『夜中の2時、深い眠りの中で心地よい夢を見ているはずの時間帯にふと感じた右手の違和感。それが、悪夢の始まりであることをその時太郎は知る由もなかった。彼の右手、いや右手といわず上半身は・・・・・・・』こんなミステリータッチで書きたくなるほど、"それ"は突然襲ってきた。
ことの発端は、猫の額ほどの庭に植えてある椿の剪定をよせばいいのにやり始めたことにあった。その日は朝から蒸し暑く半袖で作業していたが、このことがやがて訪れる苦悶を大きくすることになろうとは、無知とは実に恐ろしいものである。剪定を初めて30分、裏一面に毛虫がきれいに(本当に見事に)整列している葉がたくさんあることに気がついた。毛虫の毛でたまにかぶれることは、子供の頃の経験で良く知っていたので、毛虫の整列している葉っぱを注意深く切り取り煉瓦で摺り潰した。とにかく直接触れることだけしないように注意し、ほぼ剪定は終わった。心地よい疲れと程良いアルコールのお陰で、すっきりとした目覚めになるはずだったのに、出だしの文章である。そう、"それ"、"かゆみ"が突然夜中に襲ってきたのである。
「かゆい!」、とにかくかゆい!
「"かゆい"という漢字が『なぜやまいだれ(?)に羊なのか(痒)』、そんなことはどうでもいいから誰か"かゆみ"を止めてくれ」と叫びたくなるほどかゆい。仕方なく皮膚科で治療をしてもらうことにした。医師は、私の説明と赤い斑点が見事に広がった腕を診て、『茶毒蛾にやられましたな!』と一言。診断は5秒の即断であった。医師は、『茶毒蛾は椿や山茶花、お茶の木に今頃(5、6月)と9月頃の年2回発生し、普通の毛虫は毛にやられますが茶毒蛾は粉でやられるんです。だから死んだ毛虫でも粉が風に舞ってやられることが有るんです。繭でもかぶれるそうですよ。治るのには普通の人で10日、短い人で4日位ですね。市販の虫さされ用の薬では全く効かないので塗り薬と飲み薬を出しておきます。ああそれからアルコールは飲まないように、もっとかゆくなりますよ』とにこやかにアドバイスをしてくれた。アルコール消毒したかったのに!
その日から、朝晩2回、上半身に広がった赤い斑点に薬を塗るのが私の日課になった。
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