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女子サッカーの勝利、それに続くヤワラちゃんと野村選手の金メダル獲得で始まったアテネオリンピックが、いよいよ面白くなってきた。北島選手の期待通りの活躍や28年ぶりの男子体操の団体金メダル獲得の快挙など、日本選手の活躍に日本中睡眠不足に陥っている。予想外といっては失礼だが、これまでにない日本選手の活躍に、どうやら今しばらく眠たい目をこすりながらの観戦が続きそうだ。睡眠不足はしんどいけれど、自信を失くしたうつむき加減の日本に前向きな気持ちを与えてくれる、そんな活躍がまだまだ見られるような気がする。眠くても仕方がない、アルコールの飲みすぎに注意しながらテレビの前にかじりつき、陸上競技を始め未だ登場していない日本選手に大声援を送ろう。少なくとも、最近メディアを賑わしている不祥事のニュースを見聞きするより、はるかに健康的だ。
熱中症の影響でもないのに、「原子力発電所内での配管からの蒸気漏れ事故、及びこれに関連した点検漏れ」と「温泉をめぐる不当表示(詐欺?)」の二つの不健康なニュースが、“これでもか!これでもか!”とテレビから流れてくる。三菱自動車の問題隠しがあれだけ世間を騒がしたのに、またぞろ同じような不祥事が次から次へと明るみに出てきているのだ。どうしてこんなに続くのだろうか。やはり、「臭いものには蓋をしろ」式の日本人特有の隠蔽体質が、体に染み付いてしまっているからだろうか。
冒頭に書いたオリンピックに代表されるスポーツの世界では、「臭いものには蓋をしろ」では絶対に勝てない。スポーツで勝利するためには、@勝つために必要な戦力の洗い出し、A対戦相手と味方の徹底的な戦力分析、B劣る戦力の強化方法立案、C強化方法に従った練習の徹底、を実践しなければならない。つまり、「敵を知り、己を知る」ことが基本となるわけで、特に「味方にとって都合の悪い情報」こそが、味方の戦力をアップさせる最大の情報となる可能性が高い。ところが、今回の温泉をめぐる不祥事など、まさにその「都合の悪い情報」の取り扱いを間違ってしまった典型的なものといえる。これでは競争相手の温泉街に勝利することは難しい。やはり、都合の悪い情報も「情報の一つ」として真摯に受け止め、蓋をしない方法で対策を講ずるべきであった。「味方にとって都合の悪い情報」をどのように分析し、どのように対応していくかが、その後の行く末を大きく左右することは歴史が雄弁に物語っているのだが、残念ながらそのような歴史上の事実が表舞台に登場しないまま忘れ去られているところに、日本人の弱さが垣間見え、いつまでたっても同じような不祥事が後を絶たない原因があるように思えてならない。
昭和16年12月8日は太平洋戦争開戦の日だが、その開戦の約8ヶ月前、昭和16年4月1日に「内閣総力戦研究所」といういかめしい名前の研究所が、内閣直属機関(当時の内閣は近衛文麿内閣)として発足していることをご存知だろうか。随分と前の記憶で定かではないが、私が学んだ歴史の授業には登場していないはずだから、ご存じない方も多数おられることだろう。正直なところ、ある本に出会うまで私自身もまったく知らなかった。しかし、その研究成果にはもっと驚いてしまう。ある本とは、日本道路公団民営化問題で委員として名を馳せた猪瀬直樹が書いた「昭和16年夏の敗戦」(文春文庫)である。「味方にとって都合の悪い情報」に蓋をしてしまった最悪の例として、また記憶にとどめておきたい史実として、本の内容を簡単に紹介したい。
研究生は各省の推薦によるもので、日本銀行、日本郵船をはじめ民間人6名を含み、軍人や文官など総勢36名の逸材が集められた。研究生たちは、日米開戦に向け、「武力戦」、「経済戦」、「思想戦」を学んで行き、やがて模擬内閣を組閣して日米戦をあらゆる角度からシミュレイトするわけだが、その結果は本とタイトルにもなっているように日本必敗であった。昭和16年8月27日、首相官邸で二つの内閣が対峙し、研究生たちの模擬内閣は日米戦日本必敗を必死に訴えるが、「都合の悪い情報」として蓋をされ、我々がこの事実を知るには、多くの犠牲と本書の出版までの永い年月を必要とすることになる。
「歴史は繰り返す」という諺があるとおり、日米開戦から半年後のミッドウェー海戦でも同じような失敗を繰り返すことになるが、そのあたりのところは、柳田邦夫の「この国の失敗の本質」(講談社)に詳しく書かれているので、そちらを読んでいただきたい。
いずれにしても、いつまでも「都合の悪い情報」に蓋をしてしまうようでは、日本の行く末に明るい未来はない。平和ボケと揶揄される今の日本でも、「都合の悪い情報の受け止め方」を誤ると、とんでもないしっぺ返しを受けるのは、バブル崩壊以来幾多の会社が犯してきた不祥事とその後の混乱によって明らかだ。もう一度、先人達が犯してきた失敗に学び、「都合の悪い情報の受け止め方」を誤らない心構えをしておくことが、厳しい経済情勢の中で生き残っていくために必要だ。繰り返される不祥事ニュースとオリンピックで活躍している選手達を見ていて、そんな思いを強くした。 |