1. 性能設計への移行で、設計・照査手法はどう変わる? |
性能設計における設計・照査手法のイメージ |
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事業主体/所有者の定める設計供用期間中に発生する荷重の頻度に応じ、安全性、修復性、使用性などの要求性能を満足するように設計を行なう。(構造物の目的に応じて選択する) |
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※ 基本的要求性能の考え方
限界状態を設定し、作用および構造物の耐力が有する不確定性を考慮して設計供用期間中に限界状態を超える状態の発生を許容目標内に収めるものである。 |
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安全性:終局限界状態
修復性:修復限界状態
使用性:使用限界状態 |
これらの要求性能は、事業主体/所有者の指定あるいは協議により決まる。 |
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設計を「特殊なもの」(特に重要な構造物や安全性照査を綿密に行なうことが要求される構造物等)なものと「標準的なもの」に大別して考えた場合、前者はアプローチA※による照査を、後者はアプローチB※による照査の適用が期待される。 |
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構造物の性能照査に用いられる方法に制限はないが、設計者は公的審査機関に「設計報告書」を提出して審査を受け、要求性能を満足することを証明しなければならない。
具体的な照査方法として、FEM(有限要素法)などの高度な数値解析による計算や、構造物モデルによる模型実験、実構造物を用いた計測値に基づく方法等がある。
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近年のコンピューターの高速化や汎用プログラムの普及で、FEM解析などによる理論解析が身近なものとなり、新技術等への対応や、より合理的な設計が可能となる。 |
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構造物の構造的性能を統括する行政機関や事業主体が指定する手順(設計計算など)に従って、性能照査を行なう。
その設計方法は、ISO2394が規定する「部分係数による設計法」に基づいた仕様を柱とし、計算による設計や模型実験をはじめ、観測的方法や見なし規定など、多面的な設計方法が考慮される。
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手順に従えば、要求性能は満たされる。FEM解析等の高度な数値解析法は、「計算による設計」で、構造物の挙動と限界状態を予想、再現し、検証することに利用が出来、より設計の合理性を高めることが可能である。 |
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※アプローチA,アプローチBによる照査方法は、地盤工学会(包括基礎構造物設計コード:「地盤コード21 Ver.1.1」)によるものである |
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求められる性能に応じた品質管理や、具体的な性能表示、性能保証の実施が実現する。 |
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現行設計法の安全率等経験に頼ってきた余裕度の設定を、より工学的な根拠や判断に基づいて設定することで、コストの合理化が追求できる。 |
○ |
技術革新、コストの合理化、産業の活性化、さらには国際的な資材・技術の流通の円滑化等が期待できる。 |
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2. 現行設計法とFEM解析による設計の対比 |
実際に現場計測を行なった工事事例をモデルケースとして、照査方法の1つであるFEM解析の優位点を見てみましょう。 |
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2-1 現場状況 |
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マンホール築造のため、掘削深さ6.46mの掘削土留め工として長さ11.7mの鋼矢板を施工する。 |
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施工箇所は生活街路であり、矢板施工芯から3.0m離れた位置に民家駐車場(コンクリート舗装)およびカーポート、住居基礎がある。 |
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施工箇所の土質は緩い砂層とシルト層の互層で、地下水位もGL-0.7mと高い。 |
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施工に際しては地下水低下工法としてウエルポイント工法を採用する。 |
<モデルケース> |
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このモデルケースの場合の、近接構造物への影響を確認するため、現場で問題となる矢板の変位と沈下量を例に取り、現場での計測と現行法およびFEMによる解析結果の違いを比較してみました。 |
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2-2 計測および計算結果 |
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現地での計測結果(レベル観測)によれば、掘削完了時において矢板から3m位置のカーポート部で、沈下量9mmを観測し、それ以降の観測では沈下が進行しておりませんでした。
(矢板の変位量は未計測) |
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矢板の設計に際しての摘要指針は、「道路土工−仮設構造物工指針」(平成11年3月;日本道路協会)を用いるのが一般的です。
同指針の手法では、矢板の応力、根入れ長、変位が算出され、近接した箇所の地盤変位は基本的に算出されません。
算出の手法として変位分相当がある想定した影響範囲で沈下する手法を紹介しています。ただし、土の圧密沈下は考慮しておらず、必要に応じて別途考慮する旨が記載されているだけで、手法の紹介はしておりません。 |
計算結果 |
鋼矢板V型を使用し、矢板変位分が沈下すると考えると、計算結果は次の通りです。 |
・矢板の変位量 δ=98mm |
・沈下量(矢板から0.0m)S=77mm |
・沈下量(矢板から3.0m)S=21mm |
影響範囲4.12m(45°+φ/2として) |
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しかし、時間経過に伴う沈下量は不明であり、いつ沈下が始まり、いつ収束するかも不明です。
また、実際の計測結果と対比すると、矢板から3m位置における沈下量に約2倍の差があり、現行設計法による計算は誤差が大きい結果となりました。 |
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矢板の切梁の設置時間や掘削時間を入力することにより、施工時間や任意の時間における荷重(工事車両等)を考慮した解析が可能であり、時間経過に伴う沈下量も算出できます。 |
計算結果 |
・矢板の変位量 δ=26.6mm |
掘削完了と同時にほぼ変位も収束する |
・沈下量(矢板から0.0m)
S=13.7mm |
(矢板から3.0m) S=11.1mm |
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掘削開始時から沈下し始め、3m離れたカーポート部では第1段目切梁設置時には11.0mm沈下し、その後掘削に伴いわずかに沈下が進行するが、掘削完了時には11.1mmでほぼ収束します。
このように、掘削初期で変位や沈下の多くが発生し、掘削完了時にはほぼ変位、沈下共に収束するという時間経過に伴う結果が得られました。
現行設計法と対比すると、変位量および沈下量が小さい値となりましたが、実際の計測結果に近似した計算結果が得られ、FEM解析による計算の合理性が確認できたと言えます。 |
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現行法では計算条件として時間が考慮できないことや圧密状態の追跡が困難な事から、完成時(実際は完成後の時間は不明瞭)の土留めの応力や変位(土留めのたわみ)が結果として得られるにすぎません。現行設計法では実際の施工に極めて近い状態を想定した検証が困難なのです。
FEM解析によって極めて現場施工に近い状態の設定が可能となります。
「いつ、どの程度?」の疑問を解決することにより、予測と対応策の準備によるトラブル発生を未然に防ぐことが可能です。また、起きた事象の有効な評価手法としても利用できます。 |
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