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『鳩の災難』

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   2004年08月13日

 連日真夏日が続いている。朝、顔を合わせれば『暑い!暑い!』が挨拶代わりだ。会社に行っても、『おはよう』に続く言葉は、『今日も暑くなるぞ! いやになるな』が決まり文句に成ってしまった。他の言葉がなかなか見当たらない。しかし、暑いといっても人間は、いやいや「日本人は……」と特定してもよいのかもしれないが、動植物に比べ文明の利器を駆使できる分、暑さ対策の選択肢はかなり多い。特に、自らの意思で自由に移動できない植物とは比べるべくもない。その人間でさえ熱中症で倒れる人が後を絶たないのだから当然といえば当然なのだが、動物にもどうやら熱中症が蔓延しているようだ。

 毎年我が家のクチナシの木をレストラン代わりにしてくれるアゲハチョウが、今年は一向に姿を見せない。例年であれば梅雨の中ごろから8月一杯まで丸々と太った幼虫が集団発生し、“葉をご馳走になったお礼に”と黒ゴマに似た糞をプレゼント(?)してくれるのだが、今年は食べられた形跡もなく、あまり嬉しくないプレゼントにも未だにお目に掛かっていない。クチナシの木にとっては有難いことではあるけれども、待ち遠しくもある。
 昨年は、「どうぞ、どうぞ」と食べるに任せていたら、遠慮会釈もなく見事に葉を食べつくしてくれた。お陰で今年の開花がずいぶんと遅れ、花の数も例年の三分の一程度に減ってしまった。「今年は、申し訳ないが勝負させていただく」と秘かに間引きの決意をしていたのだが、相手が現れないので勝負にならない。このままいけば、どうやら今年はクチナシにとって安泰の年になり、来年の春には例年通りあの大好きな香しい匂いが期待できそうだ。その一方で、もう来ないのではないかと 不安でもある。昔テレビで流れていたコマーシャルの中で『幾つになっても来るものがこないと不安』の台詞を口にしていた小母さんの気持ちがよく分かる(?)。
        

        
 
               コクチナシの花                         アゲハチョウの幼虫                            プレゼントの糞

   

 冗談はさておき、アゲハチョウが姿を見せないのは、多分この暑さのせいだ。これだけ暑ければ、きっとアゲハチョウも熱中症で活動できないのだろう。会社に涼みに来る鳩を見ていると、私のこの推測にも確信が もてる。

 日中の最も気温が上がる昼近くになると、日陰を求め会社の庭に“鳩のつがい”がやって来る。春先から時々顔を見せるようになったのだが、日陰になったフェンスに止まり、仲良く並んで涼んでいるように見える姿は実に微笑ましい。
 ところが、このつがいとおぼしき二羽の鳩が災難に遭った。窓を開けていたせいもあるが、どうした弾みか社屋に入ってしまったのだ。金曜日の午後3時過ぎ、我々が食事をするテーブルと 椅子の背もたれに止まっている二羽の鳩を目撃したのだが、私にはまるで強い日差しを避け涼んでいるように見えた。仕事のこともあり深く気に留めもせず放って置いたのが鳩にとって不幸の始まりだった。「鳩は自分の意思でその場所に止まっているのだ」と勘違いした私の洞察力のなさが彼らの災難をより深刻にしてしまった、と気がつくのは2時間後のことだ。
 打ち合わせをしていた部屋を出て、鳩が涼んでいたスペースに行ったところ、二羽いたはずが一羽になり、窓ガラスに体当たりしたと思しき幾つもの汚れと羽毛が散乱していることに気が付いた。見た瞬間に「外に出たいけれど出られない」状況であることは容易に察しが付いた。窓は開いているのだけれど、全面ガラス張りのせいでどこが外に出られるところなのか分からないのだ。仲間三人と一緒に外に出してやろうとするのだが、必死に外に逃げようとして一向に捕まらない。驚かさないようにそっと捕まえようとしているのだけれど、 その度に窓ガラスに体当たりし羽毛が飛び散る。
 幾度か失敗した後に、「やっと捕まえた」と誰もが思った瞬間、悲劇は起こった。そっと捕まえたはずなのに、まるでトカゲがしっぽを自ら切り離すように尾翼がスポッと抜け、また逃げてしまった。あの扇形に広がった尾翼がそっくり取れてしまったのだ。何の抵抗もなく。思わぬ出来事に四人は驚愕したが、特に捕まえようとしたK氏の驚きようは例えようがない。ぬけた尾翼を持ったまま、暫く茫然自失としていた。
 窓ガラスへの体当たりと尾翼が取れてしまったことで大人しくなったところを何とか捕まえ、外に出してやったが動きは鈍い。四人で『動物病院にでも連れて行かないとだめじゃないか』と、次の予定時間を気にしながら相談していると、わずかだが飛び立ちフェンスに止まった。飛び方に不自然さはないものの、飛翔に絶対必要だと思っている尾翼を無くしてしまった鳥が、果たして生存していけるのか心配だ。『大丈夫かな……』とお互い自問自答しながらも、次の予定時間が迫ってきたので鳩には申し訳なかったが、後片付けを残った一人に託し会社を後にした。
 次の日、残った一人に様子を聞くと、『気が付いたらいなくなっていた』ということであるから、何とか飛んでいったのだと思うが、やはり心配だ。鳩自ら招いた結果とはいえ、鳩に取ってはとんだ災難であった。私にとっても悔いが残る出来事であったが、こんな「鳩の災難」も連日続く真夏日のせいだとは考えすぎだろうか。

 

【文責:知取気亭主人】

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