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『魂を揺さ振られてみませんか?』

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   2003年12月05日

 今頃の季節になると、決まって本屋の店頭に並ぶカレンダーがある。味わい深い絵と胸を打つ詩が描かれたそのカレンダーは、不慮の事故により肩から下が全て麻痺してしまうと言う過酷な人生を負わされた星野富弘氏の作品である。 
 今から20年程前、私は原因不明の病気で40日間入院をしたことがある。その時同室となった小父さんから、とてもいい本だよ、と言われて借りたのが「愛、深き淵より」(立風書房、星野富弘著)であった。その時初めて星野氏の作品と出会い、初めて本を読んで泣いた。そして、涙を止めることができなかった。

 登山を愛し器械体操を得意とする新任体育教師の星野氏が、空中回転の模範演技で頭部より落下し四肢完全麻痺の重度障害を負ったのは、赴任の僅か2ヶ月あまり後のことである。 
 本書は、肩から下が動かない絶望的な状態の中で母と二人三脚で歩んだ障害との闘い、そして詩画に楽しみを見つけ才能を開花させるまでの心の葛藤と周りの人達との触れ合いを、詩を織り交ぜながら淡々と且つ赤裸々に描いている。自分の意志で四肢を動かすことができない過酷な状況の中で、これ程までに愛に溢れ命の尊厳を謳い上げた本を私は知らない。 
 介助してくれる人がいなければ食べることさえできない寝たきりの状態で、僅かに動かすことができる口にペンをくわえてカタカナを書き、漢字を練習し、手紙を認め、絵を描き、やがて詩を詠み、詩画にその才能を発揮するまでの9年間を綴ったドラマは、私の魂を強く握りしめ激しく揺さ振った。本書にはペンを口にくわえて初めて書いたカタカナの写真が添えられているが、その拙い字から詩画となった作品の見事さに至る苦労と努力を想うとき、涙があふれ出るのを止めることができなかった。人間はこんなにも強く、逞しく、そして優しくなれるのだ、と言うことを教えてくれた本である。

 昨今は、何かと憂鬱な事件が多い。こんな時こそ、魂を思い切り揺さぶられ、命の尊厳について考えさせられる経験をすること、が必要だと強く感じている。その両方を経験するにはこれほど良い本はない。是非、読んでいただきたい。

 最後に、私の好きな詩を二編紹介して、本書のすばらしさを感じ取っていただければと思う。

   『黒い土に根を張り
    どぶ水を吸って
    なぜ、きれいに咲けるのだろう
    私は大勢の人の愛の中にいて
    なぜみにくいことばかり
    考えるのだろう』

   『神様がたった一度だけ
    この腕を動かして下さるとしたら
    母の肩をたたかせてもらおう
    風に揺れる
    ペンペン草の実を見ていたら
    そんな日が
    本当に来るような気がした』

【文責:知取気亭主人】

『 愛、深き淵より 』
 
筆をくわえて綴った生命の記録
【著者】
星野富弘 

出版社】:立風書房
【ISBN】:4651140068
        (
1981/01出版)
【ページ】:
19cm 197p
【本体価格】:\
1,000(税別)


 

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