今年の梅雨も例年であれば後半にさしかかってくる時期となってきましたが、
6月下旬からの大雨に加え、現在は梅雨前線が本州に停滞するなど、本日も広い範囲で大雨注意報が発令されており、まだ油断できない状況です。
各地の気象台が発表する警報等の気象情報や市町村が発令する避難勧告等には引き続き留意が必要です。
さて短期的局所的豪雨を予測する際に最も重要な武器となるのが「気象予測地球シミュレータ」と呼ばれるソフトウェアです。
近年この気象予測地球シミュレータでは地球全体のモデルを用い、スーパーコンピュータ上で高速計算を行うことで数時間後〜数十時間後の気象予測まで行いこの結果を元に台風進路や各地の降雨予測等が気象庁から発表されています。
今回はこの地球全体のモデルを用いた気象予測用地球シミュレータについてのお話です。
【1】従来型の全球モデル地球シミュレータ(従来型全球モデルGSM)について
現在でも使用されている気象庁全球解析予報システムの全球モデルはGSMと呼ばれ、1988年から1989年ごろから使用されています。
気象予測の精度で最も重要なグリッド(水平格子)間隔は1988年当時の200Kmから2018年の段階で20Kmと高精度化が図られていて、長年の運用実績と改良の積み重ねにより世界でも有数の予測精度があります。
ちなみに世界で運用されている全地球型モデルでは9Kmメッシュが最も高解像度です。
従来型の全球モデルでは、最高の解像度が9Kmメッシュでこれ以上の解像度を上げることが原理的に難しい為、全球モデル自体を新しいモデルに変更して解像度を向上させる試みが近年行われてきました。
海洋研究開発機構(JAMSTEC ジャムステック)と気象庁気象研究所(気象研)が2017年3月末に発表した共同研究成果では次世代の三つの全球モデルとそれぞれの従来型モデルGSMとの比較結果が公開されています。
全球高解像度シミュレーションで台風予測精度が向上 - JAMSTECと気象研(マイナビニュース より)
上記記事によると以下の3つの次世代型全球モデル(すべて7Kmメッシュモデル)が紹介されています。
(1) |
NICAM |
正20面体格子を用いる次世代型全球モデル |
(2) |
MSSG |
陰陽格子を用いる次世代型全球モデル |
(3) |
DFSM |
気象庁の全球数値予報モデルをベースにした次世代型全球モデル |
研究で用いた3つの7km全球大気モデル。それぞれメッシュの切り方に特徴がある
(出所:JAMSTEC
Webサイト,マイナビニュース)
【3】 |
従来型20KmメッシュGSMと3つの次世代型全球モデル7Kメッシュとの比較結果について (マイナビニュースより引用) |
上記記事によると、
「この結果、進路予測の誤差は予測時間とともに大きくなるが、すべての7kmモデルで、20kmモデルに比べて進路予測誤差が5〜20%小さくなり、3つの7kmモデルの予測結果を平均すると、5日予測の進路予測誤差は20qモデルに比べ26%小さくなった。また、2つの7kmモデルでは進路だけではなく、台風強度予測についても改善がみられたという。」
と書かれており、かなりの精度改善結果が報告されています。
今年6月12日の気象庁発表記事で
「台風進路予報の改善について」
という報道発表がりました。説明内容のうち【改善1】の中に
「平成30年に運用を開始した新しいスーパーコンピュータの利用や数値予報モデルの改良及びその利用手法の改善によって、近年、台風進路予報の精度は向上しています。これを踏まえ、最新の進路予報の検証結果を用いることで、予報円の半径をこれまでよりも平均して約20%小さくすることができます」
(以上、気象庁HPより引用)
とありますから、前記 【2】次世代型全球モデル の共同研究の研究成果をさっそく実運用の台風進路予測の応用したものと思われます。
台風進路予報の改善について(令和元年6月12日発表気象庁HPより)
【5】 |
本年度のSATREPS 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラムに次世代型全球モデルのMSSGを用いた高速長距離土砂流動災害の早期警戒技術の開発が5年計画で採択されました。 |
この計画では、前述の共同研究を行ったJAMSTECの協力の得て次世代型全球モデルのMSSGの500mメッシュを用いた高速長距離土砂流動災害の早期警戒技術をスリランカ政府機関と共同で5年計画で実施する予定です。
このプロジェクトに用いられる全地球モデルはMSSGの500mメッシュを使用し、次世代型全球モデルの応用事例として要注目です。
スリランカにおける降雨による高速長距離土砂流動災害の早期警戒技術の開発