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 シリーズコラム 「よろずIT・ネットワーク情報」 
【第27回】 土木関連分野でも応用が進む"位相限定相関法(POC)"
 
 "位相限定相関法 (POC : Phase Only Correlation)"という何やら耳慣れない小難しそうな単語を初めて聞く方も多いと思われます。この技術自体は既に1970年代後半に考案されましたが、解析で使用する離散フーリエ変換(DFT)の計算量が多いことから、実用応用技術研究は1990年代になってやっと研究され始めた比較的新しい分野の解析技術です。しかし2019年の今日では一般の方々が気づいていないいろいろな分野で数多く応用されています。
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【1】どのようなところで使われているの?

 位相限定相関法(POC)は下記に挙げる様なさまざまな分野で活躍しています。

 ・警察の指紋データベースの指紋マッチング
 ・デジタルカメラから撮影した複数の画像からの3Dモデルの生成
 ・自動運転技術に於ける移動カメラ画像からの移動物体の位置検出
 ・PCの指紋認証システム
 ・眼底の網膜パターンを利用したバイオメトリクス認証
 ・衛星からのマイクロ波地表面画像からの地表面移動、地すべり検知
 ・気象予測、株価予測
 ・その他いろいろ

【2】 位相限定相関法(POC)の簡単な説明

 インターネットで位相限定相関法(POC)を検索すると、画像解析分野での説明や応用の記事が多く見られますが、本来の位相限定相関法(POC)自体は画像解析分野のみではなく、スペクトル解析で周期性の確認できるデータにはすべて応用できる技術です。
 ここでは、最も多くみられる画像解析での応用例を解説します。

・2枚のXY座標を少しずらした画像を用意し、そのズレを検知する
(1) 縦横画素数が同じで、画像Bは画像Aを横方向にnピクセル、縦方向にmピクセルずらした画像AとB、計2枚準備します。
(2) 画像A、画像Bの左->右、上->下スキャン結果を時間軸とし、それぞれフーリエ変換します。(*注1)
(3) (2)の結果として、画像A、画像Bのそれぞれの振幅スペクトル、位相スペクトルが算出されます。(*注2)
(4) 正規化した画像A、画像Bの位相スペクトルの積をとり合成位相スペクトルを求める。
(5) 合成位相スペクトルを逆フーリエ変換して、位相限定相関(POC)を求める。
(6) 限定位相相関値(POC)からピーク値を探索し、A、Bの画像のx,y方向ずれを算出する。
(*注1) 周波数解析で一般によく用いられる方法です。
(*注2) フーリエ変換では解析された周波数ごとの振幅(パワー)を表す振幅スペクトルと時間ごとに刻々変化する位相スペクトルが算出されます。

・算出されたA、Bの画像のx,y方向ずれは驚く程の精度で算出されます。
・実際の応用には画像の回転や拡大/縮小にも対応した相関算出も必要となります。

 くわしい説明と原理の解説は東北大学 青木研究室の以下の文献が参考になります。
 位相限定相関法とその応用(東北大学 青木研究室 宮沢一之氏文献より)

【3】 位相限定相関法(POC)の特徴について

 位相限定相関法(POC)には他の手法には真似のできないまるで魔法のような以下のような特徴があります。

(1) サンプルとなる画像の輝度やコントラスト、軽微なノイズ等に影響されることなく相似成分のみを抽出して解析することが可能。
 従来の監視カメラの動体認識では、雲の影や急な日射量変化、霧などに反応するが、この解析法ではそれらをパススルーして解析できる。
 
(2) 2次元画像解析では、平行移動・回転・拡大/縮小画像でも相関値を求めることが可能である。
 指紋認証等では、比較する画像が欠けていたり汚れていたり、もちろん角度や縮尺も定まっていない画像がほとんどだが、POCを使用することで瞬時に判定することが可能。

(3) 画像解析だけではなく、1次元時系列データ予測解析にも応用できる。
  この応用法はWeb上にはあまり紹介されていませんが、例えば気象変動や株価のような1次元の時系列変動データで、周波数スペクトルが比較的はっきり出るデータに関しては、大変有効で強力な予測解析手法となります。
 
 私が20代の頃、パチンコで"777"(スリーセブン)という1から7までの数字の3つの数字のスロットルを回して"777"の大当たりを狙うのが大流行でした。この3つの数字の組み合わせを256回メモしてフーリエ解析を行ったところ、4本の周波数スペクトルがキレイに出てきたのを覚えています。その頃にこの位相限定相関法(POC)のソフトが動作するスマホでも持っていれば、20回ほどスロットルを回して計算すればあと何回で"777"が出るか容易に予測できて大儲けできたはずです。

【4】 土木関連分野に於ける位相限定相関法(POC)の応用例

SAR衛星からのマイクロ波波レーダで撮影した画像を位相限定相関法(POC)で解析し、地表の変位を求める。
 合成開口レーダ(SAR)と呼ばれるマイクロ波レーダを積んだ資源探査衛星が斜め方向から撮影した画像は樹木が映らず、地表面のみを撮影することができます。
 この特徴を利用して、撮影時間が異なる2枚のSAR衛星画像を位相限定相関法(POC)で解析し、地表面の地殻変動量や地すべり等を発見、解析する試みです。

 高精度画像マッチングを用いた SAR衛星画像からの地表変位推定
(神戸大学 工学研究科 情報知能学専攻 水野 雄介氏論文より)

・露出した崖、のり面、斜面等を定期的に位相限定相関法(POC)で画像解析する。
 人間の目は非常にゆっくりした斜面の膨らみやズレ等はなかなか気づかないものです。定期的に同じ地点から画像撮影を行い、位相限定相関法(POC)で解析することによってその様な発見することが容易でない変位の検知が可能になると思われます。
 また、変位量も解析から求めることができます。

・土木構造物(アンカー、シェード、擁壁、ため池堤防等)の変形、歪み等を解析する。
 実際に現地で直接点検が難しい土木構造物を定期撮影し、解析を行います。

【5】 実際に位相限定相関法(POC)で解析してみよう。

 現在、位相限定相関法(POC)はOpenCV(オープンシーブイ)というオープンソースのライブラリに標準で搭載されています。また、OpenCVと相性のよいPython(パイソン)言語にもOpenCVで位相限定相関法(POC)を行うためのライブラリが用意されており、少しプログラミングの経験があれば、簡単にPOC解析を行うことが可能です。
 また、Web上で"位相限定相関法"、"POC"をキーワードにして検索すれば、多くのOpenCVやPythonのサンプルプログラム例がヒットしますから、それらを参考にしてPOC解析にチャレンジしてみて下さい。

 
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