301年前の今日、1702年12月14日は赤穂浪士討ち入りの日である。浅野家藩主の刃傷沙汰や仇討ちの顛末を扱った忠臣蔵は、20年ほど前まで年末恒例のテレビドラマとして良く放映されていた。基本的には毎回同じストーリーなのに、勧善懲悪のその分かり易さ故か当時の大人たちにとっては人気があったようで、一時は紅白歌合戦の対向番組としても放映されていた。子供にとっては余り面白くないのだが・・・・・・。
テレビドラマで見たのか、本で読んだのか記憶は定かでないが、その刃傷沙汰の背景には浅野家が取り仕切っていた塩の権益があった、との話もある。確かに浅野家は塩の権益で財政的には豊かであったようだ。
各地に「塩の道」と呼ばれる海岸地方と内陸を結ぶ昔の街道が残されているように(故郷の遠州森町にもある)、また一寸前まで専売公社が一手に製造・販売していたことからも分かるように、塩は生命に係わる重要な調味料でこの流通により多くの金が動いていたことは間違いないし、この権益をめぐって策略が巡らされたとしても不思議はない。赤穂浪士討ち入りから300年近く経った数年前から、策略に踊らされた悲しい呪縛が解かれたように、塩の専売制が撤廃され「赤穂の塩」が再び日の目を見るようになってきた。スーパーマーケットに行くと色々な名前の塩を買うことができ、その中の一つに「赤穂の塩」がある。浪士がテレビに登場すること自体はめっきり減ったが、赤穂の塩の登場を草葉の陰でさぞかし喜んでいるに違いない。
専売制の撤廃と健康志向の相乗効果なのだろう、「赤穂の塩」の他にも「伯方の塩」や「沖縄の塩」など産地の名前を冠した塩が、『ミネラル分を多く含んでいます』の謳い文句とともに売られている。私が住んでいる石川県にも、能登半島の先端部で作られている「珠洲の海」と名付けられた塩がある。
専売制が撤廃される以前に流通していた塩は、専売公社でつくられていたものが殆どで、柳屋小三治がその著書「まくら」(講談社文庫、四方山話第7話で紹介している)の中で言っているように、純度99.3〜99.9%の塩化ナトリウムで真に美味しくない。美味しくない上に体にもよろしくない。塩分の摂りすぎは血圧に良くないと言われているが、小三治が語るところに寄ればこの塩化ナトリウムには血管を収縮する働きがあるようで、これが悪さをしている。以前から高血圧予防の食事指導として“減塩運動”が行われているが、そろそろ“減ナトリウム運動”に切り替えたらどうだろうか?
一方、『ミネラル分を多く含んでいます』の謳い文句の塩は、その成分が海水に近くカリウムやマグネシウムなどナトリウム以外のミネラルを多く含んでいて、妻の弁を借りれば塩化ナトリウムだけの塩に比べて高血圧に対する危険性は高くない。「まくら」にも書かれているが、特にカリウムはナトリウムと正反対に血管を弛緩する働きがあるらしい。妻が、『高血圧にはカリウムを多く含んだバナナやリンゴが良いのよ』とよく言うのも道理である。
小三治は「まくら」の中で、フランスやオーストリアでとれる岩塩やバリ島の塩も美味いがベトナムの塩が一番美味い、と言い、うまい塩を求めベトナムにまで買出しに行く、とも書いている。“母を訪ねて三千里”ならぬ“塩を求めて何千キロ”である。前浜で採れたであろう赤穂浪士の方々にとっては、他国の塩を買い求めることは勿論のこと、ましてやわざわざ海を渡って買いに行くことなど想像もできないだろう。第一ベトナムを知らないから、「ベトナムは何藩だ?」とビックリされていることと思う。更に、くどくなることを覚悟で言えば、深層水から作られた塩にもビックリであろう。海水を桶で汲み塩田で精製していた方法しか知らない浪士達は、『そこまでしなくても、昔の赤穂の塩は美味かったぞ! 300年眠っている間に塩が偉いことになっている』と、まずくなったシンソウを知りたがっていることだろう。 |