いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
 

『満天星』

戻る

   2003年11月14日

 散歩をしていて最近面白いことに気が付いた。どうやら植物にも人間と同じように自己主張に得て不得手があるらしい。春には差ほど目立たなかった植物が夏や秋に俄然“オレだオレだ”といわんばかりに主張したり、葉は立派なのに花は遠慮がちだったり、と様々な性格を見せてくれる。 

 葉っぱでは威張っていながら、花は遠慮がちに小さく慎ましやかに咲くヒイラギヤツデは、自己アピールが不得手なのだろう。逆に自己アピールが上手いのは、やはり競争相手が少ない時期を見計らって咲く植物に勝るものはない。雪景色の中で艶やかに咲く寒椿、葉が茂る前に“私を見てよ”と咲くコブシを筆頭に、夏、草刈後の土手に咲く葉無しの彼岸花などはやや毒気があるものの自己アピールの上手さにかけては表彰ものである。   


ヤツデの花

 もっとも、彼らにしても花を見てもらわないとその存在に気がついてもらえない、と言う点では次の達人たちが一歩上をいっているのかもしれない。春の沈丁花、初夏の梔子(クチナシ)、夏のユリ、初秋の金木犀、などはいずれも芳しい臭いで嗅角に訴え、“私がいるのはここよ”と観衆の足を運ばせるほど強烈なアピールをしている。女性が好む香水に花の臭いのするものが多いのも頷ける。
 一方、晩秋に見事な彩りを見せる銀杏も自己主張の強い木であるが、雌木の熟した実が放つ異臭は食材としての魅力はあるものの残念ながら引き寄せる魅力には欠ける。勿論、観衆を遠ざける力はあるのだが……。当然ながら、香水には使われていない。

 晩秋の季節の個性派は、ドウダンツツジが双璧だろう。土塀に絡まったも捨てたものではないが、他を圧倒する鮮やかさでは前者にやや分がありそうだ。特にドウダンツツジは、春の愛らしい慎ましやかな花からは想像できないほど、秋の自己アピールは強烈だ。     


ドウダンツツジ



 

 桜の花が散り葉桜になる頃、ツツジの花が一斉に咲く。他のツツジが色と香りと大きさでミツバチと人間の大観衆にアピールし愛でられている頃、ドウダンツツジは小さな壷状の白い花を女所帯の中のたった一人の男性に似て、目立たぬようにひっそりと咲かせている。「男はベラベラしゃべるな」と育てられた世代には理解していただけると思うが、春のドウダンツツジは男の奥ゆかしさに似ている。そのドウダンツツジが秋になると、祭囃子に血が滾る若衆宜しく真っ赤に燃え盛り辺りの木々を凌駕する。葉や花は小さめで愛らしいが、自己主張の様はどこか男に似ていて、共感が持てる。
 昔から男はロマンチストだと良く言われている(?)が、ドウダンツツジもどうやらその様である。ドウダンツツジは漢字で「満天星」と書く。やはりドウダンツツジは、男似なのである。

【文責:知取気亭主人】

戻る

 

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.