1. はじめに
平成27年(2015)4月に一般土木情報サービス「いさぼうネット」で、シリーズコラム
『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』の執筆を開始してから、5年が経過し、コラム65まで公開することができました。これは「いさぼうネット」の運営会社である五大開発株式会社で私の拙い原稿を公開用原稿に修正し、公開して頂いたお蔭だと思っています。このシリーズコラムを閲覧して頂いた多くの方々のお陰です。
また、丸源書店の中陣隆夫店主の計らいにより、平成30年(2018)6月に(そのT)、令和元年(2019)8月に(そのU)を自費出版で上梓することができました。拙著の出版に際して「推薦の辞」を執筆して頂いた京都大学名誉教授の水山高久先生(そのT)、広島大学大学院総合科学研究科環境自然学講座教授の海堀正博先生(そのU)に感謝いたします。
5年間続けた本シリーズコラムは、コラム65で区切りをつけたいと思います。コラム66では、今までのシリーズコラムをとりまとめた結果を報告します。
2.シリーズコラムの調査地点
私は、コンサルタントとして現地調査に行くと、旅館やホテルでその地の市町村史や小説などを読み、その地域の自然条件や社会条件を知るとともに、歴史的大規模土砂災害の事例を収集・整理してきました。本シリーズコラムは、私の50年来の友人である五大開発株式会社の小田兼雄社長との5年前の飲み会の席で企画されました。
「いさぼうネット」は五大開発株式会社が運営し、インターネットを活用して、斜面防災・地質調査・測量・土木設計・土木施工、そして中小企業経営に光をあて、技術力の向上と情報収集を強力にサポートする土木ポータルサイトです。無料で会員登録ができ、色々な情報が「いさぼうネット」から送られてきます。会員でなくても、パソコンやモバイルなどで「いさぼう」と入力すると、サイトの中の記事を閲覧できます。
「いさぼうネット」では、シリーズコラム『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』として、私が50年近い期間にコンサルタント業務などで現地調査を行い収集・整理してきた事例のうち、発生年月日と場所が特定できた事例を紹介してきました。私が作成した原稿をネット事務局(五大開発株式会社システム事業部コンテンツ企画課)で、Web掲載用に編集して頂き、月1回程度公表してきました。
本コラムの目的は
「過去の災害に学び・生かす」ことです。表1は私が調査したシリーズコラムの土砂災害の発生年・発生箇所一覧表です。図1は土砂災害の発生箇所一覧図で、表1をもとに総務省消防庁消防大学校消防研究センターの土志田正二主任研究官に作成して頂きました。
表1 土砂災害の発生年・発生箇所一覧表(★地震災害,●豪雨災害,▲火山噴火災害,■その他)
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図1 シリーズコラムの土砂災害の発生箇所一覧図
(消防大学校消防研究センター 土志田正二主任研究官作成)
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図1は活断層と地すべり地形の分布を入れた基図の上に、土砂災害の発生箇所をプロットして頂きました。図2は調査事例の多い本州中央部の拡大図です。これらの図表をみると、土砂災害の多い地域がどこかわかりますが、まだ紹介していない土砂災害地点や私の調査していない地域が多くあります。
図2 シリーズコラムの土砂災害の発生箇所一覧図(本州中央部)
(消防大学校消防研究センター 土志田正二主任研究官作成)
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3.いさぼうネットのアクセス状況
土木情報サービス
「いさぼうネット」は、誰でも無料で閲覧できる便利なサイトです(会員登録すると色々な情報が得られます)。すでに公開されているシリーズコラム(2020年3月現在コラム66まで)を自由に閲覧できます。図3の左図はいさぼうネットのトップページで、色々な情報が閲覧できるようになっています。
赤枠で示した は、「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」の項目で、これをクリックすると右図のシリーズコラム一覧の画面となります。一番上の欄をクリックすると、本コラム「コラム66「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」のまとめ」が閲覧できます。その下の欄は、2015年4月に最初に公開した「コラム1 寺田寅彦
『天災は忘れられたる頃来る』」です。以後コラム2からコラム65までのすべてを閲覧できます。
Web公開しましたので、それぞれのコラムを皆様がアクセスすると、毎日アクセス数がカウントされ、表1に示したように、毎月集計することができます。令和2年(2020)2月末現在で、総アクセス数は22万1732件となりました。表2は、コラムの月別アクセス数(2015年4月〜2020年2月)を示します。黄色は100件以上、橙色は200件以上、赤色は500件以上を示しますが、コラムに関連した災害などがあったことを示します。
図3 いさぼうネットのトップページとシリーズコラムの一覧図
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表3は、コラム名の一覧とコラム別のアクセス数と月別平均アクセス数を示します。番号の若いコラムほど公開期間が長いので、公開期間の月数で割った平均値で見る必要があります。1番アクセス数が多いのはコラム3(10,766件,月平均186件)ですが、2番目にアクセス数が多いのはコラム46(10,318件,月平均448件)で、コラム46が間もなく1番多くなると思います。
表3 コラム名一覧と月別アクセス数,月平均値(2015年4月〜2020年2月)
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図4 日別アクセス数の変化(2015年4月〜2020年2月)
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図5 月別アクセス数(2015年4月〜2020年2月)
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図6 コラム別アクセス数(2015年4月〜2020年2月)
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図4は、日別アクセス数の変化(2015年4月〜2020年2月)を示しており、時々アクセス数が飛び出しているのはコラムが公表された日か、大きな土砂災害の発生した時期に相当します。図5は、毎月のアクセス数(同上)を示しています。Web配信が始まった平成27年(2015)4月から平成28年(2016)10月までのアクセス数は、1000件/月以下だったのですが、11月からアクセス数は増加し、平成29年(2017)1月以降は2000件/月を超えるようになりました。
図6は、コラム別アクセス数(同上)を示します。アクセス数が多いのはどのコラムかが判ります。
図7 主なコラム別アクセス数の変化(2015年4月〜2020年2月)
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図7は、アクセス数の多い「コラム1,3,5,6,7,18,19,27,28,35,38,42,43,44,45,46」の16事例について、月別のアクセス数をグラフ化したものです。初期に公開されたコラムのアクセス数が多いのですが、細かく見ると色々なことが判ります。「コラム3 北八ヶ岳の天然ダム」は2015年5月28日に公開されましたが、平成29年(2017)8月に400件近いアクセスがありました。2017年8月17日に開催された上毛新聞社主催の「防災・減災シンポジウム カスリーン台風から70年〜いま考える水害対策〜」や日本地すべり学会などで、私の話を聞いた方がアクセスして頂いたためでしょう。
「コラム5 バイオントダム」は2015年7月2日に公開されましたが、平成29年(2019)2月に432件のアクセス数があり、平成30年(2018)6月頃から増えて9月には503件にもなりました。
「コラム7 島原大変肥後迷惑は、2015年7月30日公開に公開されましたが、平成28年(2016)4月14日の熊本地震以降アクセス数が多くなり、平成30年(2018)のインドネシア津波でさらに多くなっています。
「コラム6 富士山宝永噴火,2015年7月16日公開」や「コラム18 浅間山天明噴火と鎌原土石なだれ,2016年3月31日公開」,「コラム19 浅間山天明噴火と天明泥流,2016年5月16日公開」など、火山噴火のアクセス数が多くなっています。
平成30年(2018)7月8日の西日本豪雨災害のよって激甚な災害が発生しましたが、7月にはアクセス数は1万1256件にも達しました。「コラム46 広島の災害伝説と大正6年災害」は、2018年4月5日に公開されましたが、2018年7月には2830件にも達しました。その後、平成30年(2018)9月6日の北海道胆振東部地震や12月22日のインドネシアのスンダ海峡で発生した津波の影響もあって、アクセス数が多くなっています。
令和元年(2019)9月9日に上陸した台風15号、10月12日に上陸した台風19号の襲来によって日本各地で激甚な被害を受けました。このため、10月のアクセス数は1万6994件にも達しました。それ以後も毎月8000件程度のアクセス数が続いています。
図8はコラムの発生原因別分類を示しています。地震による災害が25事例、豪雨による災害が26事例、火山噴火による事例が7事例、雪崩・雪代災害が1事例、人為・ダム湛水による地すべり災害が2事例です(その他計7事例)。また、天然ダム災害を取り上げた事例が31事例、火山地域で発生した事例が18ありました。
天然ダム災害事例 31
火山地域災害事例 18
図8 コラムの発生原因別分類
表1は土砂災害の発生年一覧表で、
★地震災害,●豪雨災害,▲火山噴火災害,■その他)で示しています。図1は表1をもとに私が調査した土砂災害地点の分布図です。残存している土砂災害の記録は、時代が遡るほど地震災害が多くなります。地方の行政機関から奈良・京都などの中央政府に報告され、記録されるのは地震災害や火山噴火が多く、降雨災害はあまり報告されなかったためと考えられます。
天然ダム災害を多く取り上げましたが、天然ダム災害は、
@ | 河谷斜面が急激に崩壊・地すべりを起こして、河道閉塞を起こすこと、 |
A 上流部に湛水すること、
B 天然ダムが満水となり決壊すると洪水段波が流下すること、
で甚大な被害を受けることが多く、災害事例が記録され、報告されることが多いためと考えられます。
4.拙著の書評・新刊紹介,学会発表・講演会など
以上、5年間にわたって連載してきたシリーズコラムについて説明してきました。平成27年(2015)4月からシリーズコラムを開始し以来、いさぼうネット事務局への数件の問い合わせが何件かありました。丸源書店から(そのT)(そのU)を上梓して以来、多くの方々から激励の言葉を頂きました。また、学会誌などに書評・新刊紹介記事を書いて頂きました。
御礼の気持ちを込めて、以下に示したいと思います。
小田兼雄(2018.7.18):知取気亭主人の四方山話 第783話『過去の災害に学ぶ』
小俣新重郎(2018.7):書籍紹介「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」,地すべり,55巻4号,p.42.
今村遼平(2018.10):Survey Library「歴史的大規模土砂災害地点を歩く(そのU)」,測量,2018年10月号,54p.
清水長正(2019.2):書架「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」,地理,64巻2号,120p.
今村遼平(2019.10):Survey Library「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」,測量,2019年10月号,50p.
応用地質(2019.10):新刊紹介「歴史的大規模土砂災害地点を歩く(そのU)」,応用地質,60巻4号,p.194.
青山雅史(2019.11):書架「歴史的大規模土砂災害地点を歩く そのU,地理,64巻11月号,111p.
若井明彦(2019.12):書籍紹介「歴史的大規模土砂災害地点を歩く(そのU)」,地すべり,56巻5号,p.38.
櫻本智美(2020.1):書籍紹介「歴史的大規模土砂災害地点を歩く(そのU)」,砂防学会誌,56巻5号,p.38.
植村義博(2020.3):書評「歴史的大規模土砂災害地点を歩く(そのU)」地理学評論,92巻6号,p.107-108.
次に、私が公表してきた講演会・講習会や学会での発表などを以下に記します。
井上公夫(2017.8.17):カスリーン台風から70年〜いま考える水害対策〜,地形地質の条件から,上毛新聞社主催防災・減災シンポジウム
上毛新聞記事(2017.8.31): 防災・減災シンポジウム カスリーン台風から70年〜いま考える水害対策〜(特集2p.)
井上公夫(2017.9.15):いさぼうネットのシリーズコラム「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」の紹介,第34回歴史地震研究会(つくば大会)概要集,
井上公夫(2018.8.20):歴史的大規模土砂災害地点を歩く〜2010年4月25日の台湾北部第二高速公路の地すべり災害,日本地すべり学会(熊本大会)
井上公夫(2018.9.1):歴史的大規模土砂災害地点(地震災害)を歩く,地理の会,なかのゼロ(もみじ山文化センター)
井上公夫(2018.9.24):歴史的大規模土砂災害(特に地震災害)の事例紹介,第35回歴史地震研究会(大分大会)概要集,O-39
井上公夫(2018.9.27):『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』編集の経緯と内容の紹介,第386回資源セミナー,文京シビックセンター区民会議室
井上公夫(2019.6):いさぼうネットのシリーズコラム「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」の紹介,歴史地震,33号,p.246.
井上公夫(2019.6.29):いさぼうネット『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』,コラム55,56,新潟県中越地震(2004)による地形変化を旧版地形図・航空写真で振り返る,第395回資源セミナー,文京シビックセンター区民会議室
井上公夫(2019.8.24):わが国の歴史的大規模土砂災害―学校地学教育への提言―,減災・防災の徹底に向けた地学教育の展望と課題−北海道胆振東部地震など現場からの直接フィードバック−,地学教育研究集会(東京大学地震研究所)
井上公夫(2019.9.15):1923年関東地震の神奈川県の土砂災害,ジオ神奈川 関東大震災の教訓を学び,市民への啓発活動,横浜市防災センター
井上公夫(2019.9.20):高知県内の歴史的大規模土砂災害地点を歩く,高知県地質調査業協会,令和元年度 技術研修会,テーマ:『迫りくる南海トラフ地震による自然災害を考える』
井上公夫(2019.9.21):いさぼうネット「歴史的大規模土砂災害地点を歩く」から地震による大規模土砂災害事例の紹介,第36回歴史地震研究会(徳島大会)概要集,O-05
井上公夫(2019.9.28):1923年関東地震による神奈川県の土砂災害,第398回資源セミナー,文京シビックセンター区民会議室
井上公夫(2019.11.27):伊豆大島火山地域の土砂災害,大島町・首都大学東京火山災害研究センター共催 大島島民フォーラム 伊豆大島の火山・土砂災害に備える
井上公夫(2019.12.7):『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』の紹介と関東地震(1923)による震生湖,地理の会,なかのゼロ(もみじ山文化センター)
井上公夫(2019.12.14):歴史的大規模土砂災害地点を歩く,日本技術士会 神奈川県支部講演会,波止場会館
井上公夫(2020.1.23):大規模土砂災害地点の実例と対策,日本技術士会 環境部会2020年度講演会,機械振興会館
井上公夫(2020.2.14):信州の歴史的大規模土砂災害地点を歩く, 日本技術士会長野県支部・地盤工学会中部支部信州地盤環境委員会「大災害にどう備えるか」―令和の大水害と歴史的災害 講演会,信州大学工学部
井上公夫(2020.4):千曲川の氾濫の歴史と夜間瀬川扇状地の地形形成との関連,地理65巻4月号,口絵,p.6-7.,本文,p.72-83.
5.災害小説のアンケート結果一覧表
自然災害などを題材とした小説を皆さんは何冊位読まれていますか。防災対策がかなり進んだ現在では、家族を含めて自然災害で被災する可能性は少なくなっています。しかし、実際に自然災害に直面したときにどう対応したらよいのでしょうか。豪雨・地震・火山噴火・融雪・氷河湖決壊などを誘因として、世界各地で土砂災害・洪水災害は頻発しています。これらの土砂災害をモチーフとした小説を読むことによって、災害対応を疑似体験できます。
土砂移動が発生しても、土砂の移動領域に居住地がなければ、災害は発生しません。自然災害は単なる自然現象ではなく、土砂移動と被災者との位置関係と、背景としての社会状況や防災力と関連して発生します。自然災害に直面した時、私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。
井上は、首都大学東京 都市環境学部 地理環境コースの非常勤集中授業などで、「災害論」の授業を担当しました。最初の授業で今まで読んだことのある自然災害関連の小説の作者・題名の一覧表を示し、読んだことのある小説に〇を付けてもらい集計しています。しかし、20歳前後の学生たちはほとんど小説を読んでいません。
授業では、大規模な土砂災害の事例を紹介すると同時に、これらの小説などを紹介し、読むことをすすめています。最後のレポート課題として、「授業で紹介した小説などを読み、主人公(または著者)が自然現象と災害をどのように捕えていたか、あなたの感じ取ったことを書いて下さい」という課題を出しています。若い学生たちですから、自分や家族の被災体験はほとんどありませんが、小説を読むことにより、さまざまな自然現象と被災事例との関係,その後の涙ぐましい復興への努力についての感想を書いてくれます。20歳前後の学生のレポートには参考になることが多くあります。
また、一般市民や技術者を対象とした講習会などでも同じ一覧表を示し、読んだことのある本の左欄に○を付けてもらいました。いさぼうネットの「教育支援」のいさぼうアンケートの項で、災害小説に関するアンケートを2回(2009年1月29日,2014年7月03日)行いました。また、応用地質学会誌(2016)57巻5号でも、地質アラカルトのジオ・メリット(30)で、「自然災害などを題材とした小説は読まれているか」という記事を投稿しました。
表4は,自然災害などを題材とした小説の著者・題名を古い順に示したものです(全部で118冊あります)。左側に学生のレポート数(1冊/人)、右側に講習会等で実施したアンケート数(複数回答)を示しました。
表4 自然災害を題材とした小説の著者・一覧表(2020年2月14日現在) 井上 公夫
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