのままとすれば、対策工規模は一方的に大きくなる。しかし多くの現場で、従来よりも対策工の規格を大きくする必然性はなく、結果、過大設計となりやすい。しかしこれまでの研究で落石エネルギーは等価摩擦係数が便覧値よりも大きいケースも多々見られることもわかってきている。結果、シミュレーションを使った妥当な落石エネルギーを、可能吸収エネルギーを実験で確認した工法で対策する
ことが合理的と考えられる。 |
今回の講習を聞いて、技術者の多くが、「落石対策便覧」と「土工指針」の不整合、そしてその運用に対して説明に困っている現状があることを認識しました。また経年の研究成果で、便覧では説明できない現場も多くあることもわかってきました。
その一方で、落石対策便覧の改訂はまだ時間がかかるようで、技術者毎の説明責任の負荷はどんどん大きくなると思われます。
このような状況を踏まえ、いさぼうネットでは今後、このテーマに対して情報収集を進め、技術者側からできる解析や説明技術を紹介していきたいと思います。