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『最大瞬間風速74.1m/s』

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   2003年9月19日

 台風14号の被害状況がテレビで映し出されている。宮古島での被害状況を見ると、特に風による被害が目立ち、電柱が倒れ、大木が薙ぎ倒されている。想像を絶する強風が襲ったことがハッキリと分かる。11日のNHKラジオでも、「宮古島では9月11日午前3時過ぎに、観測史上4番目となる最大瞬間風速74.1mの強風を観測した」と報道をしていた。風速74.1mでも物凄いと思うのに、それ以上の激風があったとは驚きで、早速調べてみることにした。参考文献は、理科年表である。
 次の表が、理科年表を参考に私が加筆・作成した「最大瞬間風速」と「最大風速」の昨年までの1位〜10位観測値一覧表である。なお、「最大瞬間風速」と「最大風速」で同じ色は同じ台風を示す。(コラ)のような括弧書きの名前は、石垣島地方気象台、宮古島地方気象台のホームページから引用した。また、各観測地の統計開始時期がバラバラであること、例えば表の中で一番早い銚子と石垣島は1897年に開始されたのに対し、最も遅い室戸岬は64年後の1961年に開始されていることを頭において、表を見ていただきたい。

最大瞬間風速(※1)

最 大 風 速(※2)

風速
(m/s)
観測地点 観測日 原因 風速
(m/s)
観測地点 観測日 原因

85.3

宮 古 島 1966年 9月 5日 第2宮古島台風
(コラ)

69.8

室 戸 岬 1965年 9月10日 台風第23号
≧84.5 室 戸 岬 1961年 9月16日 第2室戸台風 60.8 宮 古 島 1966年 9月 5日 第2宮古島台風
(コラ)
78.9 名 瀬 1970年 8月13日 台風第9号 53.0 石 垣 島 1977年 7月31日 台風第5号
(ベラ)
73.6 那 覇 1956年 9月 8日 台風第12号 49.5 那 覇 1949年 6月20日 デラ台風
≧70.2 与那国島 1994年 8月 7日 台風第13号 48.8 石 廊 崎 1959年 8月14日 台風第7号
70.2 石 垣 島 1977年 7月31日 台風第5号
(ベラ)
48.0 銚 子 1948年 9月16日 アイオン台風
67.8 八 丈 島 1975年10月 5日 台風第13号 47.8 与那国島 1965年 8月18日 台風第18号
≧67.0 徳 島 1965年 9月10日 台風第23号 45.4 伊 良 湖 193810月21日 伊勢湾台風
66.2 牛 深 1999年 9月24日 台風第18号 44.2 八 丈 島 193810月21日 不明
64.0 石 廊 崎 1959年 8月14日 台風第7号 43.7 久 米 島 1968年 9月23日 第3宮古島台風
(デラ)

(理科年表(2003年版)に加筆)

※1:一瞬でもいいから観測された最も強い風。なお≧の値は、記載された値まで観測できたが、それを超える観測記録が得られなかったことを示す。
※2:平均風速(10分間の平均風速)のうち、最も大きな平均風速を言う。
 

 調べてみて驚いた。最大瞬間風速が85mを超える物凄い観測値もある。どれ位凄いか時速に直してみると、秒速74.1mで266.76q/hr、85.3mではナント307.08q/hrととてつもない値になる。新幹線と同じ、或いはそれ以上のスピードである。これでは大木が薙ぎ倒されるのも無理はない。
 どの程度の風でどの様な被害が出るのか知りたくなり、風速と被害の目安になる情報を調べてみると、石垣島地方気象台のホームページに、「平均風速が25m/s以上になると人は立っていられなくなり30m/s以上になると屋根が飛ばされたり木造住宅の全壊が始まる」と書いてあるのを見つけた。今回観測された風速の約半分(平均風速と瞬間風速の違いはあるが)でも木造住宅が壊れ始まる訳だから、改めて今回の凄さが分かる。
 調べていくうちに、理科年表に載っている1位〜10位が各観測地点で観測された最大値を比較して順位付けされていることも分かった。つまり、表には各観測地点は1回しか出てこないが、実際には同じ観測地点で10位までに入る強風を複数回観測している場合があるということである。例えば、第2宮古島台風で85.3m/sの最大瞬間風速を観測した宮古島では、第3宮古島台風により「最大瞬間風速79.8m/s、最大風速54.3m/s」を記録している(宮古島地方気象台のホームページより)。それぞれ3位に当たる観測値であるが、表には記載されていない。したがって、11日付の朝日新聞朝刊に、今回観測された74.1m/sが「観測史上7番目」と書かれていたのも頷ける話である。
 何れにしても、台風が持つエネルギーは莫大なもので、伊勢湾台風を始め過去に多くの台風が日本に上陸し、数多くの人命、財産を奪ってきた。気象衛星が打ち上げられ天気予報の精度が格段に良くなっても、毎年必ずと言っていいほど台風による被害が発生している。その度に自然の猛威に対する畏怖の念を禁じえないが、大型台風上陸の報道に触れると名前が浮かんでくる本がある。柳田邦男の「空白の天気図」(新潮社)である。

 敗戦から約1ヶ月後の1945(昭和20)年9月17日九州南端の枕崎付近に上陸した巨大台風(枕崎台風、枕崎で916.6hPaを観測)が、原子爆弾で破壊された広島に追い打ちをかけるように甚大な被害を与えた。「空白の天気図」は、僅か1ヶ月半の間に2度も未曾有な被害を被った広島地方気象台職員の、壮絶な戦いの記録である。
 天気図の中でデータのない気象観測点は、何も記入されない白丸のままである。柳田は、白丸の広がった天気図を「空白の天気図」と読んだわけだが、白丸の多さは戦争による被害であり、台風による被害であった。そして、1941(昭和16)年12月8日から始まった気象管制(天気予報の発表、及び気温、降水量など観測データの一般への発表禁止)の3年8ヶ月(1945年8月22日再開)が、気象台としての空白の期間と成っていた。気象台にとってこの空白の期間はあまりにも長く、観測機器は勿論、暴風警報発令のやり方や報道機関への連絡など、ハード、ソフトどちらも不備のままの状況下であった。そのような時に襲った巨大台風であり、記録的な暴風雨のなかで必死に続けられた観測の描写は、非常に緊迫感があり胸を打つものがある。
 私の大好きな本の一冊である。是非、皆さんに読んでいただきたいが、残念ながら単行本も文庫本も書店では入手できないらしい。残された道としては、オンデマンドで注文するか(新潮オンデマンドブックス <http://www.shosai.ne.jp/shincho/index.html>4400円)、古本屋か図書館で探す方法がある。

  最後に、今回の文章を書くのに参考にしたホームページアドレスを記しておく。
  石垣島地方気象台 :http://www.okinawa-jma.go.jp/ishigaki/home.htm
  宮古島地方気象台 :http://www.okinawa-jma.go.jp/miyako/
 
http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jma/jma-eng/jma-center/rsmc-hp-pub-eg/RSMC_HP.htm
 

【文責:知取気亭主人】

『空白の天気図』 
【著者】柳田 邦男

出版社】:新潮社
【ISBN】:4103223014 (1982/11出版)
【ページ】:273p (
20cm)
【本体価格】:\1,200(税別)

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