一昨年の末から昨年の初めにかけて、「世界がもし100人の村だったら」(池田香代子
再訳、C.ダグラス・ラミス
対訳、マガジンハウス)という本が話題になった。当時テレビや新聞などに良く登場したので読まれた方も多いのではないかと思うが、Eメールで世界に広まった「平和を願う詩集」とでも言えるもので、短編ではあったが「今の日本人がいかに恵まれているか」考えさせられる一冊であった。
この本が平和を願って出版されたものだとすれば、今回紹介する「1秒の世界」(責任編集
山本良一、編集 Think the Earth
プロジェクト、ダイヤモンド社)は環境保護をテーマに編集され、「このまま何もしないままでいいのですか」と我々に問いかけ、警鐘を鳴らすために出版された本だと言える。やはり短編ではあるが内容の濃い本である。
人間が呼吸する空気の量や鼻腔にある繊毛の振動数など人体に関わる事からグリーンランドの氷河が溶ける量や酸素が減少していく量など地球環境に関わる事まで60項目について、1秒間の現象を具体的な数値で示している。巻末に記載されている膨大な量の参考文献を基に示されるこれらの数値は、具体的であるだけに「え!
そんなになるの?」、「うそ!
それしかならないの?」とビックリさせられるとともに極めて説得力がある。
例えば、人類にとっての緊急課題となっている地球温暖化、その最大原因といわれる二酸化炭素についての項目では、『1秒間に体育館32棟分、39万m3の二酸化炭素が排出されています』の大見出しに続けて、
『石炭や石油などの化石燃料を大量に使うことによって、1秒で762トン、39万m3の二酸化炭素が排出されている。1950年に比べ4倍以上の排出量で、このうち384トンが吸収されずに蓄積され続け、大気中の・・・・・・・・・・・・・。(中略)森の樹木が二酸化炭素を吸収し、酸素に変えることは良く知られている。しかし、杉の木5万本でも、1秒で吸収できる二酸化炭素は0.01m3程度に過ぎない』(※太文字、下腺は知取気亭主人による)
と身近な杉を用いた説明文を付けている。5万本でたったの0.01m3しか吸収できないなんて、知っていましたか?
この計算でいけば、蓄積され続ける二酸化炭素を杉の木だけで吸収させると
39万m3 ÷ 762トン × 384トン ≒ 20万m3
20万m3 ÷ 0.01m3 × 5万本 = 1兆本
もの杉が必要となり、いかに膨大な量が蓄積され続けていかが良く分かる。
また、「世界的な水不足に日本がどのように関わっているか」も扱っており、食料に焦点を当てる切り口は極めて分かりやすい。『1秒間に、食糧を輸入することで2,000m3の日本の水を使わずに過ごし・・・』と我々の日常生活がいかに他国の水に依存しているかを示し、『世界の水不足は決して他人事ではない』と結んでいる。食料自給率が40%(カロリーベースで示した総合自給率。農林水産省発表の「日本人の食卓の現実(H.14年6月)」による)を切ろうとしている日本は、世界の水不足解消に向けての貢献は勿論のこと、食生活そのもののあり方も問われている。
日頃何気なしに暮らしている日常生活も地球環境と無縁ではなく、一人一人の環境負荷は僅かではあるが積み重なると膨大な負荷になること、そしてその負荷を取り除く為の特効薬として「一人一人の環境負荷をもっともっと少なくしようじゃないか」、そんなメッセージが伝わってくる本である。子供からお年寄りまで、沢山の人に読んでもらいたい。難しい理論はまったく書かれていないので大変読みやすい。子供たちが夏休みのこの時期に、是非、親子で読まれることをお勧めする。 |