海底地すべりによる津波の発生の可能性については、実際に検証されてもいます。2009年8月の駿河湾地震の際、焼津市沖の海底で地滑りが起きたことを示す痕跡が、海洋研究開発機構(神奈川県横須賀市)の調査で見つかった、といいます。
この駿河湾地震では、焼津市で最大62cmの津波(引き波)を観測していますが、実際の揺れなどを基に計算した津波より50cm以上規模が大きかったことなどから、
同機構が海底で地すべりの発生を想定し、無人探査機や海洋調査船で海底を調査したのです。
その結果、同市沖約5kmの水深約600mの海底に、幅約450m、
高さ10〜15mの地滑り跡とみられる崖があり、土砂が沖合に少なくとも3.5km流されていたことを確認、海底地滑りの痕跡と断定されました。
ここで最も大きな問題は、海底地すべりによる津波の発生を考えると、マグニチュードの大小だけでは津波の発生の有無や津波の規模を判断しづらくなるということです。例えばマグニチュードが5〜6でも起こりうるのです。
上記の海底地すべりは幅約450m、
高さ10〜15mとそれほど大きくありませんが、海底にはどのくらいの規模の地すべり、あるいは地すべり地形があるのでしょうか?
陸上の場合、大規模でも地すべり土塊の体積は数10km2であるのに対し、確認されている最もすべり土塊の大きな海底地すべりは20,000km2と言われています。
海底地すべりにおける地すべり土塊の体積は数千km2に及んでいる事例が多いこと、移動距離が数十kmにおよぶものがあることからもその規模の大きさがうかがえる。
また海底地すべりの起きる斜面はかなりの緩傾斜でも地すべりが発生します。たとえば、ミシシッピ河デルタでは0.01°という極めてわずかな傾斜でさえも海底地すべりを発生させたとされています。
マグニチュード8クラスを記録したとされる関東大地震(1923年)の際には、相模湾および東京湾口に多くの海底地すべりが発生し、海底電線が切断されました。
また大西洋グランドバンクスの地震(1929年)の際、大陸斜面を通る6本の海底電線が切断されました。
この他にも次の事例が報告されています。
ハイチ大地震(2010年1月12日) |
2010年ハイチ地震はハイチ時間の2010年1月12日 16時53分にハイチ共和国で起こったM
7.0の地震。地震の規模の大きさやハイチの政情不安定に起因する社会基盤の脆弱さが相まり、死者が31万6千人程に及ぶなど単一の地震災害としては、スマトラ島沖地震に匹敵する近年空前の大規模なものとなった。
ハイチ大地震の場合は、プレート同士が主として水平方向に動き、互いとすれ違う形になっていた。この時、高い所で3メートルに達する津波が発生したが、これは海底の隆起ではなく、傾斜が30度に及ぶ斜面での海底地滑りによって引き起こされたとする報告がある。実際、過去318年間にハイチとその周辺の島々で確認された9回の津波のうち3回は、海底地滑りと「直接的な関係性」を指摘できるという。 |
パプアニューギニア津波(1998年7月17日) |
1998年7月17日午後7時頃(現地時間)発生した津波が、パプアニューギニアの北西部のシッサノ・ラグーンを襲い、死者2202人という大きな被害を出した。
M 7.1という地震の規模に比べてラグーンにおける最高津波高15mは大きく、「地震動に誘発された海底地滑り」もしくは「ラグーン沖の特殊な海底地形」により津波が増幅されたと考えられている。 |
アラスカ地震での海底地すべり(1964年3月27日) |
1964年3月27日、M=9.2 のアラスカ地震が発生し、震源から約64km
離れた石油パイプラインの基地バルディーズの沿岸が大規模な海底地すべり被害に遭った。
ここの地盤はデルタ堆積層からなり、粗砂及び礫層の間に、シルトおよび細砂層がある。標準貫入試験によるN値は7〜25であった。
地震発生時、このデルタ堆積層で液状化が発生し、約7500 万もの土塊が、奥行150mの陸地もろとも数100m流出し、それに伴い沿岸の港湾施設も破壊され流失した。
地すべりを起こした海底の勾配は平均10%程度かそれ以下で、通常の海底勾配よりはかなり急であり、海岸近くは局所的に30%程度の所もあった。
地滑りにより、海岸線は最大百数十メートル陸側に後退した。 |
1980年カリフォルニア州北部沖での海底地滑り |
1980年にカリフォルニア州北部のオレゴン州に近い太平洋岸から60km沖合で、M 7.0の地震が起きた。
この沿岸で日頃から漁を行っていた漁師が地震から数日後に、以前は滑らかだった海底面に明瞭な段差ができていることを発見した。そこで米国地質調査所の専門家は音波探査による精密な海底の調査を行った。
それによれば、水深30〜70m、勾配わずか0.25度の海底で、海岸に平行に20km、幅2kmの海底地盤が沖の方向に流動したことが分かった。
この例から、地震による液状化が1度以下のきわめて緩い勾配の海底地すべりを引き起こすことが実証された。 |
トルコ イズミット湾沿岸の地滑り(1999年) |
最近の記憶に生々しい出来事としては、1999年におきたトルコのコジャエリ地震による海底地すべりがある。
地すべりが起きたのはイズミット湾とよばれるイスタンブールから100kmほど東にある幅数km奥行き数十kmの東西にのびる波静かな湾で
、地震によってデールメンデレの海岸は奥行き100m、間口数百mの土地が海中に流失した。
その範囲にはいくつかの店やホテルがあったが、40人あまりの人もろとも海中深く連れ去られた。
平均勾配10〜10数%と、海底としてはかなり急勾配の砂礫層の斜面が液状化によって不安定になり、沖に向かって地滑りを起こした可能性
が高い。 |
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