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生まれて初めて、1白2日のお泊まり健康診断を受けた。保育園・幼稚園児のお泊まり保育と同じで、不安と期待(興味)が入り交じった複雑な心境だ。ただ違うところは、お泊まり保育が楽しい思い出となるのが殆どであるのに対して、健康診断は不安を増大させることが多い、というところである。今回の私の場合も、不幸なことにその予感は的中した。
血液検査、聴力・視覚検査、胸部レントゲンなど一般的な検査とともに、一番やりたくなかった内視鏡検査を、上と下から受けた。当たり前のことだが、受診する側は慣れていない。しかも、当然のことながら「重大な病巣がないか、苦痛はないか」など、不安である。勿論、「どんな色をしているのか、どんな内壁になっているのか」など、怖いもの見たさの興味もあることはあるのだが、不安の大きさには負ける。しかし、検査の先生はベテランである。インフォームドコンセントが徹底されているのか、バスガイドよろしく、モニターを患者に見せながら懇切丁寧な説明をしてくれる。その手慣れた操作と説明に何となく安心はするのだが、異物が入った違和感と何を言われるのかという不安感は、内視鏡が体外に出るまで拭い去ることは出来ない。健康のためとは言え、やはり好き好んでやるものではない、というのが実感だ。
ところで、一つ驚いたことがある。検査室は別々なのだが、上からの検査と下からの検査を同じ先生がやるのだ。“たまたま”なのか“当然”なのかを確認しなかったが、検査の順序は「上→下」であったから良かったものの、逆であったら異なる内視鏡を使うとは言え、何となく気色が悪い。そんなことを考えていたら、『では始めますよ』の元気な声に我に返り、モニターに映し出された意外と綺麗な色をした直腸の内壁に見入ってしまった。
綺麗な色をしていたこともあり一番不安に思っていた消化器系には問題はなかったものの、諸々の検査の結果、予想通り循環器系で幾つか疾病・疾病予備軍を指摘された。俗に言われる生活習慣病だ。以前から気にはなっていたが、検診の最後に受けた老医師の“症状が悪化した場合の説明”は、老練さも手伝ってか検査前の不安をより増大させるには十分な威力を持っていた。ただその中で、酒の飲み過ぎが指摘されなかったのは不幸中の幸いで、これも日頃の行いの賜物だ(?)と喜んでいる。実は大きな声では言えないが、毎日の飲酒量を過少申告したことも多少は影響しているのかもしれないのだが……。
内心ほくそ笑んでいたら、そんなことは見越しているようなにこやかな顔で、老医師は運動不足を指摘した。
「運動不足を指摘された以上は、なんとか次回は指摘されないように運動不足解消をしなければいけない」、と変なところで医者に対する対抗心が頭をもたげた。“よし! それでは”ということで、暫く休んでいた夜の速歩を再開した。家の近くを流れる浅野川縁に設けられた遊歩道約4.5kmを夕食後早足で歩くのだが、仕事の都合で9時過ぎと遅い時間になってしまう。時間が時間であることと遊歩道沿いには住宅も点在することもあり、出
歯亀と間違えられないよう“横道にそれること”、“立ち止まってキョロキョロすること”は厳禁である。ひたすら歩く。私と似たような年格好の仲間(?)と時々すれ違うから、間違えられることはないと思うが、リスク管理はしっかりしておかなければいけない。
ところで、お盆明けから歩き始めたのだが、歩いてみて驚いた。日中はまだまだ真夏日が続いているのに、遊歩道の回りは秋の虫の大合唱である。夜露が降りるようになったな、と思っていたが、彼らのセンサーは本当に優れものだ。秋の気配を敏感に感じ取っている。
至る所で、クツワムシ、コオロギ、スズムシ、カンタンの大合唱である(正確に書けば、虫の前に“多分”がつき、虫の後に“など”がつく)。場所によってはやかましいくらいである。スズムシやカンタンの美しい音色を楽しみたいのだが、クツワムシなどの声にかき消されてしまい、なかなかこちらの思い通りにはいかない。それでも、ひたすら歩く単純な速歩に、日中にはない楽しみを与えてくれる。歩きながら、「そう言えば、クツワムシはどんな形をしていたかな」と考えていたら、昔驚きの目で見た昆虫の写真集が我が家にあったことを思い出した。栗林慧の写真集「昆虫の世界」(日本カメラ)である。
子供がまだ小さかったこともあるが、何回も見た。鮮やかな色と、特殊カメラで撮影された昆虫のリアリティー溢れる姿態、そして人間の目線では見ることができない決定的な瞬間は、衝撃ですらあった。今、見返しても新鮮な驚きが蘇ってくる。食事、交尾、産卵、誕生、育児、排出、潜む、表情、飛行、労働、と昆虫の生態を解き明かすように編集された写真一枚一枚が、まるで生きているように見える。お見せ出来なくて残念だが
、中でも「メダカを捕食する瞬間のギンヤンマ
の幼虫(ヤゴ)」、「巣を冷却するために水を運ぶキアシナガバチ」、「アミメカゲロウの飛行」の3枚が私は大好きだ。“表情”のところに納められている「シロスジカミキリ」は仮面ライダーそのものだし、“排出”に収められている「カブトムシが片足を上げて排泄している瞬間」や、“飛行”の「ヤハズカミキリの一種が後ろ足を広げる姿」はどこかユーモラスだ。こんなにも豊かな表情、華麗な姿態、残酷な捕食をするのかと、昆虫と等身大で撮られた写真の迫力に圧倒されてしまう。
小さなお子さんをお持ちの方には、是非手にとって見ていただきたい本である。大人にとっては子供の頃の感性が蘇り、子供の感性は益々磨かれるはずである。
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