土木コンサル業者の計測モニタリング業務に於いて、山間部や僻地等の電力供給も無く、携帯電話がやっと届くような劣悪な環境での継続的なモニタリングや監視業務の需要は少なからず発生します。
このような劣悪環境では電力はソーラーパネルによる発電もしくは定期的なバッテリー交換で供給し、モニタリングデータの伝送は携帯電話のキャリア網を使用しての伝送が一般的です。
しかしこの携帯電話のキャリアは現時点でNTTドコモ,AU,ソフトバンクと3種類のキャリアがあるのですが、それぞれに3Gサービスと4G(LTE)サービスがあり、サービスエリアもそのキャリアとサービスごとに異なっているのが現状で、ある現場ではNTTドコモの電波ではデータ通信ができなくてもAUやソフトバンクなら可能、またはその逆もありえるのです。
通常このような現場では事前に現場の通信環境調査を行うのですが、ひと昔前までは、3つのキャリアごとに対応できる通信装置はキャリア限定されていた為、最大3種類の通信機器とそれぞれのキャリア用のSIMモジュールを用意して調査する必要があり、かなり費用と手間がかかる作業でした。
【1】マルチキャリア対応の通信機器の登場
ところが昨年あたりから1つの機種で複数のキャリアのSIMモジュールに対応できる機種が登場してきました。NTTドコモとAUの2キャリアに対応の機種や、NTTドコモ,AU,ソフトバンクの3キャリアに対応のモバイルルータやモデムが発売されました。このきっかけとなったのは、韓国のAMtelecom製のマルチキャリア対応通信モジュール『AMx570シリーズ』を通信機器メーカが採用してマルチキャリア対応のルータやモデムを製造販売し始めたことです。
IoT導入を加速させるマルチキャリア対応 LTE通信モジュール『AMx570シリーズ』を発売 (SankeiBizより)
【2】 |
MVNO(仮想移動体通信事業者)が複数キャリアのSIMの提供を開始した。 |
既に多くの方がMVNOという上記3キャリアではない業者の格安SIMを利用なさっていると思いますが、これまではこのMVNO業者のサービスは3キャリアのうちのどこかと提携する形で行われてきました。つまりNTTドコモと提携した業者はNTTドコモの回線網だけに繋がるSIMのみを売り、AUと提携した業者はAUの回線網のみに繋がるSIMを売ってきました。
ところが2015年9月に数少ないAU専用SIMを販売するMVNO業者のmineo(マイネオ)がDOCOMO回線も使用可能のマルチキャリアMVNO化しましたが昨年から以下に挙げる他のMVNOも相次いでマルチキャリアサービスを開始し始めました。
主なマルチキャリアMVNO業者
MVNO業者 |
使用できる通信キャリア |
DOCOMO |
AU |
SOFTBANK |
mineo(マイネオ) |
○ |
○ |
○ |
LINEモバイル |
○ |
○ |
○ |
IIJmio |
○ |
○ |
|
BIGLOBEモバイル |
○ |
○ |
|
QTモバイル |
○ |
○ |
○ |
さくらINTERNET |
○ |
○ |
○ |
各社サービス内容はさまざまですが、例としてIIJmioのデータ専用SIMの月額900円月3G契約に、これまで使用していたNTT-DOCOMO用SIMにAUのSIMを追加した場合は、月額400円追加しただけでDOCOMOとAUの端末をデータシェアして使用することができるようになりました。
また現地通信環境調査の際には【1】のマルチキャリア対応の通信機器を一台持っていき、このIIJmioで契約したDOCOMO用SIMとAU用SIMを一枚づつ計2枚持っていくだけで現場で2枚のSIMを差し替えればどちらのキャリアを使用したほうが良いかすぐに判断できるようになりました。
各MVNO業者のWebサイトには、スマートフォンや他の通信機器の個別機種ごとの対応表があると思われますので導入を検討の際はよくこれらを見て判断してください。また、MVNO業者によっては異なるキャリアの場合、既存契約とのデータシェアができない場合もありますから注意が必要です。
複数大手キャリアに対応 マルチキャリアMVNOは便利?(日経クロストレンドより)
【3】 |
モニタリングに使用可能なマルチキャリア対応のモバイルルータ |
(サン電子 AX220 SC-RAX220)
見かけは小さくて地味なルータですが、プロ用通信機器として定評があるサン電子が開発しただけあって、通信速度1Mbps以内のモニタリングの通信用途には抜群の信頼性を発揮する機種です。メーカ純正の外部アンテナも2本オプションで付けることが可能で、平均消費電力も1.6W程度と小さく、電源供給も5VでOKなのでソーラーパネルからの電源供給で定消費電力で動かすことが必要な比較的低速度のモニタリング通信に最適な機器です。
ちなみに、弊社で実地テストした中では他の通信機器がすべて不安定になる弱電波の地域でも、このルータだけはしっかりと通信を持続し続けました。
欠点としては電源供給端子が特殊な端子を使用しているので、別売のACアダプタを使用せずにバッテリーから電源供給したい場合はケーブルを自作しなくてはいけない点があります。
サポートキャリアはNTT−DOCOMOとAU対応です。もちろんマルチキャリアMVNO対応です。
(富士ソフト FS030W)
もともと一般コンシューマ向けの製品ですが、通信の安定性、低消費電力、通信インターフェースの種類等の総合的性能に於いて抜群の性能のモバイルルータです。
欠点は一般コンシューマー向けなので外部アンテナが付かない点ですが、外部アンテナ無しでも受信感度は非常に良好で防水ケースを自作すれば電波の比較的良好な地域では十分モニタリング用途に使用可能な高性能のモバイルルータです。
外部機器とのインターフェースはUSBテザリング、無線LAN、Bluetoothを選択でき、オプションのクレードルをつければイーサネット接続も可能な仕様となっています。
サポートキャリアはNTT−DOCOMOとAU、ソフトバンクの3キャリア対応です。
欠点は通信キャリアの契約との抱き合わせ販売で売られることが多く、単体で販売している業者が比較的少ないことです。
【4】 |
プロユースに耐えられる機器と一般コンシューマ向け機器との違い |
今回紹介した2機種のマルチキャリア対応モバイルルータはあまり聞いたことのないメーカーや機種だと思われた方が多いと思います。
実際のモニタリング業務では、通信機器は絶対に止まることが許されません。
そのような理由から、私が実際に3か月以上ランニングテストして実用に耐えられることを確認した機器(つまりノンストップ、ノントラブルを確認した機器)のみを紹介させて頂きました。