1.はじめに
平成27年(2015)4月に一般土木情報サービス「いさぼうネット」で、シリーズコラム『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』を執筆開始してから10年が経過し、令和7年(2025)4月24日にコラム100まで公開することができました。また、令和6年(2024)11月27日に「2024年度深田賞」を受賞するという栄誉を受けました。この受賞に関しては、55年間継続して調査・研究してきた歴史的大規模土砂災害の成果を認めて頂いたものと思っています。また、「いさぼうネット」の運営会社である五大開発株式会社で、私の拙い原稿を公開用原稿に編集し、公開していただいたお陰だと思っています。また、シリーズコラムを閲覧して頂いた皆様のお陰と御礼申し上げます。
2025年3月末現在で100回のコラムを執筆し、総アクセス数は77万3471件(月平均6446件)にも達しました。最近では1日に215件以上のアクセスを頂いています。アクセス数が最も多かった年月は、2021年7月の1万8836件(熱海の土石流災害発生時)です。
コラム別ではコラム46「広島市安佐南区・八木地区の災害伝説と大正15年(1926)災害」の3万4372件が最多です。
10年間続けた本コラムは「コラム100」で一応の区切りを付けたいと思います。
そこで、コラム100では、今までのシリーズコラムをとりまとめた結果を報告します。
2.シリーズコラムの調査地点
私は、コンサルタント業務で現地調査に行くと、旅館やホテルでその土地の市町村史や関連小説などを読み、その地域の自然条件や社会的条件を知るとともに、歴史的大規模土砂災害の事例を収集・整理してきました。本シリーズコラムは、私の55年来の友人である五大開発株式会社の小田兼雄代表取締役(現在は取締役相談役)との10年前の会食の席で企画されました。
「いさぼうネット」は五大開発株式会社が運営し、インターネットを活用して、斜面防災・地質調査・測量・土木設計・土木施工、そして中小企業経営に光を当て、技術力の向上と情報収集を強力にサポートする土木情報ポータルサイトです。無料/有料で会員登録すると、様々なサービスを得られますが、会員でなくても閲覧できる情報や読み物がたくさんあります。パソコンやモバイルなどで、「いさぼう」と入力すると、サイトの中の記事を閲覧できます。「いさぼう」の意味ですが、@防災(ぼうさい)の並べ替え、A「良い砂防(いいさぼう)」などの意味があるようです。
そのような「いさぼうネット」では、シリーズコラム『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』として、私が55年近い期間にコンサルタント業務などで現地調査を行い、収集整理してきた事例のうち、発生年月日と地点が特定できた事例を紹介することにしました。私が作成した原稿をいさぼうネット事務局(五大開発株式会社システム事業部コンテンツ企画課)で、Web掲載用に編集していただき、月1回程度のペースで公開してきました。
本コラムの目的は、過去の災害に学び・生かすことです。表1は私が調査したシリーズコラムの土砂災害の発生事例を年代順に整理した一覧表です。図1は日本全体、図2は本州中央部の拡大図で、シリーズコラムで記載された土砂災害の発生個所一覧図です。基図は防災科学技術研究所が作成した「活断層と地すべり地形分布図」を用いて、表1をもとに消防庁消防研究センターの土志田正二主任研究官に作成して頂きました。土砂災害地点は、★地震災害、●豪雨災害、▲火山噴火災害、■その他に分けてあります。
これらの図・表を見ると、土砂災害の多い地区がどの地域かが分かります。しかし、まだ紹介していない事例や私の調査していない地域も多くあります。
表1 土砂災害の発生年月日一覧表(★地震災害,●豪雨災害,▲火山噴火災害,■その他)
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図1 シリーズコラムの土砂災害の発生個所一覧図(日本全体)
(消防庁消防研究センター 土志田正二主任研究官作成)
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図2 シリーズコラムの土砂災害の発生個所一覧図(本州中央部の拡大図)
(消防庁消防研究センター 土志田正二主任研究官作成)
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3.いさぼうネットのアクセス状況
図3の左側の図は、いさぼうネットのトップページで、色々な情報を閲覧できるようになっています。赤枠で示した
は、「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」の項目で、ここをクリックすると、右側の図のシリーズコラム一覧の画面になります。一番上の欄をクリックすると、最新のコラム100が閲覧できます。以下100〜1までのすべてのコラムを無料で閲覧できます。
図3
「いさぼうネット」のトップページとシリーズコラムの一覧画面
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Web公開していますので、それぞれのコラムをアクセスして頂くと、いさぼうネット事務局で毎日アクセス数がカウントされます。表2は年月別のコラム別アクセス数を示しています。表は小さくて読みづらいですが(<拡大表示>で見て下さい)、
は500件/月以上、
は200件/月以上、
は100件/月以上を示しています。
図4は、毎年月のアクセス数を示しています。Web配信の始まった平成27年(2015)4月から平成28年(2016)10月までのアクセス数は、1000件/月以下だったのですが、11月からアクセス数は増加し、平成29年(2017)1月以降は2000件/月を越えました。2018年6月に拙著『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのT)が出版されると、アクセス数は4000回/月を越えました。
2018年7月の西日本豪雨災害で1万1256件、2019年10月の台風19号災害で1万6994件、2020年7月の梅雨前線豪雨災害で1万7713件、2021年7月の熱海土石流災害で1万8836件など、激甚な災害が発生する度にシリーズコラムのアクセス数が増加しました。2000年2〜4月は、「新型コロナウイルス問題」が深刻になるにつれて、アクセス数は少し減少しましたが、5月以降回復しました。
図5は、コラム別アクセス数(コラム1〜コラム99)です。多い順に、
- 3万4372件:コラム46広島安佐南区・八木地区の災害伝説と大正15年(1926)災害
- 2万8116件:コラム5イタリア・バイオントダム(1963)の被災地を訪ねて
- 2万7609件:コラム3八ヶ岳大月川岩屑なだれによる天然ダムの形成と303日後の決壊
- 2万6226件:コラム18天明三年(1783)の浅間山天明噴火と鎌原土石なだれ
- 2万2251件:コラム61707年富士山宝永噴火〜長期間に及んだ土砂災害〜
- 2万2090件:コラム19天明三年(1783)の浅間山天明噴火と天明泥流
- 2万1352件:コラム45長野県西部地震(1984)による御岳崩れと土石流
- 1万9181件:コラム71792年の島原大変肥後迷惑
- 1万9177件:コラム43神奈川県・静岡県・千葉県の土砂災害を示す「びゃく」
- 1万7397件:コラム42東京都・神奈川県の土砂災害を示す「びゃく」
となっています。
図6は、アクセス数が多い「コラム1,3,5,6,7,18,19,27,28,35,38,42,43,44,45,46」の16事例について、月別のアクセス数をグラフ化したものです。初期に公開されたコラムのアクセス数が多いのですが、詳しく見ると色々なことが分かります。
表2 コラム別の年月別アクセス数(2015年4月〜2025年3月)
図4
年月別アクセス数(コラム1〜99,2015年4月〜2025年3月)
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図5
コラム別アクセス数(コラム1〜99,2015年4月〜2025年3月)
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図6
主なコラム別アクセス数の変化(2015年4月〜2025年3月)
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図7 コラムの発生原因別分類
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表3 世紀別土砂災害発生件数
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図7は、コラムの発生原因別分類を示しています。地震による災害が62事例、降雨による災害が103事例、火山噴火による事例が8事例、その他が5事例です。そのうち、天然ダムを形成・決壊した事例が36事例ありました。
表3は、世紀別・発生誘因別の土砂災害一覧表です。残存している土砂災害の記録は、時代を遡るほど地震災害が多くなります。地方の行政機関から奈良・京都の中央政府(江戸時代以降は江戸幕府)に報告され、記録されたのは、地震災害や火山噴火の方が多く、降雨災害はあまり多く報告されなかったためと考えられます。
「天然ダム災害」をコラムで多く取り上げましたが、天然ダム災害は、
@ 河谷斜面が急激に崩壊・地すべりを起こして河道閉塞を起こすこと、
A 河道閉塞の上流部が湛水すること、
B 天然ダムが満水となって決壊すると、洪水段波が下流に流下すること、
などから甚大な被害を受けることが多く、災害事例が記録され、報告されることが多いためです。
4.拙著『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのT〜V)の書評・新刊紹介
以上、10年間にわたって連載してきたシリーズコラムについて説明してきました。平成27年(2015)4月からシリーズコラムを開始して以来、コラムを公開するたびにいさぼうネット事務局へ数件の問い合わせがありました。丸源書店から(そのT)、(そのU)、(そのV)を上梓して以来、多くの方々から激励の言葉を頂きました。
また、学会誌などに書評・新刊紹介を書いて頂きました。
これらの記事を執筆して頂いた方々に感謝の気持ちを込めて、18件の書評・新刊紹介を以下に示します。
拙著(そのT〜V)の書評・新刊紹介一覧
| @ |
知取気亭主人(2018.7.18):知取気亭主人の四方山話 第783話『過去の災害に学ぶ』,いさぼうネット
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| A |
今村遼平(2018.10):Survey Library『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』,測量,2018年10月号,p.54.
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| B |
小俣新重郎(2018.7):書籍紹介『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』,地すべり,55巻4号,p.42.
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| C |
藤村直樹(2019.1):新刊紹介『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』,砂防学会誌,71巻5号,p.91.
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| D |
清水長正(2019.6):書架『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』,地理,64巻6号,p.120.
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| E |
今村遼平(2019.10):Survey Library『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),測量,2019年10月号,p.50.
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| F |
青山雅史(2019.11):書架『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),地理,64巻11月号,p.111.
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| G |
若井明彦(2019.12):書籍紹介『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),地すべり,56巻5号,p.38.
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| H |
櫻本智美(2020.1):書籍紹介『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),砂防学会誌,72巻5号,p.85.
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| I |
植村善博(2020.3):書評『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),地理学評論,93巻2号,p.107-108.
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| J |
影山大輔(2020.4):情報の散歩道『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),治水と砂防,53巻1号(No.254),p.55.
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| K |
鈴木毅彦(2020.6):書評『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),第四紀研究,59巻2号,p.85.
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| L |
今村遼平(2020.10):Survey Library『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV),測量,2020年10月号,p.44.
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| M |
応用地質(2020.10):新刊紹介『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),応用地質,60巻4号,p.194.
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| N |
山川陽祐(2021.5):井上公夫著:歴史的大規模土砂災害地点を歩く(そのV),地形,42巻1号,p.29-30.
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| O |
宮澤洋介(2021.6):書架『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV),地理,66巻11月号,p.111.
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| P |
山本博(2022.3):書評 井上公夫著『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV),地理学評論,95巻2号,p.138-139.
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| Q |
王功輝(2021.10):書評『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV),自然災害科学,39巻4号,p.459.
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| @ |
2018.7.18 いさぼうネット「知取気亭主人の四方山話」,783話 |
| A |
今村遼平:『測量』Survey Library『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』
2018年10月号,p.54
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著者は実務的な防災技術者であり、地形学の新しい分野を切り拓いた地形学者でもある。世界的に見て日本は「災害王国」で、これまでいろいろなタイプの自然災害を受けてきた。中でも、土砂災害は日本独特のものといえる。著者は歴史に残るそんな大規模土砂災害の実態を、古文書と「その災害を残した地形」などから詳しく読み解き、今後の防災にどう生かすかを示すライフワークとしてきた技術者である。本書は土木情報サービス「いさぼうネット」というウェブサイトに連載してきた30回分を、“コラム”の形で一書にまとめた、オールカラーの力作である。私達同業技術者が著者を心から尊敬するのは、
| (1) |
地形図や古文書から過去の土砂災害跡地丹念に抽出し、
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| (2) |
その古文書を丁寧に読み解き、
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| (3) |
それを踏まえて必ず現地に出向いて今までの地形学者にない視点で見直して、歴史的な大規模崩壊の実態を明らかにし、それを今後の防災にどう生かすかを追求してきた、執念とも言える取組姿勢である。
|
本書に記された30の歴史的大規模土砂災害について、本書ほど実態を克明に示した本はない。著者はこれまでにも多くの歴史的な大災害についての本を著しているが、本書には著者の渾身の力が込められているのを感じる。座右において、じっくりと読んで頂きたい一書である。
今村 遼平
| B |
2018.7 小俣新十郎(2018):書評:「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」,地すべり,55巻4号,p.42
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| C |
2019.1 藤村直樹(2019):『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』,砂防学会誌,71巻5号,p.91
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| D |
2019.6 清水長正(2019):書架,『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』,地理,64巻6月号,p.120.
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| E |
今村遼平:『測量』Survey Library『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU)2019年10月号,p.50
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本書は2018年6月に刊行された同じタイトルの前書(そのT)に続き、井上氏が約50年間にわたって調査・研究し、その都度「いさぼうネット」に発表してきたこられの我が国の歴史に残る大規模土砂災害についてのコラムシリーズの、31〜50回分(20地点分)をまとめたものである。
大規模土砂災害は台風や梅雨前線などによるものや、大地震に原因するものなど多様であるが、いずれもそれぞれの地域に大打撃を与えた災害である。著者井上氏は、これら各々の被災地について歴史的な文献を徹底して集め、それと最近の航空写真や、衛星画像・レーザー画像・地形図などを踏まえ、すべての被災地を自分の足で丹念に現地調査をして、歴史的事実の裏付けをするとともに、現地でないとわからない事実を集めて災害の原因を科学的に明らかにし、それらを今後の防災にどう生かすかに焦点を当てて、本書を書いている。
同業の技術者としていつも畏敬の念を禁じえないのは、井上氏の過去の資料や文献の丹念な読み解き方と、必ず現地に出向いて自分の目で被災の実態を詳しく確認していることである。記述されている各被災地の実態や災害史については、恐らくこれまでに最も詳しい貴重な文献であろう。市町村の防災関係者にも、座右に置いて参考にされることをお勧めしたい1冊である。
今村 遼平
| F |
2019.11 青山雅史(2019):書架,『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),地理,64巻11月号,p.120
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| G |
2019.12 若井明彦(2019):書評『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),地すべり,55巻4号,p.42
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| H |
2021.1 櫻本智美(2020):『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),砂防学会誌,72巻5号,p.85.
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| I |
2020.3 植村善博(2020.3):書評『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),地理学評論,93巻2号,p.107-108.
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| J |
2020.4 影山大輔(2020):書評『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),砂防と治水53巻 1号(No.254),p.55.
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| K |
2020.6 鈴木毅彦(2020):書評『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのU),第四紀研究,59巻 2号,p.85.
©日本第四紀学会
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| L |
今村遼平:『測量』Survey Library『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV)2020年10月号,p.44
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著者の井上氏が、2018年、2019年に引き続き、同じタイトルで今回出版されたのが(そのV)である。既刊の1冊だけを見ても膨大な情報量でそのすごさに感動するが、それを3年間も続けて今回の(そのV)を見たというのは、同業コンサルタントの一人として、心から敬意を表するとともに、そのエネルギーと集中力にはただ驚くばかりである。(そのV)は「いさぼうネット」のコラム51〜66の16件をまとめたものである。
いずれも歴史に残る大規模災害で、それぞれの発生後に多くの報告がなされているが、著者は、それらを念頭に置きつつも、あらたに自分の足ですべての被災地を訪れて丹念に歩き、既往の報告とは違った視点で現地の地形や被災の実態を読み解き、新たな災害の意味付けするとともに、その災害を、地域文化の一端としてとらえて忘れ得ぬ歴史として記している。単に理工学関係の技術者としての目だけでなく、被災を地域の歴史ひいては文化の一端としてとらえているのは、全国の大規模土砂災害の被災地をあまねく俯瞰した、著者ならではの思い入れであろうと思う。「災害大国」日本の防災を担当する市町村の防災関係者や防災技術者は、本書を座右において、日本の災害を広い視点からとらえて、地域に生かしていただきたいものである。
今村 遼平
| M |
2020.10 文献紹介『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV),応用地質,61巻4号,p.220.
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| N |
2021.5 山川陽祐(2021):書評『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV),地形,42巻1号,p.29-30.
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| O |
2021.6 宮澤洋介(2021):書架,『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV),地理,66巻 6月号,p.111
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| P |
2021.3 山本博(2022.3):書評『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV),地理学評論,95巻 2号,p.138-139.
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| Q |
2021.10 王功輝(2021):『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(そのV),自然災害科学,39巻4号,p.459.
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