以前から妻に是非読んでみるように進められている本がある。ジュール・ベルヌの「十五少年漂流記」(福音館古典童話シリーズでは「2年間の休暇」)である。子供たちが小さい時に読み聞かせたり、読ませたり、我が家では随分楽しんだ本のようである。我が家にあるのが子供向けの大判の本(福音館古典童話シリーズ)であるため持ち運びに不向きで、いずれ時間がタップリとできたときにでも読もうと、本棚に眠ったままになっている。頭の隅の読んでみたい本の引き出しにしまっていたが、徐々に引き出しの下の方になり、最近では思い出すことも殆どなくなっていた。ところが、一月ほど前に本屋で或る本を手にとって、再び引き出しの一番上に記憶されることとなった。
或る本とは、『無人島に生きる十六人』(新潮文庫、須川邦彦著)である。カバーには「名作『十五少年漂流記』に勝る、感動の冒険実話」とある。読んでみたいと思っている本より面白いとなれば、是が非でも読みたいと思うのが人情と言うもので、早速買い求め読んでみた。
漂流を体験した元船長(中川倉吉氏)が後に東京高等商船学校の教官になり、「練習帆船の船上で、著者も含めた実習学生に漂流の体験談を語る」と言う形をとっていて、読んでいる私も自然と話の中に引き込まれていった。難破した時期は明治32年(1899年)、船上で語ったのは明治36年(1903年)、そして活字として世に出されたのが昭和16年(1941年)10月で少年クラブに13ヶ月間掲載されたと「まえがき」にある。本書は、復刻版である。
難破したのは、76トン、2本マストの帆船で名前を龍睡丸、乗員は中川船長を含め16人である。漂着した島は、太平洋のど真ん中ミッドウェー島に近い(近いと言っても300kmほど離れている)パール・エンド・ハーミーズ礁の無人島で、面積は概ね4千坪(計算してみると幅が100mとすると、長さは132mになる)、一番高いところで海面上僅か4m、緑したたる草は一面に茂っているが木は1本もない、本当に小さな珊瑚礁の小島である。この小島での約4ヶ月に渡る生活が、活き活きと書かれている。決して悲壮感はない。
湧き水のない島での飲料水の確保の方法、見張りの為の高み用の砂山築造、製塩、海がめや魚の獲り方等等、その時その時に考え出される知恵には驚かされる。何より16人全員が船長のリーダーシップの下、「生きて帰るためには今何をすべきか」を良く理解して行動していることに、わが身を振り返り頭が下がる思いである。
巻末に、作家の椎名誠が『痛快!
十六中年漂流記』と言うタイトルで論評を書いているが、正にこのタイトル通りの本である。本の帯には、龍睡丸船員帰国を報じる新聞記事(讀賣新聞、明治32年12月25日付け)が転載されている。実際の体験談である。実際に漂流を体験した16人の皆さんには申し訳ないが、今から104年も前の「海の男達の冒険」に「子供の頃の遊び」が不思議と重なる人たちも多いのではないかと思う。秋の夜長に、お勧めの一冊である。 |