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 シリーズコラム 「よろずIT・ネットワーク情報」 
【第22回】 Office365導入時のExchange Onlineへの移行と注意点
 
 最近、客先からOffice365導入に際して、既存のOutlook等で使用しているメールをOffice365で使用するExchange Onlineに移行する為のDNS等の設定依頼案件が多くなってきています。
 ネットワークに関わる仕事に従事している方は別として、一般の方にとってはDNSの設定等の話は縁のないことなのですが、企業ドメイン規模でのメール移行時にその設定等の選択を適切に行わない場合、メール運用そのものが長時間停止するような事態が起こることが予想されます。
 通常、このような企業ドメイン規模でのメールの移行はほとんど業者まかせで、かつ作業内容もメール配信に関わる専門技術分野の設定事項なので、Exchange Onlineへの移行に際してその導入を委託した業者がどのような移行形態で行うかをユーザに詳しく説明するという作業は省略されるケースが多いと思われます。

 そこで今回はこのExchange Onlineへのメール移行時の基本的なDNSのメール移行に関わる設定の大まかな仕組みと、その際の注意点をとり上げてみることにしました。




【1】Exchange Onlineへ移行する前の一般的なメール運用形態

 例えば、ある企業がxyz.co.jpというドメイン名でメールを使用している場合、通常そのドメイン名を管理するDNSサーバというサーバがあり、そのメールを管理しているメールサーバがあります。
 そのDNSサーバにxyz.co.jpのメールサーバのアドレスを示すMXというレコードが登録された場合、世界中のメールサーバから、xxxx@xyz.co.jp(xxxは任意のユーザ名)宛てのメールはこのMXレコードに記述されているIPアドレスのメールサーバに届く仕組みとなっています。


 
図1.一般的な(Exchange Online移行前の)メール運用形態


【2】すべての既存メールをExchange Onlineに移行する場合と、一部を移行する場合と既存メールサーバを廃止するか残すかの違いについて

 既存のメールサーバをすべてExchange Onlineに移行し、既存のメールサーバを使用しない場合と、既存のメールサーバアカウントの一部のみExchange Onlineに移行する場合や、すべてExchange Onlineに移行しても既存メールサーバを併用する場合ではDNSの設定が異なり、大きく分けて3通りの設定となります。

(1) 既存のメールサーバをすべてExchange Onlineに移行し、既存のメールサーバを使用しない場合

・xyz.co.jpを管理するDNSサーバのMXレコードを既存のメールサーバからExchange Online のメールを管理するマイクロソフトのメールサーバ(autodiscover.outlook.com)に変更する。
(注)当然それまでの既存メールサーバはそれ以降使用しないことになります。



図2.既存のメールサーバをすべてExchange Onlineに移行し、既存のメールサーバを使用しない場合

(2) 既存のメールサーバをすべてExchange Onlineに移行し、既存のメールサーバを緊急用に残す場合

・xyz.co.jpを管理するDNSサーバのMXレコードをそのまま残し、新たにExchange Online のメールを管理するマイクロソフトのメールサーバ(autodiscover.outlook.com)のMXレコードを追加し、MXレコードの優先順位値を既存サーバのMXレコードより小さくし、優先順位を既存サーバより上げます。
 この設定の場合、万一マイクロソフトのExchange Onlineのメールサーバが停止しても、既存サーバが動いていれば、既存サーバ経由のメール受信は可能となります。
(注)MXレコードの優先順位値は初期値が10で値が小さくなれば、優先順位は大きくなります。



図3.既存のメールサーバをすべてExchange Onlineに移行し、既存のメールサーバを緊急用に残す場合

(3) 既存のメールサーバアカウントの一部のみExchange Onlineに移行する場合

 メールアカウント数が数百を超えるような企業では、一部のメールアカウントのみをExchange Onlineに移行し、残りは既存のメールアカウントで運用するケースが多いと予想されます。 その際の設定は前述の2つのケースとは設定が異なります。

・xyz.co.jpを管理するDNSサーバのMXレコードを既存のメールサーバ設定はそのまま残します。
・新たにマイクロソフトのメールサーバ(autodiscover.outlook.com)をCNAMEレコードとしてDNSに登録する。
(注)CNAMEとはDNSサーバのサーバ名の別名を指します。
・既存のメールサーバ上で、Exchange Onlineに移行するアカウントのみ、既存メールアカウントから、Exchange Online用アカウントへの転送設定をする。

 この場合、メールの着信は既存メールサーバで行い、着信と同時にマイクロソフトのサーバ上のExchange Onlineのアカウントへ平行転送を行いますから、メール自体は既存サーバ上とマイクロソフトのExchange Onlineメールサーバ上のどちらにも受信されることになります。



図4.既存のメールサーバアカウントの一部のみExchange Onlineに移行する場合


【3】3通りのメール移行形態別の長所と短所のまとめ

(1) 既存のメールサーバをすべてExchange Onlineに移行し、既存のメールサーバを使用しない場合
(DNSのMXレコードを既存メールサーバからマイクロソフトのサーバに変更する場合)

(長所)
・DNS設定はMX設定のメールサーバの変更のみなので、一番簡単に済む

(短所)
・Exchange Onlineメールサーバ等のシステム障害が発生した場合に、メール送受信がその障害発生時に停止する
・Exchange Onlineメールサーバ等のシステム障害が発生した場合の代替措置がない。

(2) 既存のメールサーバをすべてExchange Onlineに移行し、既存のメールサーバも緊急用に残す場合
(DNSにマイクロソフトのメールサーバのMXを追加し、既存のMXと優先順位設定する場合)

(長所)
・DNS設定はMX設定のメールサーバの追加と、既存メールサーバとの優先設定のみなので、(1)と同じ程度に簡易である。
・仮にExchange Onlineメールサーバ等のシステム障害が発生した場合でも、既存メールサーバでメールの送受信が可能。
(注)但し、障害時に既存メールサーバを利用する最はExchange Onlineではなく、別のクライアント用メールソフトが必要。

(短所)
・Exchange Onlineメールサーバ等のシステム障害時は、既存メールサーバを利用する為にクライアント用メールソフトも併用できる体制が必要。

(3) 既存のメールサーバアカウントの一部又は全部をExchange Onlineに移行し、既存サーバと併用する場合(DNSにマイクロソフトのメールサーバのCNAMEを追加し、既存メールサーバに転送設定を追加する場合)

(長所)
・DNS設定はCNAMEレコードの追加のみで容易である。
・仮にExchange Onlineメールサーバ等のシステム障害が発生した場合でも既存メールサーバでも送受信可能なので、業務に与える障害が最も少ない。
・Exchange Onlineメールと既存メールサーバアカウントユーザの相互メール送受信が可能

(短所)
・Exchange Onlineのアカウント数だけ既存メールサーバに転送設定が必要。
・Exchange Onlineのアカウント同士のメール通信は既存メールサーバには配信されない。

【4】まとめ

 一口に企業メールのExchange Onlineへのメール移行といっても、一般の人があまり関わりのない部分でかなりの違いがあることがお分かりいただけたでしょうか?
 既に企業レベルでExchange Onlineへ移行した企業の方は、ご自分の企業が上記3通りの設定のどのケースで移行したかをもう一度確認してみるのも今後の業務運営上の参考となるかもしれません。
 また、これからExchange Onlineへ移行を検討中の企業様も、これからどのパターンで移行したらよいかを検討していただき、より業務に障害の少ないメールシステム構築の参考となれば幸いです。

 
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