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『関東大震災の被害写真を見たことありますか?』

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   2003年9月 5日

 8月31日に放映されたNHKスペシャル「首都激震」を見た。僅か1時間弱の放送だったが、どこにどんな危険が潜んでいるかを分かりやすく編集してあり、見応えのある番組だった。おざなりの防災訓練では現実に対応できないことも知ることができ、改めて我が家の地震防災を考え直す必要性を強く感じた夜となった。
 想定される震災直後の様子をコンピューターグラフィックスで見せるシーンもあったが、シミュレーションとは言え映像で見る被害状況には迫力がある。「やはり、映像や画像は記憶において文字や数値より勝る」と言うことで、今回は文庫本ながら250枚もの写真を載せ関東大震災被害のものすごさを伝えてくれる本を紹介する。地震の恐ろしさを読み取り、皆さんの地震防災見直しの切っ掛けとしていただければと思う。

 NHKスペシャルでは、「直下型地震に襲われた東京での死者の数は、最も被害が大きくなる冬の夕方に発生したとすれば、阪神淡路大震災を上回り7千人を超すと予想される」と言っていたが、本当にその程度で済むのだろうか? 今回紹介する本、関東大震災の被害写真を集めた写真集「写真で見る関東大震災」(ちくま文庫、小松健志編)の読後感想としては、残念ながらもっと大きな被害になりそうな感じがしてならない。それだけインパクトのある本である。
 「関東大震災が相模湾を震源地として80年前の1923年9月1日に発生したこと、そして関東一円に甚大な被害を発生させたこと」は良く知っているが、その具体的な被害の様子はこれまで読んだ本の挿入写真以外見たことがなく、私の中では「過去に起こった大災害の一つ」と言った程度の感覚でしか捉えられていなかった。そう言った感覚をものの見事に打ち破り、ある意味で関東大震災を身近な災害にしてくれたのがこの本である。

 250枚の写真とその説明文、そして徳富蘇峰(徳富蘆花の兄)の「遭災地の一巡記」や石黒重光の「関東大震災と新聞」など13名の人達による短文から構成されているが、この短文が震災直後の混乱する様子をよりリアルなものにしてくれる。「遭災地の一巡記」は、震災から2週間後の9月15日に被災地を視察した様子をまとめたものだが、
 『然も著しく目につくは花崗岩が火に弱きことだ。一たび火気に触れば、乍ち分解し去る。又概して煉瓦屋が脆きことだ。それに比すれば鉄筋コンクリートの方は、余程持ち堪へて居る様だ』
と言った建設技術者にとっては興味深い記述もある。また、「関東大震災と新聞」には、東京にあった17紙のうち焼け残った新聞社は僅か3紙のみであったこと、ラジオやテレビがない時代に震災の状況をいかに各地に伝えるか苦労したこと、そして関東大震災を契機にしてラジオ放送が始まったらしいことなどが書かれている。特に、東京から大阪まで4コースに分かれて状況を伝えようとした新聞社が、結局一番早いコースでも60時間掛かってしまったことは、阪神淡路大震災の第一報を数分後にはラジオで聞いた私にとって、想像を絶することである。その行を紹介しよう。

 『同記者が皇居前の臨時編集局を車で出発したのは、1日午後9時ごろ。(中略)しばらく走ると、目前の鉄橋が落ちている。車を捨て、原稿と未現像の写真フィルムを頭に、相模川を泳いで渡り厚木へ。2日正午、平塚に着く。数時間歩いて、国府津駅で止まっていた貨物列車の中で仮眠。(中略)無事、大阪本社編集局へ着いたのは、4日午前8時30分だった。東京を出てから、実に60時間かかってしまった』

 インフラ整備が遅れ耐震構造物が殆ど無い時代とは言え、泳いで相模川を渡らなければならなかったとは、今のこの恵まれた状況に身を置く者にとって想像もできない。だからこそ、今想定されている被害を遙かに越えるような大惨事になりはしないかと、内心危惧している訳である。杞憂に終わってくれるのを祈るばかりである。

 地震の本当の恐ろしさは、経験した者でないと分からない。編者は「聞き覚えの記」の中で、編者の父親が晩年、「短い一生に2度心底から怖い思いをした。1度は大震災、2度目は東京大空襲」とよく話をしたと書いている。戦争体験もそうだと思うが、そう言った経験者の話を聞き伝えていくことが、未経験者にとっては恐怖の疑似体験に繋がり、市民レベルでの防災教育として最も必要なことなのではないだろうか。
 最後に、編者(大正14年生まれ)の父親が晩年まで実行させていたと述べている4つの心得を引用して、「写真で見る関東大震災」の紹介を終わることとする。
 (1) 2階に寝ること(1階が倒れても2階は残る)
 (2) 揺れたらすぐ雨戸を1枚開けること(震災ではどの戸も開かなかった)
 (3) 米と小銭を常に用意しておくこと(3日くらい後から炊き出しが始まった)
 (4) 町内のうわさは信じないこと。

【文責:知取気亭主人】

写真で見る関東大震災』 
【編者】小沢 健志

出版社】:筑摩書房 (2003-07-09出版)
【ISBN】:4480038612 (2003/07/09出版)
【ページ】:248p (
15cm)
【本体価格】:\1,000(税別)

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