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災害ミニ知識

地すべりと津波

海底地すべりによる津波の発生の検証海底地すべりの規模地震と海底地すべりの事例問題提起:湛水池地すべりの解析
海底地すべりのシミュレート

 津波は巨大地震の上下方向の断層運動によって引き起こされます。しかし最近断層運動の他にも、海底地すべりによる津波の発生の可能性が注目されてきました。

 津波は、その発生要因と頻度として、海底地震性の津波が9割を占めるのに対し、地すべり性の原因は全体で0.3割と言われています。比率的には低くなってはいますが、発生した津波の大きさが局所的に大きくなることで大きな被害をもたらしています。また海底に沿って泥を含んだ密度の高い水が流れて、乱泥流(混濁流)に転化することも多くなります。
 

海底地すべりによる津波の発生の検証

 海底地すべりによる津波の発生の可能性については、実際に検証されてもいます。2009年8月の駿河湾地震の際、焼津市沖の海底で地滑りが起きたことを示す痕跡が、海洋研究開発機構(神奈川県横須賀市)の調査で見つかった、といいます。
 この駿河湾地震では、焼津市で最大62cmの津波(引き波)を観測していますが、実際の揺れなどを基に計算した津波より50cm以上規模が大きかったことなどから、 同機構が海底で地すべりの発生を想定し、無人探査機や海洋調査船で海底を調査したのです。
 その結果、同市沖約5kmの水深約600mの海底に、幅約450m、 高さ10〜15mの地滑り跡とみられる崖があり、土砂が沖合に少なくとも3.5km流されていたことを確認、海底地滑りの痕跡と断定されました。

 ここで最も大きな問題は、海底地すべりによる津波の発生を考えると、マグニチュードの大小だけでは津波の発生の有無や津波の規模を判断しづらくなるということです。例えばマグニチュードが5〜6でも起こりうるのです。

海底地すべりの規模

 上記の海底地すべりは幅約450m、 高さ10〜15mとそれほど大きくありませんが、海底にはどのくらいの規模の地すべり、あるいは地すべり地形があるのでしょうか?
 陸上の場合、大規模でも地すべり土塊の体積は数10km2であるのに対し、確認されている最もすべり土塊の大きな海底地すべりは20,000km2と言われています。
 海底地すべりにおける地すべり土塊の体積は数千km2に及んでいる事例が多いこと、移動距離が数十kmにおよぶものがあることからもその規模の大きさがうかがえる。
 また海底地すべりの起きる斜面はかなりの緩傾斜でも地すべりが発生します。たとえば、ミシシッピ河デルタでは0.01°という極めてわずかな傾斜でさえも海底地すべりを発生させたとされています。

地震と海底地すべりの事例

 マグニチュード8クラスを記録したとされる関東大地震(1923年)の際には、相模湾および東京湾口に多くの海底地すべりが発生し、海底電線が切断されました。
 また大西洋グランドバンクスの地震(1929年)の際、大陸斜面を通る6本の海底電線が切断されました。
 この他にも次の事例が報告されています。

ハイチ大地震(2010年1月12日)
 2010年ハイチ地震はハイチ時間の2010年1月12日 16時53分にハイチ共和国で起こったM 7.0の地震。地震の規模の大きさやハイチの政情不安定に起因する社会基盤の脆弱さが相まり、死者が31万6千人程に及ぶなど単一の地震災害としては、スマトラ島沖地震に匹敵する近年空前の大規模なものとなった。
 ハイチ大地震の場合は、プレート同士が主として水平方向に動き、互いとすれ違う形になっていた。この時、高い所で3メートルに達する津波が発生したが、これは海底の隆起ではなく、傾斜が30度に及ぶ斜面での海底地滑りによって引き起こされたとする報告がある。実際、過去318年間にハイチとその周辺の島々で確認された9回の津波のうち3回は、海底地滑りと「直接的な関係性」を指摘できるという。
パプアニューギニア津波(1998年7月17日)
 1998年7月17日午後7時頃(現地時間)発生した津波が、パプアニューギニアの北西部のシッサノ・ラグーンを襲い、死者2202人という大きな被害を出した。
 M 7.1という地震の規模に比べてラグーンにおける最高津波高15mは大きく、「地震動に誘発された海底地滑り」もしくは「ラグーン沖の特殊な海底地形」により津波が増幅されたと考えられている。
アラスカ地震での海底地すべり(1964年3月27日)
 1964年3月27日、M=9.2 のアラスカ地震が発生し、震源から約64km 離れた石油パイプラインの基地バルディーズの沿岸が大規模な海底地すべり被害に遭った。
 ここの地盤はデルタ堆積層からなり、粗砂及び礫層の間に、シルトおよび細砂層がある。標準貫入試験によるN値は7〜25であった。
 地震発生時、このデルタ堆積層で液状化が発生し、約7500 万もの土塊が、奥行150mの陸地もろとも数100m流出し、それに伴い沿岸の港湾施設も破壊され流失した。
 地すべりを起こした海底の勾配は平均10%程度かそれ以下で、通常の海底勾配よりはかなり急であり、海岸近くは局所的に30%程度の所もあった。
 地滑りにより、海岸線は最大百数十メートル陸側に後退した。
1980年カリフォルニア州北部沖での海底地滑り

 1980年にカリフォルニア州北部のオレゴン州に近い太平洋岸から60km沖合で、M 7.0の地震が起きた。
 この沿岸で日頃から漁を行っていた漁師が地震から数日後に、以前は滑らかだった海底面に明瞭な段差ができていることを発見した。そこで米国地質調査所の専門家は音波探査による精密な海底の調査を行った。
 それによれば、水深30〜70m、勾配わずか0.25度の海底で、海岸に平行に20km、幅2kmの海底地盤が沖の方向に流動したことが分かった。
 この例から、地震による液状化が1度以下のきわめて緩い勾配の海底地すべりを引き起こすことが実証された。

トルコ イズミット湾沿岸の地滑り(1999年)
 最近の記憶に生々しい出来事としては、1999年におきたトルコのコジャエリ地震による海底地すべりがある。
地すべりが起きたのはイズミット湾とよばれるイスタンブールから100kmほど東にある幅数km奥行き数十kmの東西にのびる波静かな湾で 、地震によってデールメンデレの海岸は奥行き100m、間口数百mの土地が海中に流失した。
 その範囲にはいくつかの店やホテルがあったが、40人あまりの人もろとも海中深く連れ去られた。
 平均勾配10〜10数%と、海底としてはかなり急勾配の砂礫層の斜面が液状化によって不安定になり、沖に向かって地滑りを起こした可能性 が高い。

 

問題提起:湛水池地すべりの解析
 これまで湛水池地すべりの解析では、利水容量を侵す地すべりにターゲットを当て、調査、解析、対策をしてきました。
 この際、例えば対象とする地すべりがNWL(常時満水位)より下であれば、不安定化しても利水容量は損なわれないことから重要視はされてきませんでした。
 しかし安全上を重要視すれば、地すべりが活動し段波が発生すれば、堤体に危機が及びます。
 無論、このことは教科書では書いてありますが、特に地震が多発している現行において、運用が違っていたような気がします。

  先日下記記事が報道されました。この記事では地震で山梨県内では約10センチの地殻変動が起き、かつ共振現象で津波が起きたとしていますが、約10センチの地殻変動は湖底の一部に生じたわけではなく地域全体に起こっています。また共振現象では波の規模は大きくなっても津波の性状にはなりません。地震により湖底地すべりが発生し、それにより津波が生じた可能性がかなり高いと思われます。

 富士西湖といえば、41年前、旧足和田村で集中豪雨による地滑りが発生、土石流化し、多数の死者・行方不明者を出した足和田災害が発生しています。1966年9月25日未明、県内を直撃した台風26号による集中豪雨で地滑りが発生。 土石流化した土砂は下流の集落を襲い、根場地区で死者・行方不明者63人、西湖地区で死者31人の被害を出しました。地すべりと無縁なところではないのです。
 

 湖底地すべりと津波、今回はよい事例となります。土木研究所など、指針造りにたずさわる方は是非注目していただきたいと思います。

西湖で“津波”水面1メートル隆起 山梨・富士河口湖町       産経新聞 4月19日(火)7時57分配信

 

 
共振現象による波で湖底に堆積した小枝などが浜に打ち上げられ、帯状に並んだ
(写真:産経新聞)

 東日本大震災が発生した3月11日、震源地から約450キロ離れた山梨県富士河口湖町の西湖(さいこ)で、湖面がうねり、波高が1メートルに達する津波に似た珍しい「共振現象」が起きていたことが18日、分かった。同町では震度5弱を観測している。

 「突然、目の前の水位が上がり始めた。ザザーという音とともに湖水が(湖岸の)溶岩塊を登った。波というより湖岸の水位が1メートルぐらい盛り上がったように見えた。波ならすぐ引くが、このときは水位がゆっくりと上がり、ゆっくりと下がった」。当日、西湖でボートで釣りをしていた山梨県笛吹市の会社員、小原健一さん(35)はこう振り返る。 湖の北岸でレストランを経営する渡辺保一(やすいち)さん(63)は、近くに住む叔父の連絡で湖の異常を知った。湖畔に出ると既に第1波の後で「何度か津波のような大波が続いた」という。渡辺さんは「波はゆっくり来てゆっくり戻った。浜にあったボートが沖に流され、貝や小魚が浜に打ち上げられた。湖畔から沖合40〜50メートルの幅で湖水が濁っていた。引き波が浜の砂をさらったようだ」と話す。

 近くの船宿では、鉄骨製の重さ200キロのボート台が引き波で湖側に引きずられた。

 山梨大の鈴木猛康(たけやす)教授(地震工学)は「地震で山梨県内では約10センチの地殻変動が起きている。湖の形状と揺れの周期の条件が合致すると、地震のエネルギーが増幅される共振現象で津波が起きる。この現象が西湖で起きたようだ」とメカニズムを分析する。

 鈴木教授は例として「水を入れたたらいを振ると波が起き、波とたらいの揺れの周期が重なると波は大きくなる」と説明。これは地形と地震の周期の条件が一致しなければ起こらない現象という。(牧井正昭)

 

海底地すべりのシミュレート

 この海底地すべりと津波に着目し、研究されている方がおられます。ICL(国際斜面災害研究機構)の佐々先生です。先生は地震降雨による高速地すべり発生運動統合シミュレーションモデル(LS-RAPID)を開発されていますが、現在これを海底地すべりに適用できるように改良しています。現在さらに海底地すべりによって津波が発生する運動統合シミュレーションモデルも視野に入れ、研究を続けておられるようです。


LS-RAPIDでの海底地すべりシミュレーション

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