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 シリーズコラム 「よろずIT・ネットワーク情報」 
【第33回】吉野彰さんノーベル賞受賞を祝し、リチウムイオン電池やその他電池について
 
 昨日、吉野彰さんが2019年のノーベル化学賞を受賞したことをニュースで知り、急きょ今回の記事はその受賞決定を祝してリチウムイオン電池やその他電池関連の記事にすることにしました。まず最初に今回の受賞対象のリチウムイオン電池、その次に電池全般についていろいろ調べてみたいと思います。
 
リチウムイオン電池


【1】リチウムイオン電池といっても、種類がいろいろ

 'リチウムイオン電池'と聞けばほとんどの人が、「ああ、スマホを充電するときに使うあの充電器に入てるやつね!」とかデジカメを充電するときにチャージャーにセットするあの電池でしょ」とか身近に使用しているイメージを思い浮かべられると思われます。調べてみると、一口に'リチウムイオン電池'といっても数多くの種類がありました。 そこでその大まかな分類(正極材、負極在、電解質、セパレータ)とそれぞれの特徴をご紹介します。

(1)+極(正極)の材料による分類
・コバルト酸リチウム系(LiCoO2)(ソニーが開発製品化,スマホ,PC,デジカメ等)
・マンガン酸リチウム系(LiMn2O4)(プリウス・PHVに搭載)
・ニッケル酸リチウム系(LiNiO2)(日産リーフ、ダイムラー、BMW等に搭載)
・上記三種の三元系(Li(Ni-Mn-Co)O2)(最新型の航続距離の長いEV用)
・リン酸鉄リチウム系(LiFePO4)(長寿命、ソーラ発電用に最適)
の5種類があります。

(2)−極(負極)の材料による分類
・黒鉛(吉野さんが開発者、ほとんどのリチウムイオン電池で使用)
・チタン酸リチウム(東芝のみ)

(3)電解質による分類
・有機電解液方式
・リチウムポリマー方式(スマホ,PC,デジカメ等の小型タイプはほとんどこの方式)

(4)セパレータによる分類
 正極と負極の間にある膜で,直径1マイクロメートル以下の小さな穴が無数にあり、その穴でイオン交換が行われます。吉野さんの旭化成と東レで世界の80%以上のシェアがあります。
・ポリエチレン系(PE)
・ポリプロピレン系(PP)

リチウムイオン電池の材料
リチウムイオン電池の材料

【2】 リチウムイオン電池の注目すべき特徴および事項

・エネルギー密度が非常に高い。(鉛蓄電池に比べ質量エネルギー密度が5倍以上)

・寿命が長い(一般的なコバルト型で充放電サイクル600回、リン酸鉄型で2000回程度)
・衝撃を与えると、爆発しやすい

・コバルト系リチウムイオン電池は、1991年にソニーエナジーデバイス社で世界で初めて商品化された

・次世代の電気自動車では三種の三元系Li(Ni-Mn-Co)O2系とリン酸鉄系が有力
・リン酸鉄系は中国が生産に力を入れています。今年7月にトヨタが次世代EV用電池の供給元として『世界最大の電池メーカ』中国CATLと提携決定しました。

・海上自衛隊の最新型潜水艦「おうりゅう」の水中推進システムをリチウム・イオン電池に変更し、大幅に水中潜航能力を向上させたそうです。

・家庭用ソーラー発電用蓄電池でも、サイクル性能の良さからリン酸鉄系リチウムイオン(LifePO4)が多く持ち入れれるようになってきています。ちなみに鉛蓄電池の充放電サイクル数が500回程度にくらべて、2000回と5年程度の寿命があります。

・よく耳にする「リチウムポリマー」という言葉は電解質がゲル状のタイプのもので、一番身近な小型のコバルト型リチウムイオン電池です。

【3】 その他の電池について

 リチウムイオン電池について述べてきましたが、東日本大震災以降、脱原発運動や地球温暖化問題等で、リチウムイオン電池に限らずいかにして自然エネルギーをうまく貯蔵し、安定供給するかという課題が急浮上してきました。そこでこの観点から、その他の電池についても少し調べてみました。

 東日本大震災発生後、時の民主党政権が原発をすべて停止しその代替として太陽光発電推進政策を遂行して以来、全国にメガソーラーと呼ばれるソーラー発電プラントが次々と作られました。
 しかしこの政策は不安定な出力の電力ソースに対しての制御方法を全く考えることなく推進された為、電力会社にとっては質の悪い電力を無理やり高い金額で買わなくてはいけないという、「粗悪電力押し売り」を助長する結果となり、九州電力の様に電力買い取りを拒絶する電力会社も出てきているような今日この頃です。

 そこで、世界中で現在取り組まれている技術が蓄電池を利用した不安定な自然エネルギー発電の'平準化'技術です。
 この分野では、日本は世界のトップランナーを現在走りつつありますので、そのいくつかをここで紹介いたします。

 (1)住友電工(レドックスフロー電池)
 2016年12月に北海道安平町に北海道電力と共同で出力15MW,容量60MWhの当時国内最大の蓄電システムを併設する64MWメガソーラー発電所の平準化設備として実証実験を終えた。
 
 北の大地に稼働した「大型レドックスフロー電池」の成果(日経XTECHより)

 また、住友電工とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は今年初めから、カルフォルニア州の委託で同州サンディエゴでRF電池の普及展開に向けた実証事業を開始した。

 レドックス電池を米国の電力市場に接続、NEDOと住友電工(スマートジャパンより)
 
(2)日本ガイシ(NAS電池)
 東京電力と日本ガイシが共同で開発した別名(ナトリウム・硫黄電池)といい、主として風力発電のような比較的発電変動サイクルが短い発電装置に対しての電力平準化を目的に開発された電池ですでに20年以上の実績がある。欠点は動作温度が300℃以上なので、ヒータで保温する必要があるのと、火災の危険性があること。

 上記の様に我が国は既に大容量蓄電池部門では、すでに世界のトップランナーを走っています。既に日本全国に設置されている多くのソーラー発電システムも上記大容量蓄電システムと連動することにより、'質のよい電力'に生まれ変わらせることが可能となり、それを国が支援することにより大容量蓄電技術もより高度化、ローコスト化が進み、ゆくゆくは国の基幹産業となることも夢ではないと思われます。 また、各家庭にかなり普及しているソーラー発電も家庭用の’平準化蓄電システム’を付加することで、電力会社が買い取りやすい高品質の電力に生まれ変わらせることも可能となるはずです。
 また、先月千葉県を襲った大停電のような災害時の非常用供給電力としても活用できるはずです。
  
【4】 蓄電池の重要性を再認識

 吉野彰さんのノーベル賞受賞の報を聞いて、資源の少ない我が国のこれから歩む方向性を鑑みると、改めて蓄電池開発基礎技術の重要性を再認識いたしました。
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