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『冬の味覚』

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   2004年 3月 5日

 29日の日曜日、輪島の病院で3週間ほど研修する息子を送りがてら久し振りに能登半島に行った。輪島に行く途中、味噌作りを頼んでいるMさんのお宅にお邪魔した。以前は我が家でも作っていたが、『無農薬栽培の大豆で作る2年ものの味噌は旨いぞ。どうだ、うちで作らんか』との申し出を受け、それではと頼んでおいた。そのMさんから電話が入り、『味噌がそろそろ食べ頃だぞ。取りに来ながら牡蠣と蕎麦を食ってけや』と大変ありがたいイベントのお誘いに、二つ返事で出かけた。
 Mさんは、昨年7月に開港した能登空港の近くで米や野菜を無農薬で作っている農家だが、バイタリティー溢れる行動力と人柄に引き寄せられるのか、自然と人が集まる。この日も、味噌づくりに来た人や蕎麦打ち名人等、子どもから大人まで総勢30人ぐらい集まっただろうか。多いときにはもっと沢山集まるそうだ。そのMさんが企画してくれたイベントは、「味噌の仕込み」、「牡蠣焼き」、さらには「牡蠣飯、中華おこわ、手打ち蕎麦の堪能」と、どれもこれも楽しみなものばかりだ。
 イベント会場となった広い作業場の中には、大豆を煮る大鍋薪ストーブ牡蠣用のU字溝が用意され、我が家の3人は図々しくも真っ先にU字溝の前に陣取り、赤々と燃える炭に手をかざしながらやがて訪れる至福の時を待っていた。“私の顔は”というと会社で見せる苦虫を潰したような顔つきとは違い、何とはなしに頬がゆるみ口元がだらしなくなっているのが自分でも分かる。一斗缶に入っている満杯の牡蠣を横目で見ながら、ビールをご馳走になっていると、自然と目尻が下がり日頃の雑音から解放される。赤く燃える炭も、寂しくなった懐こそ暖めてはくれないが、ホンワカとした気持ちにさせてくれる。

 『何となく有り難くなってくるな』と妻と話していると、『3年ものの牡蠣だから大きいぞ』と、Mさん。待っていた牡蠣が金網の上に載せられていく。載せられていく牡蠣を見ながら不思議なことに気が付いた。およそ貝と名の付く生き物は、その種類によって形が気持ちの良いほど統一されているものと思っていたのに、牡蠣は思いの外不揃いだ。草履のように薄っぺらいものもあれば、甲高靴のように分厚いものもある。幅広も細長もある。味に違いはないだろうが、人間で言えば体格の違いに当たるのだろうか? ところが身の方はというと、外観程の違いはない。「そう言えば、人間の心臓も握った拳程の大きさで体格差程の違いはないから、当然といえば当然か」、とその時は納得してみたが、やはり腑に落ちない。
         

        

形も大きさも不揃い

  

これは甲高形(でも美味しかった!!)

        
 家に帰り、インターネットで調べてみたが、さすがに牡蠣貝の形に言及しているサイトは見あたらない。代わりに面白いサイトを見つけた。北海道新聞が主催する「もっと北海道 食材百科」(http://www5.hokaido-np.co.jp/shoku/foods-various/)である。当然北海道の食材情報を中心としているが、牡蠣にまつわる情報も満載で、蘊蓄(うんちく)のあるところを披露できるほどの知識を得ることができる。例えば、私も聞いたことがある「Rがつかない月(5月〜8月)には牡蠣を食べるな」が実は俗説で「6月が一番旨い」という飲食業者も多い、とか8月や9月は産卵期にあたり、産卵後は旨味(栄養価の高いグリコーゲン)が抜けて“水ガキ”となってしまう、などである。夏の牡蠣はあたるなども違うようだ。

 おっと、少し横道にそれた。話しを牡蠣焼きに戻そう。さすがに朝採れ、焼きたての牡蠣は美味い。少し口を開きエキスがジュワーと出てきたやつを手に取り、『貝さんご免なさい』と心で呟きながら口に入れれば、海の香りと濃厚な旨味が幸せを運んでくれる。海のミルクとは良く言ったものである。『ソムリエになったつもりでこの美味さを表現しろよ』と息子に言ってはみたが、『美味過ぎて上手く言えない』との返事に、『それも分かると』と言いつつ二つ目の至福を味わった。貝に口を付け、僅かに残ったエキスを吸えば、牡蠣の故郷“穴水湾”の潮騒が聞こえてきそうだ。『そうだ、帰りにこいつの故郷を見に行こう』と心に決め、三つ目の大きなやつに手を伸ばした。

【文責:知取気亭主人】


牡蠣の故郷、小母さんが手にしているのは1年ものの牡蠣を入れた網

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